本当に届けたい想いは、電波に乗せると良いらしい。

毎日ヨーグルト

~プロローグ・ラジオ局がジャックされたようですよ。~

『ピッポ、ピッポ、ピッポ、ピーーーーン。』


【2018年12月25日(火) AM3:00 @自宅】


いつも通りの聞き慣れた時報と共に、いつもとは異なる聴き慣れない声の主がパーソナリティを務めるそのラジオ番組は

事前に何の告知も無く突然始まった。


『…オホンッ、皆さん、はじめましての人もそうでない人もこんばんは。

凍てつく厳しい寒さが身に染みる今日この頃、いよいよ年の瀬も迫り

本年も残すところあとわずかとなりました。

月曜の深夜、いかがお過ごしでしょうか。』


犯罪者の元友人や隣人がテレビ局の取材を受けた時の「ン~、ソンナ事スルヨウナ子ジャ ナカッタト思ウンデスケドネ~…」のような

ニュース番組でよく聞く特殊な機械でボイスチェンジされた気味の悪い声がラジオから聴こえてくる。


『まぁ世間は聖なる夜のクリスマス、深夜といっても既に27時。それに一部地域にしか流れない地方ローカル局の番組なんて、果たして聴いてくれている人いるんですかね。

まぁ、いいんです。必然でも偶然でもいい。このラジオを今、聴いてくれているそこの“アナタ”に向けて、ワタシは一生懸命お届けしていこうと思います。

えぇ~この番組は3時間の生放送。パーソナリティを務めますのはワタクシ…


…誰でしょうね。ふふふ…(笑)リスナーの皆さん。ワタシはいったい誰だと思いますか?

って、突然聞かれても分かるワケないですよね。

正体を明かす前に1つだけ現状を伝えさせて頂くことにします。1度しか言いませんので耳を澄ませて良く聴いてください。』


その時だった。「ガタンッ」という何かが倒れる様な大きな音と共に、1人の女性の叫び声が耳を刺す。


『た、助けて…!誰か!誰かぁ!!きゃあ゛あ゛ああ゛ああ!!!』


ワイングラスでも割らんばかりの

か細くも大きく震えた叫び声が響き渡る。


『うるさい!静かにしていろと言っただろ!』


背後で泣き叫ぶ女性の声とボイスチェンジされた謎の声が入り混じり、ゴチャゴチャと聴き取りづらい音声が数秒続く。

そして突如『パリーン!』と鳴り響いたガラスの割れるような大きな音。それと共に女性の叫び声はプツンと消えてしまった。


沈黙の時間が続く。ラジオ業界では“10秒前後の沈黙が続いたら放送事故”なんて一般的には言われているが、そんなのは優に超えていた。

その沈黙はまるで、いったい何が起きたのか、今の女性は誰だったのか、そしてどうなってしまったのか、そもそもこの不気味な声の主の正体はいったい…など

全リスナーへ向けていっぺんに与え過ぎた情報量を親切にも整理する時間を与えてくれているようにも感じられた。


『…えぇ、少々邪魔が入りましたが、再び続けるとしましょう。

仕切り直してもう一度言います。

正体を明かす前に1つだけ、このIB放送局のラジオブース内で起きている“現状”を伝えさせて頂くことにします。1度しか言いませんので良く聴いて下さい。



…《2018年12月25日 AM3:00より、IB放送の電波はワタクシがジャックしました。》 』





…あ、言い忘れていたので先に言っておくと、これから話すストーリーは

数年前、僕の身に起きたありえない奇跡のような物語。

かなり現実離れした話なので、無理に信じようとしなくてもいい。フィクションだと思って気軽に肩の力を抜いて聞いてくれればと思う。

でも、この話を最後まで聞き終わった時、君の心の中の“何か”が少しでも動いてくれたなら

僕は素直に嬉しく思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る