第18話中の人の話

なんとか、キリがついたか?

サンニアのあの様子なら、闇の精霊との邂逅は成ったはず。

視界にアミーアが見えた。


おっと、そうだ。


「おい、もういいぞ」

声を掛けると、目を開け立ち上がるジョゼ。

「サニーッ」 とすぐにジョゼはサンニアのもとへと駆け寄る。


いとおしそうに、サンニアを撫ぜるジョゼを横目に捕えながら、マリーエッタを呼び出し片付けを命じる。


そうはいってもほとんど汚れてはいないのだがな。まあちょっと魔力とかが吹き荒れて散らかったくらいだ。あれを除けば、だが。


「お待たせしました、ボーセイヌ様」

アミーアだ。

「どうだ?」

「はい。代理の手の者かとおもわれるものが隣室に。さきほど離れました」

なんとか騙せた、か?

余興のためにかたずけさせた客間の一室。その周りに何者かがいないかをアミーアに待機を命じたように見せかけて、筆談で命令しておいた。


「そうか」

やはり、いたか。直接関われば用心の深い叔父のことだ。なにかをしてくるとは予想していたが間違っていなかった。


父親はどちらかというと、短絡的で、力を行使していくタイプだった。分かりやすく悪党も使ったし、増税もしていった。対して、叔父は慎重に情報を集めて、必要に応じて悪党を裏から使うタイプだとこれまでの生活で学んでいた。


あまり、こちらに目を向けてほしくないのは本音だが、世界にも代えられない。


ヤミンダトがこの屋敷にあるのか、ないのか。

叔父の目を盗んで探すのはさすがに無茶だと判断した。


向こう側は古参でどっぷりとつかった忠誠心の高いものたちばかりだからな。向こうでなにかしようものなら筒抜けの直通状態だ。




どこか不満そうな顔をしたアミーアがこちらを見ている。

「なんだ?」

「いえ、なんでもありません」

という顔ではないのは誰の目にもあきらかだろう。

「なんだ?いってみろ」

「なんでもありませんッ」

じゃない顔だろう。それは。

ぼそっと「ありふーるだけずるい」とかいうんじゃない。

アリフールにも特別なことは命じていないんだけどな。ただ、期待通りに動いてくれるので、とても重宝してはいる。

それに、アミーアには汚いことはできる限りはさせたくない。

「はぁ、わかった。仲間外れにしたことは、すまなかった」

「そうです。もっと頼ってくれてもいいとおもいます」

なんでそんな食い気味なのかが、よくわからない。

「善処しよう」

まぁ嫌われるよりかは、いいか。



なぜ、ジョゼが普通に立ち上がっているのか?

ナイフの刃は本物だ。たしかに、一度だけなら、身代わり人形でごまかせるが、1つしかないのだから使えない。


切羽詰まったあの瞬間から始まった大芝居。

なんとしてもサンニアには闇の精霊との邂逅を果たさせなければ世界が滅ぶ。


これだけは何としても成さねばならなかった。だが闇の精霊との邂逅には本人の強い、人の暗い感情が必要だ。

お願いしてできないところがやっかいだった。

けれど、直接そんなことを素面でできる人間なんてそんなにはいないだろう。いや、わりといるのがこの世界ではあるんだが・・・。


オレにはムリだ。できない。


そうして思い返してみると、ゲームのボーセイヌにもそんなところがあった。普段からの言動とは裏腹に結果だけをみれば助けるような行動をしていた。



それはいい。それに、

どうにか条件を達成させるためだけに、サンニアにつらい思いをさせたことに変わりはない。オレにとっては個人よりも世界のほうが大事なんだ。


あと、従属の首輪など、ない。

あとで叔父に聴かれるのは間違いないのでさっさと処分する。そうだな、あの魔力が集まった時に壊れたことにしよう。



ジョゼを刺したナイフ。

全形は短く、仕込みナイフの一種だ。本来のものよりも刃は短い。

ほんとうは刃が引っ込むようなものがほしかったけど、なかった。


あれがあればなぁ。



深く切った手が痛い。

ジョゼのほうはあらかじめお腹周りに刺さしてもいいように緩衝材を忍ばさせていた。背後にたたせて、手元が見えにくいようにしてから勢いよく突き刺した。


派手に突き刺されて倒れるジョゼ。口から血を流す演出はジョゼが勝手に仕込んでいたようだ。思わずぎょっとした。


問題はサンニアのほうだった。

死んだように見せかけなければならなかったため、どうしても、わかりやすさが必要だ。そのため、あらかじめ用意していた赤いエキスを背中でかくしながら、取り出し突き刺す素振りで一度目はそれを破いた。

そして、勢いよく刺しているようにみせるために最初以外は刃の部分を握って、体を実際に叩いた。ドスッ ドスッ ドスッ

当たり前のように手の平を切った。

痛みを顔に出さないために努めて平静を保つ。

顛末はそんな感じだ。



徐に手を眺めた仕草にアミーアは

「ボーセイヌ様、手の治療をッ」

回復薬を取ってこようとするのを止める。

「よい。これはこのままで、いい」

「ですが、」

「良いといった。手当を頼む」

「わかりました」


手当てがおわる。

バレる前に運び出さねばな。

「アリフール。サンニアを遺体として、屋敷の者に気付かれる前に運び出すぞ」


「ジョゼは残れ。刺されたのだ。今は回復薬を使ったが意識不明だ。アミーアがついて、部屋の片隅にでも転がしておけ、以後はオレの手足だ。聞かれたらそう返答しておけ」


サンニアの体にシートをかぶせ、ジョゼには片隅で意識不明のまま気絶しているように見せかけた。

そろそろ、運びだすかと、扉に向かって歩き出す。


トントントンッ ドアがノックされた。

「チッ、なんだ」 こんなときに。


「サリュウと名乗るものがボーセイヌ様に面会を求めています」

「サリュウ?だれだ」

「ジョゼとサンニアはどこだといっておりますが?」



主人公か!?

なぜここにきた。いや、なにかの手違いが、いや、あの手紙を何らかの理由でよんだと考えるのが妥当だが、それでも早すぎる。


「そうか。   しばらく外で待たせておけ」


やっかいだな。どうする。サンニアが目覚めれば、ここまでのことが叔父にバレるかもしれない。


いや、待てよ?そもそもバレてもいいのではない、か?


あくまで、余興だ。

叔父してみれば、生きていようがいまいがどうでもいいはずだ。

処遇はこちらがもらったのだ。

一芝居打って楽しんだことにしても、問題はないはず。だ。が、


・・・。


ここで、押し付けるのもありか。


名案かもしれない。どうにかするとはいったが、案があったわけじゃない。

遺体として、渡して、あとは主人公、サリュウの判断にまかせるのもありかもしれない。


そうなると、こちらに矛先を突き立てかねない、が。


もう、その方向で、ごり押しだ。


「アリフール。サンニアを担いでついてこい。アミーアもだ。ジョゼはそのままふりを続けろ」





屋敷の外には、剣呑な雰囲気を醸し出したサリュウとアーシャがいた。


「ボーセイヌ。彼女たちをどうした!!」


「このオレにそんな口をきいてもいいのか?」

「おい、こいつらはオレが相手をする。そのまま務めておけ」

屋敷を守る兵に告げる。


2人の剣幕を歯牙にもかけない態度で歩きながら告げる。


「2人のことを知りたいのならば、ついてこい」

「後ろの護衛が担いでいるのはひとではないのか!?」

ここで騒ぐんじゃない、話がややこしくなるだろうが。


「騒ぐのは結構だが、ジョゼが死ぬぞ?」


「どういう」

「ジョゼを殺してこい」とアミーアに命令する。

「まって!」幾分か冷静なアーシャは止める

「サリュは落ち着いて、いまはついていきましょう?」

「女のほうが賢明だな。選択しろ。ジョゼを殺すか、お

なしく付いてくるか」

「くッ」何もできず従うことしかできない悔しさがみえる。

「わかった。」


「はじめからそういえ、手間を取らせるな」


2人を連れて、路地に入り込む。

人目が付かない場所で立ち止まる。


「アリフール。そいつを降ろせ」

やさしく壁によりかけるアリフール。

性格が出てるな。おっと。


「シートを取ってやれ」


「!? !?」2人は驚愕した。

当たり前だが、一見すれば血まみれだ。服も刺されような破けもあるサンニアだ。


「サンニアッ」 慌てて駆け寄ろうするアーシャ。

「止めろ」 立ちふさがるアリフール。

「どいてッ サンニアが、サンニアがっ」


努めて低く響くように、声をだす。

「落ち着け」 いう言葉と同時にアリフールから殺気が漏れる


体がすくみ「っ!」冷静になるアーシャと剣を手にしようとしたサリュウ。


「死んではいない。ジョゼとの契約だからな」

ここからは言いくるめだ。

「契約?」

似たようなものだろう。

「そうだ、契約だ。ジョゼがオレの手足となって働くことを条件にお嬢様を見逃すというな」

「ジョゼになにをしたのっ」

「なにをしたのは貴様らだろう。オレに立てついた。それが理由だ。お嬢様と貴様らを見逃すことを条件に、ジョゼが自ら地べたに這いつくばって懇願してきたからオレは了承しただけだ」

「うそよっ、そんな。ジョゼがサンニアのそばから離れるはずなんてないっ」

「そんなことはしらんよ、オレは契約をしたことをするだけだ」


「・・・わたしたちの、せい。でもあるの?」

「そうだ。といいたいが、なにか世話になっただとか言っていたな。ふん くだらん」


「ボーセイヌ。お前に人の心はないのかっ」

黙って話を聴いていたサリュウが叫ぶ


「ひとのこころ?貴様たちを見逃してやっているだろう?」


「僕たちは間違ったことなどしていない!!」


そうだろうな。だがこの世界は非情だ。

「いいや、間違っている。このオレに立てついたことが罪だ」


「!?領主の息子だからなんでもおもいどおりになるとでおもっているのかっ」


「なっているだろう?」

不遜な態度を崩すな。

「貴様たちに選択する権利などない。オレたちに搾取されるしかないんだ貴様らには、な」

だが、このまま玉砕覚悟で特攻されてもかなわん。

「しかし、よかったな。いまなら、見逃してやる。それがジョゼとの契約だからな。どうする?破るならジョゼも死ぬことになるぞ」


「っく!」

理不尽だろう。正しくともそれが通らない世界があるんだ。


「いいのか?今の間にもジョゼの大事なお嬢様が出血で死ぬかもしれんぞ?」


オレの視線の先にいる、血まみれのサンニア。

サリュウとアーシャの顔には苦悶が浮かぶ。


あと一押しだな。

「しかたない。これはサービスだ、ジョゼからの伝言を教えてやる。サニーをよろしくお願いします。だ。」




「・・・・わかった」

「理解ができたようで、幸いだ。アリフール。」

立ちふさがっていたアリフールがオレの後ろに控える。

「サンニアっ」駆け寄るアーシャ。

同時にアーシャから不思議な光が瞬き、サンニアに吸い込まれていく。


あれが癒しの力か。



2人を隠すように前に立つサリュウ。


折れないな。さすがに主人公だ。

「それではごきげんよう」

苦しい選択をさせたことは、つらいが、オレだってやらなくてはならない。


癒しの力

アーシャ特有の固有スキルで、水魔法における治癒魔法とは一線を画す効果だ。

ゲーム時には特大の回復を全体に与える力だ。この世界の文献には、奇跡の力であり、重度の怪我もたちまちに治してしまう。ということしか伝わっていない。



2人を連れて踵を返す。

「おっと、そうだった。お嬢さまに伝えておけ。ジョゼは生きている。せいぜい可愛がってやるから安心しろ、とな」



サリュウたちから離れ、表通りの入る。

「アミーア。あの下っ端の男がこの街から出ていったか確認してこい。もたもたしているような尻を叩いてやれ」

「はい」



「これでなんとかなった、か」





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