銀鏡の華

霜花 桔梗

第1話

 わたしの通う、第三丘の上学園には七不思議がある。それが旧生徒会室にある銀鏡である。


 その鏡を見た者はこの世とあの世との境の世界に行けるらしい。わたしの名前は神城エリカ、何時も先生に怒られている落ちこぼれだ。


 一部女子には聖騎士様などと、ちやほやされているがあまり興味がない。今日は運の悪い事にショートホームルームに出なかったバツとして。


 旧生徒会室の掃除をさせられる事になった。この部屋は何年も使われていないのに掃除を指示した意地悪な担任だ。


 本当に銀鏡を探し出してみようかと思った。色々物色してみるがなかなか見つからない。空っぽの本棚に古びたパイプ椅子などが転がっている。


 わたしがこの部屋に隠すなら床の下だ。ホウキの枝で床をコツコツと叩く。


 ビンゴだ!床に空洞がある音が返ってきた。わたしは床を開けて空洞を見渡す。長細い包みがあった。


 わたしは止めてある紐をほどき中身を見る。それは日本刀であった。


 刀の鞘をゆっくりと開けていくと銀色に輝く真剣が見えてくる。その刀が鏡のようにわたしを写した瞬間。


 光が放たれる。


 そう、この刀こそ銀鏡であった。


 銀鏡から放たれる光が収まると一瞬の静寂の後に入口のドアが開きゾンビのような者たちが入ってくる。


「やらないとやられちゃうよ」


 旧生徒会室の奥のパイプ椅子にショートカットの女子生徒が座っていた。


「いつからそこに居た?気配が全く無かったのに……」

「この状況で雑談かい?」


 その女子生徒は余裕の表情である。その面持は美しく、妖艶な美であった。


「ならやりながら話そうかい?」


 少女は立ち上がると短刀を取り出し襲ってくるゾンビに切りかかる。そう言うことか……わたしはゾンビに向かって姿勢を正す。それは、刀がしっくりくる感じで、思い通りに戦える気がした。

 

 わたしはズシリと重い真剣で襲ってくるゾンビを切りつけと、切り裂いた感覚と共にゾンビは黒い煙になって消えていく。


「君、強いね……」


 少女は驚いて右手で頬をかく。


「エリカだ、神城エリカという名前がある」

「これは失礼、わたしのことはミヤビと呼んでくれ」

「はいよ、ミヤビ……」


 わたしとミヤビは背中を合わせて死角を失くしてゾンビ達を迎え撃つのであった。


 銀鏡の刀はわたしの手に馴染、次々と襲ってくるゾンビ達を切り裂く。


「で、だ。このゾンビ達は何なのだよ」


 わたしの問いにミヤビは真剣な顔で答える。


「この者達は銀鏡壁の中でうごめく思念の粒だ」


 ミヤビもまた、短剣で戦いながら会話を進める。


「本当に危ないのは思念の塊……いわゆる悪霊だ」

「こんな連中より危ないのがいるなんてな」


 わたしはこんな状況に笑えてきた。しかし、このままでは体力が持たない。


「この空間には思念の粒しかいない、要するに雑魚にやられるのもつまらないのだ。この銀鏡壁から出るぞ」

「銀鏡壁?」

「その刀が作り出した異世界だ」


 どうやら、この刀はわたし達の世界から異世界への結界を作るらしい。仕掛けはわかった、答えは簡単なものだろう。


 わたしは刀を引き、その剣を見つめる。すると、空間にヒビが入り砕け散る。

銀鏡壁が壊れゾンビの大群はいなくなる。そして刀も輝きが無くなり普通の空間に戻っていた。


「ミヤビ、何故、突然現れてわたしを助けた?」

「わたしも思念の塊、ある人の為にエリカ、お前に力を貸すのだよ」

「ミヤビも化け物か……」

「否定はしない、でもレディーに失礼ね」


 ふ、キツネめ。


 わたしの心の言葉に反応したのかミヤビはその姿を消していた。それから間もなくして「どうした?神城?汗だくだぞ」クラスメイトが旧生徒会室に入ってきて声をかけてくる。


「いや、何でもない」


 夢?イヤ違う。現実だ。わたしは確かにミヤビと共に戦っていた。


「悪いが担任に帰ると伝えといてくれ」


 クラスメイトに頼むと、わたしは重い足を引きずり帰路につくのであった。

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