いまだからできること
白咲夢彩
いまだからできること
「大変な世の中だ」そう言って過ごす人は多い。私の父もよく口にする。
しかし、そんなことを言ったって変わりはしない。だから、私は大変だなんて思うよりももっと素敵なことを探しに行く。
なぜか、それは今がチャンスだからだ。こんな、自粛が続く生活のどこがチャンスなのかと思うだろう。間違いなくチャンスだ。
私は今年、岡山の祖父母の家には行くことが出来なかった。八十を過ぎて、いついなくなるなんてわからない身体なのに会えないなんて辛いか、いや、今はそうでもない。今しかない繋がりを見つけたからだ。
私はいつも、祖父母との会話は帰省した時だけだった。それ以外、手紙を書くことも連絡を取ることもあまりなかったのだ。だから、お盆などに久々に会えた時には、祖父母はとても嬉しそうに抱きしめてくれる。
別に、仲が悪くて連絡を日常でしないのではない。昔からそういうもんだと思っていただけだ。
しかし、今年は帰省なんてできない。毎年会う約束を守れず、私は寂しく思いながら、ひとりでお盆を過ごそうと家にこもった。そこで、私は気が付くのだ。
「電話しようかな」
珍しく、私は電話を入れることにした。人生で祖父母に電話なんて、数度もない。そんな電話に出た祖母は驚きと同時に大きく笑った。
「まぁ、嬉しいねぇ、ハハハ」
出たばかりは、あんなにしぼんだ声だったのに、私と気が付けば大きく喜んだ。私はそれから沢山電話をした。気が付けば週に一度の電話を約束し、楽しんだ。
ある日、一時間ほどの長電話を祖父とした。そして、祖父は言ったのだ。
「会えないけえな、でもな、今が嬉しいんじゃ。昔よりも声が聞けるが」
電話越しに聞こえる岡山弁は、とてもにこやかに私に響いた。自粛前なんて、お盆とお正月くらいしか言葉を交わすことなんてなかった。会えないことは、寂しいに違いない。しかし、会えないからこそ見つけることの出来た喜びもあると気が付いた。
「これが、ニューノーマルか?(笑)」
新しい常識とは、これを意味したりするのだろうか。私はテレビのニュースを眺めながら、呟く。
そして、私はお手紙を書くことにした。小学生ぶりの、祖父母に書くお手紙なんて照れくさいけれど、会うよりも喜んでくれるのなら、書いてみようと筆を進める。
「届きますように」
赤く輝いたポストに岡山行きのお手紙を入れて、私は思う。
今はチャンスだ。
新しい、喜びを見つけるチャンス。
生活は大きく変わってしまっているけれど。
そこには、沢山チャンスがあるのだ。
人が繋がるための、新しいチャンスが。
今まで、あたりまえにできていたようで、していなかったことに目を向けることが出来るのだ。
そうだ、自粛は辛くとも希望は沢山あるのだ。ソーシャルディスタンスがなんだ、そんなもの心が繋がっていれば大丈夫だ。
私は皆に伝えたい。この新しい、温かく柔らかい気持ちを。
今だからできることがある。
今まで気が付くことの出来なかった幸せは、すぐそこにあるかもしれない。
いまだからできること 白咲夢彩 @mia_mia
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
人生四分の三/白咲夢彩
★21 エッセイ・ノンフィクション 完結済 5話
関連小説
私が私と向き合うまで/白咲夢彩
★34 エッセイ・ノンフィクション 完結済 23話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます