3

 ハロウィン当日。授業はいつもより早く終わった。イベント準備のため、学校側も配慮してくれたのだ。

 部室に入り、それぞれの衣装を身につける。

 室内を手製のついたてで二つに区切り、男女別々に着替えた。

 俺は汚れたシャツに、やはり汚れたジャケットとスラックス。親父が要らなくなったスーツを捨てる前にと使わせて貰ったため、予算削減になった。あっちこっち引き裂いて、それっぽく見せる。具合悪そうに見えるよう、顔と手足に、水色と灰色のボディペイント用絵の具を混ぜて塗りたくった。頭はワックスでメチャクチャにして、首の右と左にボルトの部品っぽく見せたおもちゃをくっつける。


「何か上手く行かねぇな。仕上げは女子に頼まないと」


 鏡で自分を見たが、イマイチパッとしない。第一、顔のつぎはぎが上手く書けず、ただのヤクザっぽくなってしまった。

 ため息を吐き、俺は芝山に振り返った。


「おい、着替えたか、ドラキュ……」


 愕然とした。

 タキシードに黒マント、白手袋、蝶ネクタイ。そんでもって、髪の毛をオールバックにしてキッチリ固めていた。――普段は、キノコ頭なのに!


「だ……、だっせーっ! しかも似合わねぇ!」


 腹を抱えて笑うと、芝山は芝山で、


「来澄こそ何だその中途半端! ボクのように、キチッと役になりきるくらいじゃないとダメだろ?」


 俺の方を見てニタニタしてやがった。

 二人で笑い転げていると、着替えの終わった女子二人が、


「終わったなら入るよー」


 と、終わったなんて言わないうちにこっち側に入ってきた。


「うわぁ、男子はやっぱりダメだね。直し直し」


 そう言う須川は、黒猫衣装。全身真っ黒、ネコミミ、しっぽ。髭はマジックで可愛く書いてあった。腰に付いたスカートみたいなひらひらだけがオレンジなところがワンポイントらしい。

 そして美桜は、見事なまでの綺麗系魔女だった。ストレートの髪を緩く巻いてふわっふわにして、顔はキッチリメイクしていた。赤い口紅が異様に似合ってる。寒そうだなと思う胸の谷間が見える衣装は、反則なくらい美桜の美しさを際立たせた。短めのスカートからすらりと覗く足には、まさかの網タイツとハイヒール。

 俺も芝山も、ゴクリと音が出るくらい大げさに唾を飲み込んだ。


「なんとなく嫌な予感したものね。本番まで時間ないし、急ぎましょう」


 そう言って、美桜は俺の、須川は芝山の仕上げをした。

 流石女子は、こなれてる。

 違和感ありまくりだったつぎはぎメイクも、芝山の変なオールバックも、上手いこと直してくれた。女子の手が入っただけで、すっかり見違えった俺たちは、親指を立てあって感謝した。

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