YZR500
第3話 YZR500
魔女狩り
ぽんぽんぽん、と、
2ストローク・エンジンの軽やかな音を立てて
モペッドは、海岸通りから
図書館の横のパーキングに、右折しようとした。
既に、閉館時刻を過ぎて
巡回バスも戻ってきている。
まだ、図書館に灯りは点っているけれど
それは・・・・図書整理かしら?と
めぐは思った。
右折して、モペッドのエンジンを切り
クラッチを切って。
グライダーが滑空するように、静かに
図書館横のバイク置き場に
モペッドを置く。
隣にあったのは、凄いレーシング・バイクだった。
メイド・イン・ジャパンの2ストローク、スクエアV4シリンダー。
500ccレーサー。
鮮やかな白と赤、青のラインは
フランスの旗のようだ。
「すごいオートバイだなぁ」と、ルーフィはモペッドを降りて
そのバイクを眺めた。
流れるようなデザインのガソリン・タンク、シート。
リア・カウリング。
飛行機のようでもあるし、エロティックな曲線にも見えるが
それは、今で言えばオーガニック、と表現されるのだろう。
見惚れてしまうようなデザイン、それはやっぱり
自然の中にある曲線美なのだろう、と
ルーフィは思ったりする。
誰の心の中にもある郷愁をそそるような曲線。
それは、生まれて初めて見た母の微笑みや
滑らかなカーブを描く乳であるのかもしれない。
そのオートバイは、それをイメージして
小池岩太郎がデザインしたものだった。
「さ、本返して来よう」と、ルーフィは
モペッドのキーを抜いて、ガードマンのおじさんの居る
通用口から、めぐと一緒に
クリスタさんの待つ、図書館に入ろうとした。
ガードマンのおじさんは、緊張の表情。
「こんばんは、モペッドありがとうございました。」と
ルーフィが言い、キーを返そうと手を出した。
硬直した表情のおじさんに「ガソリンは入れときましたからー。」と
ルーフィはにこにこ「2リットルしか入らなかったけど」と言って
顔を上げると・・・・。
ガードマンのおじさんの警備詰め所の、ドアの無い
図書館の廊下から人影、数人。
制服警官・私服警官。
鋭い視線「ルーフィさんですね」
その時、ルーフィとめぐの心の中に、男っぽい声が語りかけた。
「逃げろ。そいつらは国家公安委員会だ。捕まったら面倒だ。
魔女狩りだ。」
僕は魔女じゃないけどね、とルーフィは軽妙にジョークを
心の中の彼に感謝しながら返答すると、その声は
「オレは、表のオートバイの魂だ。『にゃご』に頼まれた。すぐ乗れ、逃げろ。」
理由は分からないが、ルーフィは心で頷いた。
にこやかに微笑みながら、警官に「いいえ、わたしはそんな者では・・・。」と
言いながら魔法で・・・・・。
その3人の警官の時間を、数分、止めた(笑)。
S=Vit+1/2at2。
彼らの戻ってくる座標へ。
F=ma。
その連立解に見合うmを得る為に、彼らの身体を0次元モデルにした。
残った3-0=3次元エネルギーで、tを逆転させるだけの速度V1を設定。
一瞬で、警官たちはびゅん、と
数秒前の世界に戻る。
もちろん、そんな事を誰が信じるだろう(笑)
彼らは身柄確保失敗、として
上司に怒鳴られるだけだろう(笑)。
クリスタさんにわたしてください、と
ガードマンのおじさんに「ゆきのひとひら」を渡して
ルーフィは、外のオートバイに飛び乗った。
時間が無いので、イグニッションを入れると
グリーンの、ニュートラルランプが点いたのを確認し
2歩ほど、車体を押して走る。
横すわりにシートに座り、ギアを入れる。クラッチをつなぐ。
低い吸気音が、猛獣の唸りのように聞こえ、エンジンは生き帰る。
猫の泣き声のような排気音、ギアのノイズはたしかに、にゃご、の仲間のようだ(笑)。
官能的な響きである。
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