告白

ブー ブー ブー


東京へ来た日の夕方からガンガン入ってくる着信。

大樹も、渚も、5分と開けずにかけてくる。

きっと今頃大騒ぎになってることだろう。

渚は大丈夫なんだろうか?

本当なら状況を知りたい。

でも、それもできない。


私は電話に出る勇気がないまま、夜を迎えた。



かかってくる電話には完全無視を貫きながら、私は別のところに電話をかけた。


プププ 

『もしもし』

短いコールで、母さんが電話に出た。

「母さん」

『樹里亜、どうしたの?』

「母さん、ごめんなさい」

「どうしたの?何があったの?」

心配そうな声に変わる。


「赤ちゃんが出来た」

『・・・』


この沈黙が、怖い。


『すぐに帰ってきなさい』

「今は帰れない」

『帰れないって、どこにいるの?』

「ごめん、言えない」


『何考えてるのっ!』

うわ、怒鳴られた。


普段大きな声をあげることのないことのない母さんなのに・・・


『いいから、すぐ帰ってきなさい』

「・・・ごめんなさい」

クスン。


『樹里亜、泣いているの?』


「ちょっとだけ時間をください。ちゃんと帰るから、考える時間を・・・」

それ以上は言葉にならなかった。


母さんも私も、しばらく言葉が出なかった。


『今、遠くにいるの?』

「うん」

『ちゃんと帰ってくるのよね?』

「はい」


随分と考え込んでいた母さん。

『分かったわ。その代わり』と条件を出してきた。


2日に1度は連絡しなさい。

病院には行きなさい。

ちょんとご飯は食べなさい。


『分かった?』

「はい」

『じゃあ、父さんは止めておくけれど。長くは無理よ』

「はい」

分かっています。


ごめんなさい、母さん。

ついこの間20数年来のわだかまりがとれて、これから母娘になれると思っていたのに、また心配をかけてしまった。

本当は親孝行してうんと仲良くしたかったのに、こんな自分勝手な娘で本当にごめんなさい。


ああ、涙が止まらない。


***


その日の日付けが変わる頃になって、普段は滅多に連絡をよこさない梨華からメールが来た。


『お姉ちゃん、一体何したの?父さんと母さんがもめているわよ』


はああ?

私はすぐに電話をかけた。


「もしもし梨華?母さんは大丈夫なの?」

梨華が話すより早く、尋ねた。

『大丈夫じゃないわよ。父さんは怒っているし、母さんは泣いてるし』

えっ、母さんが泣いてるの?


『お姉ちゃん何したの?同棲がバレたとか?』

ああ、そう思ったのかあ。

「そうじゃないのよ」

『じゃあ何?』

「実は・・・妊娠したの」

『へえー』

言いながらも、梨華はあまり驚いた様子がない。


「悪いけれど、母さんをお願いね。それと・・・同棲の事は黙っておいて」

『はいはい、わかったから。とにかく早く帰ってきて』

梨華はあっさり請け負った。


なんだかんだ言って、いざというときに一番肝が座るのは梨華かも知れない。

周りに左右されずに、真っ直ぐ自分だけを信じる人だから。

本当に、羨ましい。

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