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会場の体育館は、既に大盛り上がりしていた。
音楽がガンガン鳴って、踊ったり、騒いだり。
アニメキャラのコスプレから、俺たちみたいな王道、そもそも何にコスプレしたのかよく分からないヤツらまで、色々だった。
人気投票のため、胸に番号の書いたシールを貼るよう入り口で渡された。結果は最後に発表するらしい。俺の胸には185、芝山が186、須川が187、美桜が188だ。
美桜の魔女は大人気だった。元々素材がいいもんだから、特に男子の注目を集めていた。
俺は微妙だったけど、芝山のドラキュラ伯爵も、別の意味で大受けだった。普段の丸眼鏡を取った芝山は、コンタクトも付けずウロウロウロウロしてたもんだから挙動不審だったし、キノコカットのイメージが強すぎて、額が出ただけで、誰だかさっぱり分からなかった。よく見えないと眼鏡をかけた途端、「キャー、もしかして芝山君!」と女子たちが変に騒いでいた。
ステージ上では生徒会役員がハリーポッターキャラのコスプレをして、注目のコスプレイヤーをステージに呼び、インタビューしている。
普段からそういうイベントに出ているらしい生徒らが何人か、決めポーズをして写真撮影に応じ、キャラになりきって喋っているのも見えた。
「ちょっと凄いね。ウチの学校、文化祭でもこんなに盛り上がらないんじゃない?」
美桜が顔を寄せて、耳元でそう話した。
「だな。何か、思ったよりも面白いかも」
最初は億劫だったけど、この雰囲気はなかなか味わえないと、俺もだんだん気分が高揚してきていた。
写真を撮らせてと、美桜は何人にも声をかけられていた。その度に、俺たちRユニオンのメンバーたちも、無理やり写真に写り込んだ。
人気投票も、順調のようだ。
俺も、気に入った何人かに票を入れた。
*
そのうち、俺と美桜、須川と芝山に別れて行動するようになった。
学校内では俺たち二人が付き合ってることは内緒だから、変な感じだったけれど、ハロウィンってこともあったし、仮装しているせいもあったのか、案外恥ずかしさは感じなかった。
美桜もニコニコしていた。
なかなかこっちの世界で二人っきりってことがなかったから、ちょっと嬉しい。
「凌、変な顔で笑ってる」
言われてから気が付くほど、妙にニタニタしていたらしかった。
体育館の中をウロウロしていると、ふと、美桜がやたらとスカートの下の辺りを気にしているのに気が付いた。
女子がもぞもぞしているときは大抵トイレらしいが……、だったらだったで、トイレと言うはずなのに、どうも違う気がした。
「どうかした? 衣装が破れたとか?」
美桜は気まずそうだった。
「耳貸して」
手で合図され、俺はそっと腰をかがめる。
「しっぽが」
「しっぽ?」
魔女の格好なのに、しっぽはねぇだろうと下に目線を落とし……。
しっぽ。
尾がある。
白い竜の尾だ。
嫌な予感がして、ゆっくりと彼女の身体を下から上に見ていくと……、腕にも白い鱗が。
「楽しすぎて、こ……、興奮してしまったみたいで。つまり、その」
言ってる側から、背中に白い羽が生えてきていた。
美桜は半竜半人。普段は力を抑えているが、気を抜くといつもこうやって元の姿に戻ってしまう。
「落ち着こう、まず深呼吸」
バレないよう、美桜の羽ごとギュッと抱きしめる。
大丈夫、こんな騒いでるんだし、仮装してるんだし、こんなとこ、誰も見てないと信じながら。
ところが。
「芳野さん! ステージ! 呼んでるよ!」
須川の声が後ろから。
嘘だろ。まさか、このタイミングで。
「注目のコスプレイヤーだって! 早く早く!」
駆け寄ってくる須川。
無理やり腕を掴み、美桜を引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待て! 背中!」
魔女の黒いマントから、白竜の羽がはみ出て見えた。
ヤバい。ヤバいぞ。
美桜のヤツ、戻るにはいつも時間がかかって。
俺も慌ててステージへと向かった。
「はい、次の注目コスプレイヤーさんは、188番さんです!」
美桜は竜の羽と尾を生やしたまま、ステージ上に挙げられてしまっていた。須川はステージ下。まだ、美桜の変化には気付いていない。
司会進行の男子が、容赦なくマイクを美桜に向けている。
「今日のイメージは魔女? ですかぁ? もしかしてこの白い羽としっぽがチャームポイント」
ステージ下までは辿り着いたものの、間に合わなかった。
大衆の面前で、美桜はもう一つの姿を晒しかけている。
「ええと、それは、その」
言葉に詰まる美桜。
どうにか、どうにか助けないと。
美桜から注目を逸らさなきゃ。それにはもっと派手な……。
一か、八か。
俺は覚悟を決め、ステージに手をかけた。
――バサバサッと、大きな羽の音。
ステージ付近に風が巻き起こった。
ウワッと一斉に上がる声。
「わわっ! 何ですか、君……!」
生徒会長の女子が、ステージの上、俺を見て目をまん丸くしている。
彼女だけじゃない、ステージに注目していた誰もが驚いたに違いない。
当然、美桜も。
「りょ、凌。あなた、それ」
驚いたろう、当然だ。
大きく広げた白い羽と、雄牛の角、銀髪頭のフランケンシュタインがそこにいれば。
「す、凄いクオリティの男子が現れましたぁ! ええっ、これ、コンセプト何ですか? メイクと格好はフランケンっぽいんですけど、白い悪魔にも見えなくはない」
司会は興奮して、美桜から完全に俺に質問をシフトした。
「この羽、動くの? 凄い! ええ?! どうやって作りました」
「企業秘密。触ってみる?」
「え? いいの? うわぁ、本物みたい。重いでしょ」
「重いよ。めっちゃ肩凝る」
「そのヅラも似合ってる。地毛? もしかして今日のために染めた?」
「あはは。明日には元に戻ってます」
会話は上手く進んだ。
後は美桜をステージからコッソリ下ろせれば。
「188番さんも、似た感じの羽くっつけてましたね。二人並んでみて」
……ちくしょっ、空気読めよ。
司会に舌打ちしたが、分かるはずもなく。
無理やり二人並ばされた。その上、容赦なく皆バシバシ写真を撮ってる。
「顔、引きつってる」
美桜が隣で小突いてきた。
「うるせぇ。元々だよ」
俺は必死に誤魔化した。心臓がバクバクして、死にそうだった。
「ありがとうございました! 188番さんと、185番さんでしたぁ!」
成り行きとはいえ。
表であっちの格好になってしまった。
むしゃくしゃした。
俺はサッと美桜をお姫様抱っこにして抱え上げた。
「え? ちょっと、凌!」
美桜の慌てる声。
「いいから、そのまま……!」
俺はそう言って、そのままステージから飛び上がった。
バサリバサリと、羽が動いた。ステージ前に並んでいたヤツらが、風の勢いに驚き、頭上を護っている間に、俺はその真上を体育館の後ろまで飛んでいった。
お祭り状態で判断力の無くなった生徒たちが、ヒューヒューと口笛を吹いた。大歓声が巻き起こった。スゲェスゲェと聞こえてきた。演出だと、上手く思ったらしかった。
床に着地し、美桜を降ろすと、俺は手を振ってそのまま体育館から美桜と共に出て行った。
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