渚
家を出て1週間ほどが過ぎた。
幸い体調もよく、赤ちゃんも順調。
もしかしたらこのまま妊娠が続けられるかもと、そんなことが思えるようになっていた。
もうすでに、家を出たときのような迷いはなくなった。
どんなことがあっても、赤ちゃんは産むと決心した。
たとえ私ひとりで育てることになったとしても、この子は手放さない。
しかし、そうなれば気になるのが渚のこと。
子供の父親は渚なんだから。
ちゃんと話をする義務があると思えた。
もちろん不安はある。
もうすでに逃げ出しているかも知れないし・・・
元々、渚は結婚も出産も望んではいなかった。
私は何度も携帯を握りなおしながら、
渚の携帯へ・・・
ピッツ、
やっとコールした。
***
『もしもし。樹里亜?』
コールを聞くこともなく、渚が出た。
「渚・・・ごめん」
『嫌だ。絶対許さない』
やっぱり怒ってる。
でも、困るでしょ?
子供なんて出来たら、あなたが困るでしょう?
そう言いたくて言えなかった。
「ごめん。赤ちゃんができたの」
『何で謝るんだ』
いつもより強めの口調で、なんだか叱られている感じ。
「渚は、大丈夫なの?」
『何が?』
「突然子供なんかできて・・・困るでしょう?」
きっと、今頃は大騒ぎになっているだろうし。
渚に迷惑が
『ふざけるなっ』『俺は、そんなに頼りないのか?』
「そんなこと・・・」
『じゃあ、なぜ逃げる?』
「それは」
あなたの負担になりたくない。
ただ、それだけ。
それ以上の意図はない。
『今どこ?』
「・・・」
言えない。
『なあ、俺を信じろ。お前が嫌な事はしないから』
「でも・・・」
会ってしまえば、きっと渚に甘えたくなってしまう。
『まず会って話をしよう。顔を見ないと安心できない』
渚の言う事はいつも正論。
だから、負けてしまいそう。
それに、私も渚に会いたい。
この3年間いつも側にいたせいで、私は渚なしでは生きられなくなってしまった。
「本当に、渚1人で来てくれる?」
『ああ、約束する』
「大樹にも内緒よ」
『うん』
私は美樹おばさんの所にいると伝え、最寄り駅を教えた。
『なるべく早く行くから』
「うん。待ってる」
本当は今すぐにでも行きたいという渚を、みんなに分からないように来てと説得した。
今は、ちょうど交代で夏休みを取る時期だから、早めの休みを取って行くからと言ってくれた。
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