第37話 兄弟の心配2
現在十四歳のカミルは細身の長身で、可愛らしい美少年だ。
オスカー同様、リアの自慢の兄弟である。
弟の女性人気も、今は以前の比ではなく、凄まじい。
リアが令嬢たちに、橋渡しを頼まれるのも、しょっちゅうなのだった。
しかしオスカーとカミルから、断ってほしいと言われているので、間に入って取り持つことはしていない。
他愛のない話をしたあと、カミルはぽつりと呟いた。
「あのね。姉上にこんな話をするのはいけないと思うんだけど」
「? 何、カミル?」
弟は哀しそうに目を伏せる。
「ぼく、クルム侯爵家のメラニーとお茶会で、少し話をしたんだけど、そのとき……」
彼は言いにくそうに語る。
「彼女、話してたんだ。殿下とすごく仲良くさせてもらってるって。姉上の婚約者なんだよってぼく、メラニーを諫めたんだけど。彼女、聞く耳もってくれない。殿下もメラニーのことを気に入ってるみたいで、二人が親しそうにしてるのを見た人たくさんいて……」
カミルもそのことを知っていたのだ。メラニーとジークハルトとのことは、すでに皆の知ることのようである。
「そう……」
リアはティーカップのハンドルを摘まみ、紅茶を喉に流し込む。
「姉上、ぼく、殿下を許せない……! 姉上っていう婚約者がいるのに、他の女と……!」
「カミル……ジークハルト様が、誰とお話をして仲良くしていても、あなたが気にすることはないわ」
「けど……」
カミルはライムグリーンの瞳を潤ませる。
「ぼく、許せない……!」
(ひょっとして……)
カミルはメラニーに恋をしているのだろうか。それでジークハルトを許せない?
「メラニー様のことが気になっているの?」
「え?」
カミルはぱちぱちと瞬いた。
ジークハルトはもう少しすればメラニーと婚約する。もしカミルがメラニーを想っているとしたら辛い目に遭う。
前世で、弟はショックを受けたのかもしれない。
リアはすぐに旅に出たので、その辺りのことはわからないのだが。
リアはどう話したものかと迷った。
(前世のことを言っても、頭が変になったと思われるだろうし……)
しかし弟が失恋の痛手を受けたら。
かなり前、メラニーから、兄と弟を紹介してほしいと言われたことがあった。
まだそういったことをやめてほしいと二人から聞かされておらず、リアは間に入り、取り持った。
彼女はイザークの妹だ。仲良くなりたいとリアも思ったのだ。
だがメラニーは、オスカーとカミルとは仲良くなりたいようだったが、リアに対しては最初からそっけなかった。
「姉上、それってどういう意味なわけ?」
「カミルはメラニー様に恋愛感情をもって――」
「違う! 彼女は友人の一人だよ! ぼくが許せないって思っているのはね、殿下が姉上を傷つけるようなことをすること」
どうやら彼女に恋をしているわけではないようだ。弟が失恋で辛い思いをしないとわかり、ほっとする。
「傷つけられたりなんてしてないわ。だから許せないとかそういった過激なことを考えるのはやめてほしい」
弟の言葉が少し気になり注意すると、カミルは強く主張した。
「殿下は姉上を不幸にしようとしている!」
「そんなことないから」
婚約破棄はショックなことではあったが、旅は有意義であった。
「姉上……」
カミルは励ますように、ぎゅっとリアの手を握りしめる。
「ぼくは絶対に姉上の味方だよ!」
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