第40話 再会

 竜はリアの身をその背に受け止め、静かに地面に降りる。

 一階には誰もおらず、リアは竜の背から降り、唖然と目の前の魔物を見つめた。


「ヴァン!」

「ようやく、ボクを呼んでくれたね、リア」


 愛らしい竜はくりくりした目でリアに視線を返す。

 白銀の、見とれるほど美しい有翼のドラゴン。本来もっと巨大だが、今はリアより少し大きいくらいとなっている。


「あなた、どうしてここに……!?」

「君が呼んでくれたからだよ。ボクが助けないと、あのまま死んじゃってた」


 誰かに背を押されたのだ。


(一体、誰が……)


 しかし今はそれより、この魔物だ。


 危機に陥った瞬間、前世、最も頼っていたヴァンに助けを求め、彼を思い出した。

 契約したのは違う生なのに、なぜヴァンはリアのことを知り、助けてくれたのか。

 それを不思議に思って、リアはまず尋ねてみる。


「あなた、私のことを知っているのね?」


 ヴァンはこくりと頷く。


「もちろん。ボクの主だ!」

「でも契約したのは前世の私だわ」

「うん。この生の君ではない。でも君であることに違いはない。一度契約すれば、それは魂に刻まれる。永遠の契約だ。転生したとしても、わかる。主がボクらを忘れなければだけど。他ではずっと思い出してくれなかったけど……。よかった、この生では君を守れた」


 リアは会いたかった魔物に再会できて、非常に嬉しかった。


「あなたに会えて嬉しいわ、ヴァン!」

「ボクも嬉しいよ、リア!」


 しかし少し離れた場所から人の声がして、リアは慌てた。

 再会を喜び合っている時間はない。


「後でまた来るから、悪いけれどそれまで隠れていてくれない? 人に見つかったら、驚かれてしまう。帝国には魔物は存在していないの」

「うん。この国には結界が敷かれてあるからね。他の人間にはみえないようにしているから、大丈夫!」


 そういえば彼にはそういった能力がある。それにもっと小さくもなれるのだ。


「ちょっと時間がかかってしまうかもしれないけれど、それまで待っていてね」

「わかった」


 リアは名残惜しく思いながら、魔物と別れた。

 屋上に戻るため、歩き出す。

 だが。

 リアはきゅっと唇を噛みしめる。


(……さっき、後ろから押したの、誰……?)

 

 最初、屋上庭園にはリアとジークハルトしかいなかった。

 ジークハルトはローレンツと階下におりた。あの時点でリア以外、誰もいなかったはずだ。

 押されたと思ったのは気のせいだろうか?


(わからない……)

 

 考え込みながら、螺旋階段のほうに近づいて行くと、人の声が大きくなってきた。

 リアは気になり、そちらのほうに足を向けた。

 

 すると人波を割るようにジークハルトが現れて、彼はリアの姿を見つければ、目を見開いた。

 焦るリアの前まで足早に歩み寄ってくる。


「どうしてここに? 気になって君も見にきたのか?」

「え、ええ……そうですわ」


 屋上から落ちたと話せば、びっくりさせてしまうだろう。それは話せない。今、ざわめきが気になってこちらに来てみたのも事実だ。

 彼は僅かに眉を上げた。


「危ないから、待っているようにオレは君に言ったはずだが」

「申し訳ありません。気になってしまいました」


 彼は溜息交じりに、リアに状況を教えてくれた。


「二階から、二人の貴族が庭におちたんだ。酒を飲んで言い争い、落下したらしい。幸い軽症で、命に別状はない。周りの皆が、混乱状態だったから、落ち着いて大広間に戻るよう指示した」


 ジークハルトは肩を竦める。

 大事にはならなかったようで、リアはほっとする。


「そうでしたの」

「まだ花火は上がっている。屋上に戻ろうか」

「はい」


 それで屋上庭園に戻ったのだが、リアは思わず周りを見渡してしまった。

 誰かいるのではないかと探すも、誰もいない。

 ジークハルトはそんなリアを見て、訝しげにする。


「どうしたんだ?」

「い、いいえ。なんでもありませんわ」


 強風で、体勢を崩してしまっただけかもしれなかった。

 

 彼と椅子に座った。

 花火は夜空に咲いては儚く散っていく。


「綺麗……」


 先程のことは頭から消えていく。


「ああ、そうだな」


 彼はじっとこちらを見つめる。リアは夜空からジークハルトへと視線をうつした。


「花火も良いが」


 彼はリアの顎に指を添えた。


「君をみるほうが良い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る