第22話
六月が始まり、私は濃い緑の道を、歩いていた。梅雨はまだ来ておらず、天気が良く、朝日が眩しい。
桜が散り、ピンクの消えた緑道は、濃くさわやかなグリーンで埋め尽くす。これもまた、心地の良い空気を作り、私の心を弾ませる。
私は新しい道をスタートした。
大学生になったのだ。
今日は通信制大学入学後、初めての試験なのだ。仕事は休みを取り、今日は一日学校へ行く日。月に一度は、定期的に登校の授業はあるので、初めての登校ではない。
「友達に会えるのが、楽しみだな」
私は友達に会えることが楽しみで仕方なかった。入学後、たまに登校する教室で会う生徒は、同じような境遇の人がいて、ありのままの私で仲良くなることが出来たのだ。年代や育った環境は違うけれど、働きながら来ていたり、持病があり、自分のペースで登校したい人がいたりした。そして、皆はとても優しく、話しやすかった。お金がないなんて、父子家庭だなんて、恥ずかしいなんて思ってしまっていた昔の自分が、一番恥ずかしい。
テスト期間までの勉強は、毎日コツコツ進めていたので、心配要素はなかった。テストなんかよりも、私は学校に行って、皆と話せるのが、今は楽しみなのだ。たまにしかない登校だからこその、ワクワクが今はある。
「やっぱり、大学通えてよかった」
自分の好きな勉強をすることが、こんなにも幸せなことなのだと、大学生にやっとなって思えたのだ。
そして、仕事に関しては、割と融通の利く職場に出会えた。保育の補助員の仕事で、人手不足ではあるのだが、私が学生なのは面接の時点で伝えてあったので、それを承知の上で採用してくれた。だから、理解があって学校に通いやすい。正社員ではなく、パート勤務だが、社員さんがとても良い人たちなので、楽しく仕事が出来ている。子供と向き合える仕事なので、勉強の一環として、将来にも良い影響を与えてくれるだろう。
最寄り駅近くの、商店街まで進むと、お店の壁から「夏休み短期バイト募集」なんて文字が目立っていた。
「テストが終わったら、兼業先探したいな。夏休みも、楽しい仕事がしたい」
生活費と学費を払っているので、奨学金があるとはいえ、できるだけ長期休みは貯蓄しておきたいのだ。私は商店街の張り紙をスマートホンのカメラでカシャリと撮って保存をしてから、駅まで歩き、学校を目指す。
こんなにも、楽しい生活が私に訪れるなんて、考えてもいなかった。
なんであんなに早く、人生を勝手に諦めたのだろうか、そう思うくらい道はあったのだ。
今は貧しく、お金のやりくりは考えなければいけないが、やって知ってみなければわからないことだって、世の中にはたくさんあったのだ。
「高校生の自分がバカみたい」
ホームの列に並ぶセーラー服を着た高校生を見て、そう呟きながら、電車に乗る。今日も眩しく、輝かしい朝日を追いながら、久々の登校を私は楽しんだ。
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