h22.02.03. 大江瑠子さんMk-Ⅲ
呼ばれたから来たのに、やはりインターフォンを押しても応答はない。そっとドアを開け、無断で部屋に入る。
「……」
そして無言のまま音を立てずにドアを閉じ、忍び足で廊下を歩く。
と、ダイニングに辿り着く寸前で、突然背後から物音がした。慌てて振り返ると、先ほど通り過ぎた洗面所のドアを開けて瑠子さんが飛び出してきた。
「っ、鬼は……あれ?」
踏み
「外……あれ?」
強張っていた表情が、虚を
そしてお互いに問う。
「冷めるんですけど!」
と瑠子さんは憤慨した様子で、手元の柿ピー(投げるつもりだったらしい)をぱりぱり食べている。
「私の家なんだから、キミが鬼役に決まってるでしょ!」
僕は福豆の袋を抱え直し、反論する。
「いいえ。今までの流れから言っても、瑠子さんがお面を被るのが自然な成り行きです」
「せっかく待ち伏せしてたのに! さっき早とちりして、管理費の集金に来た大家さんに思いきり浴びせちゃったけど!」
「……」
「ちなみに節分に豆を投げるのは、マメツ、つまり〝魔滅〟から来てるらしいよ!」
「知りませんでした……博識ですね」
「今日会社で調べてきた!」
「仕事をしてきなさい」
「貸せっ」
「あ」
瑠子さんは僕から福豆の袋を奪い取り、オマケのお面を被った。その違和感の無さ。
「また似合う事……」
「悪い子は居ねがぁ! トリック・オア・トリート!!」
「忙しい」
「ほら豆! くらえ!」
「わ、ちょっと。痛っ、鬼が投げないで!」
「まめ! マメ! 豆!
「何かイントネーション違っ、こら、地味に痛いから!」
「かさぶた! くつずれ! うおのめ! かたこり! ひんにゅう!」
「リズムに合わせて豆と悩みをぶつけてこないで! 痛っ、ストップ瑠子さんストップ! ちょ、大江! 止まりなさい大江!」
「む……」
「痛た…全く。鬼に豆まで投げられたら、僕のポジションが無いでしょう? 〝豆を投げてくる系の鬼に見つかった人〟じゃないですか」
「そうは言うが……」
「……何ですかその返事。中々言いませんよこんな事」
「わかった。じゃあ君はこないだのジェイソンマスクを被るといいよ」
「一体何故」
「鬼とジェイソンで東西に分かれて豆合戦対決しよう。先に相手を再起不能にした方の勝ちね!」
「……」
「ほら豆! 豆ぇ!」
「ちょっ、やめ、ホッケーマスクの穴にねじ込まないで下さい! 息が!」
「豆! 喰らえぇ!」
「目が! 目がー!」
「……」
「……」
「散らかったね」
「ですね」
「あ。これ、まとめて踏むと足ツボにいいかも」
「……転ばないで下さいよ」
「明日さ、豆腐スウィーツみたいなの作ってくんない?」
「ああ……道具とか要りそうじゃないですか?」
「豆乳作るやつがあるから、それで何とかなんないかな」
「可能性ありそうですね。まずはレシピが欲しいです」
「まかして。明日会社で調べてくる!」
「仕事をしてきなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます