満天の星
紅城真琴
プロローグ
星空の下
ううー、気持ち悪い。
ムカムカと込み上げてくる・・・吐き気。
クラクラと目も回ってきた。
ヤバイなあ・・・目の前の景色がゆがんで見える。
ドテッ
近くのベンチに倒れ込んでしまった。
公園は自宅マンションのすぐ前。
もうちょっと頑張れば家なのに・・・
どうしても、もう動けない。
今の時間は・・・
店を出るとき10時過ぎだったから、
多分、11時くらい。
きっと、もう少し休んだら動けるようになるはず。
5分だけ、5分だけ休んで帰ろう。
頭の中でそんなことを考えながら、私は持っていたバックを枕にベンチに横になった。
***
スーッと、冷たい風が頬を撫でた。
公園の草の臭いも、なんだか懐かしい。
「樹里亜(ジュリア)、あんまり走らないで」
後ろの方から母様の声。
「だって、大樹(ダイキ)が」
前を走ってる兄を必死に追いかけた。
「いいから、戻っていらっしゃい」
妹を抱いた母様が私に手招きした。
「ほら、流れ星だよ」
父様の声。
私も大樹も、足を止めて空を見上げた。
うわー。
「キレーイ」
声を上げて、両手を天に突き上げた。
まるで、手が届きそうな星々。
子供の頃、夏休みはいつも軽井沢の別荘で過ごした。
元々丈夫ではなかった母様の静養を兼ねて、夏休みの始まりと共に別荘に行き、週末に父様がやってくる生活。
お手伝いさんもいない家族だけの生活はとても穏やかで幸せだった。
普段は忙しい父様も、やって来るといつも外で遊んでくれた。
海に行ったり、花火をしたり、天体観測もした。
都会よりも空が綺麗で、見渡す限りの星空。
「いい加減に帰りますよ」と母様の声がかかるまで、私達は空を見上げていた。
あの頃のまま時間が止まっていたら、どれだけ幸せだったろう。
私も、大樹兄様も、妹の梨華も分け隔てなく遊んだ日々。
あの頃には・・・もう戻れない。
***
「お嬢さん」
んん?
声をかけられて、肩を叩かれた。
見ると、いかにもをジョギング中のおじさん。
「お嬢さん、大丈夫かね?」
もう一度言われて、やっと思考が戻った。
うわぁー、まずい。
すでに、朝。
辺りはすっかり明るくなっているし、散歩中のおばあさんも遠巻きに私を見ている。
わー。わーあー。
どうしよう。
ヤバイヤバイヤバイ。
色んな事を考えながら、動けないでいると、
「こんなところで何してるの。早く帰りなさい」
通りすがりのおばさんに、叱られた。
「すみません」
私は逃げるように、目の前のマンションに逃げ込んだ。
おじさんやおばさんから逃げるように、私は自宅マンションに駆け込んだ。
時刻は午前6時。
完全に朝帰りの時間。
こっそり、静かに、足音を忍ばせながら、部屋に入る。
キッチン、リビング、寝室。
一通り見て回ったけれど、誰もいない。
ふー。
「よかった」
胸をなで下ろしてベットに倒れ込んだ。
勤務は9時からだから、2時間くらい寝られる。
目覚ましと携帯のアラームをセットして、私は眠りについた。
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