第6話 YZR500 その4



飛ばせ!



飛ばせって言われると、血が騒ぐ。


ルーフィだって、男だ。

「よし、行くぞ!」って

シフトペダルを踏んだ。



モペッドとは違う、マニュアルミッションだから

シフト・セレクターはドラムが押す。


そのドラムを、ペダルが回すのだ。


そうして、エンジンの回転を高くし

スロットルを開くと

前輪は、またも持ち上がる。



「いいぜ、ルーフィ。どんどん行け!」



YZR500は、悪魔(笑)の囁き。


そーれ!


F=maの、Fを大きく取る。


もちろん、加速度を大きく取るのだ。




mが軽いので、Fは少なくて済む。


だいたい、GTーRの10分の1くらい。


それで、パワーはGTーRの半分くらいだから



理論的には、GTーRがこのYZR500に追いつくはずはない(笑)。





全開加速する必要はないんだけど(笑)



そこは、やっぱり血の問題(笑)。




山の方へ向かう、ワインディングロードを昇る頃には

GTーRのヘッドライトは、見えなくなった。



「ざまーみやがれ」と、YZR500は

嬉しそうだ。


「どうしてそんなに嬉しいの?」と

ルーフィは、カーブを楽しみながら尋ねる。



左・ターン。


カーブする前に、左に腰を落として、ブレーキ。

アクセルを戻し、ひょい、と傾ける。


重心がずれ、そこからの遠心力がタイヤに横方向の力を掛ける。


タイヤは、右にずれながらカーブに向かう。

そこで、タイヤを駆動すると

直線的にカーブを駆け抜ける。


斜めに、前輪を持ち上げながら。





「そりゃ、RGBの仇だからさ、GTーRは。


あいつが追わなければ、RGBは

まだこの世に居たんだ。」




と、YZR500は、友の事を悼んだ。



ルーフィは、思う。



それで、悪魔くんにそのライダーくんが

ならなければ。


クリスタさんにも会うことなく。

にゃご、も

生まれなかった。




ルーフィが、YZR500に助けられる

事もなかった訳だ。



そう思うと、やや複雑。


カーブを深く、オートバイを傾けるながらルーフィは思った(笑)。



人生は複雑だ。



「その、GTーRをやっつけたいって思う?」と



ルーフィは青年らしく、そう言った。



YZRも、悪戯っぽく



「ああ、そりゃ。なんたって。

その警官が、むやみやたらに追わなければ

あいつが死ぬ事はなかったのさ」





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