第8戦:俺の兄弟達がテレビ収録で無双する件について
1.
朝独特の、穏やかな陽射しに包まれて。すう、すうと、心地良く眠っていた俺だけど。
次の瞬間、その静寂も――……。
「牡丹お兄ちゃん、おっきろー!!」
という、けたたましい声によって打ち破られ、むなしくも一瞬の内に姿を消した。
「牡丹お兄ちゃん、おっきろ、おっきろ!」
「ぐふっ……!?? ごほっ……」
「牡丹お兄ちゃんってばー」
「分かった、分かったから。早くどいてくれよ。なんだよ、今日はやけにご機嫌だな」
「ふふっ。あのねー、それはねー、下に行ってからのお楽しみだよー」
芒は、満面の笑みを浮かばせて。俺の腹の上から降りると、一人先に部屋から出て行く。
「なんだよ、芒ってば。今日の朝食、アイツの好きなオムライスなのかな?」
子供って、単純で良いよな。
いつものように年寄り臭い感想を漏らしながらも、まだ覚醒し切ってはいない頭をそのままに、俺は階段を下りて行く。
「ふわあ、おはようございます」
「おはよう、牡丹。牡丹にも、はい、カタログ」
「へっ、なんですか、これ。ええと、『幸せ家族策略』……?」
部屋に入るなり藤助兄さんに手渡された分厚い冊子の表紙を、俺はじろじろと眺める。
「あれ、知らない? 毎週土曜日のゴールデンタイムに放送されてる、視聴者参加型のバラエティ番組だよ。芒が応募したら当選したんだ」
「ふうん、そうだったんですか。それで芒のやつ、あんなにご機嫌だったのか。
でも、すごいな。当選するなんて」
「芒は人一倍運が良いからね。でも、まさか応募してたなんて知らなかったよ」
「あのね、みんなを驚かせようと思ったの」
「それで、具体的にはどういう番組なんですか?」
俺が訊ねると、藤助兄さんが説明してくれる。
なんでも家族みんなで番組側が用意したゲームに挑戦して、全部クリアできれば、自分達の好きな賞品がもらえるそうだ。ちなみに俺達が出演する回は、生放送スペシャルになるらしい。
「ほら、さっき渡した冊子が、もらえる賞品の載ってるカタログだよ。色々あるから、欲しいのを選んで」
「へえ、本当だ。ゲームソフトからコンピュータ機器、それに、家具に電化製品まで。なんでも揃ってますね」
「だろう? 賞品総額は、一家族に付き百万円だって。一人分に換算したら、大体十万円前後だね」
「十万円分ですか!?」
十万円――。
俺のような庶民派高校生にとっては、とっても魅力的な響きだ。
だけど。
「でも、そのためには、テレビに出ないといけないんですよね?」
俺が問いかけると、梅吉兄さんが、そうだろうと言った後、
「なんだよ、牡丹。嫌なのか?」
「だって、テレビなんて恥ずかしいじゃないですか」
お金のためとは言え、だ。それに、出た所で、必ずもらえるとも限らない。
俺が渋っていると梅吉兄さんは、
「ちっ、ちっ、ちっ。甘いな、可愛い弟よ。今回、この番組に参加するのは、賞品欲しさだけじゃないんだなあ、これが」
と、得意そうに言う。
「えっ。他に何かあるんですか?」
「なあに、よく考えてみろ。いいか、牡丹。お前は親父に会いたいんだよな?」
「えっ……? ええ、できることなら。取り敢えず一発ぶん殴りたいです」
「おお、物騒だねえ。だけど、俺達は親父の顔を一切知らない。だが、もしかしたら親父は、俺達を知ってるかもしれない。
そこで! だ。 テレビに映って俺達の存在をアピールして、逆に親父から名乗り出て来てもらうって作戦だ。
ちなみに、この方法なら宣伝費はタダ! 生きているか、はたや日本にいるか定かではないが、この番組は全国ネット、ゴールデンタイムで視聴率も二桁と非常に高い。親父が見てないとも限らないだろう?」
「な、成程……!」
確かに梅吉兄さんの言う通りだ。一理あるもしこれで親父が見つかれば……! それこそ十万円以上の価値がある。
俺が、
「出ます!」
と宣言すると、
「牡丹はまだ親父のことを諦めてなかったのか」
と、道松兄さんが眉を下げた。
「当たり前です! 俺は絶対に親父を見つけ出して、この手でぶん殴ってやるんですから!!」
「まあ、まあ、牡丹よ、落ち着けって。親父ももちろん目的だが、賞品獲得の件も忘れるなよ。
前回、あんなに金には苦労したんだ。ここらでその褒美があってもいいと思うんだ。
と、言う訳で。ささやかな幸福をゲットするために、家族一丸となってがんばろうじゃないか」
そう指揮を執る梅吉兄さんに倣い、
「天正家、ファイトーッ!!」
というかけ声が、朝の静けさが残る家内に強かに響き渡った。
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