第8話、『 我が追憶のギタリスト 』

 もうすぐ、あいつの命日だ。


 学生時代に結成していたロックバンドのメンバーが、ガンで死んだ。

 16年前の、6月だ……


 担当は、サイドギター。

 派手なパフォーマンスは無かったが、寡黙にコードを流し、ルート( コードの主音 )を指示してくれる、頼り甲斐のあるギタリストだった。

 バンドのリーダーだったヴォーカルのヤツとは、よく口喧嘩をしていたが、繁華街に繰り出す頃には、いつも肩を組んでゴキゲンな調子だった。

 メンバーの中では、紅一点のキーボード女史に、「 ベースより先に、行くなってんの! 」といつも言われていたが、遂に、メンバーの誰よりも先に『 逝って 』しまった……


 ドラム担当の私に、よく言っていた。

「 なあ、アタマ( 1拍目の事 )を強めにくれよ。 バッキングしてっとさぁ、俺、ドコやってんのか分かんなくなんだよ 」

「 サイドギターがそれじゃ、少々、困んだがよ? 」

 私が言うと、笑いながら頭をかいていた、アイツ……

  ひそめた眉の苦笑いが、今でも私の記憶に残っている。


 メンバーは皆、同じ科の同級生。

 課題提出間際になっても、アイツだけは、ギターをいじっていた。

「 出来るヤツだけでも提出しないと、マジ、ヤバイぞ? お前 」

 私が注進すると、アイツは、眉をひそめた苦笑いを返しながら、答えた。

「 課題は、夜、やりゃいい。 音の出るギターは、今しか出来ねえからよ 」


 卒業後、メンバーは、バラバラになり、バンドは解散。

 社会人となり、あんなに好きだったギターも、アイツは手にする時間が無くなって来たらしい。

「 ちょっと忙しくてよ。 これ、預かってくれ 」

 久し振りに再会した際、アイツは、セカンドで使っていたギターを持って来た。

「 いつも使っていたフェンダーは、どうしたんだ? 」

 私が尋ねると、あの眉をひそめた苦笑いで、アイツは答えた。

「 実家にあるよ。 俺、今、神奈川でさ。 コイツを持って行ったんだが、どうしても手が出てな。 仕事にならねえからよ 」


 アイツのギターは、今、私の自宅の片隅にある。

 時々、つま弾いてみるのだが、昔、鳴らした腕は錆つき、もう、コードすら押さえられない。

「 まあ、俺はドラムだったしな… 」

 そんな、独り言のような言い訳を漏らす。

 今の私の額には、アイツのようにひそめた眉があるのだろう。


「 音楽… 続けているぜ? ロックじゃないけどな。 楽団で知り合ったヒトと、結婚してよ。 今じゃ、一人娘もいるんだぜ? 」


 アイツのひそめた眉が、脳裏に甦った……

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