第79話 美しい竜

 異質なものを魔力で囲うことに集中させる。

 ジークハルトはうっすらと瞼を持ち上げた。


「リア……」

「……ジークハルト様」

「……君の魔力か?」


 リアは首肯する。


「あなたの中の精霊王を魔力で囲いこんでいます」

 

 ジークハルトは目を閉じ、分離した存在を、移動させていく。

 それがストーンへと全て移った瞬間、箱に入れ、かたん、と蓋を閉めた。

 

 魔法陣が空間に浮かび上がり、箱に吸い込まれ跡形なく、一瞬で消えた。



「──封じこめに成功しました」


 ヴェルナーが冷や汗を拭って言う。


「ここに来るまでの扉も、その箱も、皇家直系の人間がいなければ反応もしないし、開閉できない仕様なのだと思います。下手に動かすより、ここにこのまま置いていたほうが危険はないでしょう。誰にも触れることはできないのですから」


 しかしリアは不安に思った。

 またジークハルトの中に入ってしまえばと心配だ。


「封じたストーンごと、私の魔物なら消滅させることができるかもしれません。国内には入ってこられないので、国外に一度出なければなりませんが、ここからなら、時間はかかりませんわ」




◇◇◇◇◇




 それで四人は村から離れ、国外を目指した。

 帝国領を出れば、リアはすぐ魔物を呼んだ。


「ヴァン!」


 すると今まで幾ら呼んでも現れなかった魔物が上空を旋回し、リアの前に姿をみせた。

 四本の足に、背には大きな翼をもつ、銀の竜。

 翼の動きと共に、緑豊かな平原に風が起きる。


「ヴァン、来てくれてありがとう!」

「リアが呼べば来るよ」

「あれから大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。あの男に国外に弾き飛ばされてしまったけどね」


 ヴァンはそう言って、ジークハルトを睨む。

 元気そうだ。

 リアは安心した。


「んん? あれれ? リアの前世の旅の友もいる?」


 ヴァンはヴェルナーを見て、目をくるりと動かした。


 三人は、何もない空間で話をしているリアに呆気にとられている。

 イザークがリアに尋ねた。


「リア……そこに何かいるわけ?」

「ええ、私の魔物が」

 

 ヴェルナーが感嘆したように呟く。


「すげぇ巨大な力は感じるけどな」

「ヴァン、姿を皆に見せてくれるかしら」

「いいよ」 

 

 リアの目にも、少し透明がかっていたヴァンの姿が鮮やかになり、はっきりと輪郭をもった。

 三人は喉を鳴らした。


「──とても美しい魔物だな……。美しいほど、位が高い。非常に高位だ」

 

 ジークハルトがヴァンを凝視して言う。魔物は高位なものほど、美しいのだ。

 ヴァンを褒められて、リアは嬉しかった。

 リアはヴァンに会ったら、最初に謝ろうと思っていた。


「あなたに前世で頼んだこと、私、本当にひどいことだったと深く反省したわ。ごめんなさい」

「うん、そうだよ! 本当に君はひどいひとだよ。一緒に冒険しようとも言ったのにね!」

「ごめんね、それもできそうにないわ」


 ヴァンはしゅんとして項垂れた。


「ひどい……!」


 リアはヴァンを撫でて、時間をかけて宥めた。

 機嫌が治ったヴァンに話す。


「あのね、あなたにお願いがあるの」

「なあに?」


 ジークハルトが、四角い箱をヴァンの前に差し出して言った。


「この中にあるストーンに、精霊王を封じた。それを消滅させてほしいんだ」

「ヴァン、お願い」


 しかしヴァンは、困ったようにぷるんと首を横に振った。


「できない。精霊王を消滅させることは、この世界の誰にもできないよ」

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