青空のふもと
夏川 俊
第1話、黄色いチューリップ
先日、実家からもらって来たチューリップが咲いた。
つぼみの切り花だったので、もらった最初はコップに水を入れ、陽が当たるであろうと思われる窓際に置いておいた。
だが、どこかに一輪挿しがあったのを思い出し、押入れをゴソゴソ……
パソコン作業をしていた妻が言った。
「 ナニやってるの? こんな夜更けに 」
壁掛け時計を見やると、午後11時30分を廻っている。
小さなコーポである我が家は、とにかく狭い。 襖一枚隔てた隣の6畳間は、居間&娘の勉強部屋。 小学3年の娘は、北の4畳間で、とうに寝ており、妻はいつもこの時間帯は、この6畳間にて嘱託のパソコン作業をしていた。
「 ああ、ゴメン。 一輪挿し、ドコにやったかと思ってね 」
「 一輪挿し? そんなの、あったかしら 」
「 去年だったかな… 産廃の中から拾ってね… あ、あった 」
少々、埃にまみれたガラス製の一輪挿しを、押入れの奥から引っ張り出す、私。
「 あら、可愛いじゃん、それ 」
メガネを外し、レンズをクロスで拭きながら、妻が言った。
「 せっかくだからさ。 こういう時しか、使う時、無いからね 」
妻から渡されたクロスで、一輪挿しを拭きながら、私は答えた。
「 咲くといいね 」
メガネを掛け直し、妻は笑った。
翌朝、久し振りに、休日出勤も無い日曜の朝、チューリップは咲いた。
少し遅めの起床、8時。
カーテンを開けると、さっと、差し込む日差しの中、一輪の黄色いチューリップが、そのふくよかな花弁を開けている。
瑞々しい緑色の茎の上に乗る、目にも鮮やかな黄色いカップ。
私は、嬉しくなった。
花が咲くのは、こうも楽しいものだったとは……
パジャマ姿で、歯ブラシを口に突っ込んだまま、私はしばし、自然の生気あふれる艶やかな芽吹きを眺めていた。
「 おはよう。 ナニしてるの? …あ、チューリップ! 」
起きて来た娘が、私の、腰辺りに取り付きながら言った。
娘の寝ぐせの髪を、手櫛で梳きながら、私は言った。
「 あやちゃんの好きな、ピンクじゃないけどね 」
「 黄色も好きだよ? バナナみたいに、美味しそうだもん 」
私は、笑った。
黄色いチューリーップが好きだ。
何だか、シアワセな気持ちになれるから。
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