3.

 次に目を覚ますと、何故か瞳いっぱいに、誰だろう……、ああ、藤助さんだっけ。藤助さんの顔が映り込んだ。


 藤助さんは、俺と目が合うと安堵の息を吐いた。



「あっ、やっと起きた。牡丹、大丈夫?」


「うん……。あれ、俺……」



 きょろきょろと辺りを見回す俺の横で、藤助さんは、今度は溜息を吐き出した。



きくのパンチをまともに喰らったんだよ」


「菊……って……?」


「俺達の妹だよ、妹。悪い、悪い。紹介するの、すっかり忘れてたぜ」



「人数が多いのも困りもんだよな」と、横から梅吉さんは軽快に笑う。



「ほら、菊。アイツが今日から仲間に加わった牡丹だ。お前より一つ上だから、兄貴になるな」


「兄さんって、この変態が?」


「なっ……、俺は変態じゃない! あれは事故だ!」



 ぶすうと顔を歪ませる菊に、俺は必死になって弁解するが。だが、一方の菊は、聞く耳持たないという態度だ。ぷいと顔を逸らし、視線さえ合わせようとはしない。



「おい。お前なあ……!」


「まあ、まあ。菊の裸を見たんだろう? 殴られたのはその駄賃だと思って、割り切っちまえよ。菊のやつ、ここ最近、また一段と良い体付きになってるからなあ。ううむ、羨ましいぜ」


「あの、完全に他人事だと思ってますよね。それから言って置きますが、彼女、タオルを巻いてましたから、その……、見てませんよ」


「なんだ、殴られ損か。それは不憫だったな。

 まあ、とにかくこれで本当に全員集合だ。なに、自分の家だと思って気楽に暮らせよ」



 ばしばしと背中を強く叩いてくる梅吉さんに、俺は、はあと乾いた返事をすることしかできなくて。ちらりと、虚ろであろう瞳を揺らす。


 拝啓、天国にいるだろう母さん。俺の復讐は、残念ながらもう少し先になりそうです。それから……。


 あなたが愛した馬鹿親父の所為で、たった一日で七人もの兄弟を得ましたと、周りの喧騒さを他所に。俺は一人、静かに天国の母へと報告した。

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