第23話 前世の仲間

 イルマは逡巡し、リアの意志が固いのをみて、溜息をついた。


「……わかりました。ですが、夕暮れまでに必ずお戻りください。危ないことをするのも絶対にいけませんからね」

「ええ。私は術者だし、護身術も学んでいるから、危なくないわ」

「まあ、お嬢様はお強いですし、そういった危険性はありませんけれど……」


 イルマに以前買ってきてもらった服に着替え、リアは心配げに見送る彼女に大丈夫と言って、そっと裏口から抜け出した。 



 確かめたいことがある。

 

 

 共に冒険した前世の仲間に会えないか。

 リアは帝都の南に位置する繁華街へと赴いた。

 

 婚約破棄され、自暴自棄になったリアは前世、街で人買いに捕まった。

 その際、助けてくれた人物が、賭博場の経営者だった。

「おれが買おう」と彼は言ったのだ。


 なんだかんだで、その人物と世界各地を回ることになったのだ。

 リアは冒険中、魔力を使っていた。だからそれほど危険な目に遭わなかったのだが、信頼していた魔物に、二十代半ばで殺されてしまった。 

 一体、なぜ殺されたのか。魔物は何だったのか。


(幾ら思い出そうとしても、わからないのよね……。人生後半になるに従い、記憶は大分あやふやだし……)

 

 前世では、この歳ではまだ彼と出会っていない。

 だが特殊な能力を持っていた彼に訊けば、魔物のことについて何か掴めるかもしれない。

 将来、冒険者になる。そう決めたが早世はしたくない。

 

 死亡回避のため、今日は前世とは違う行動をとり、彼を探すことにしたのである。

 帝都で一番大きな高級賭博場を、仲間は経営していた。

 そこまで成功するのは、前世で聞いたところによればもう少し先だったはず。

 

 現在は、どうしているだろう?

 どこに住んでいるかも、わからない。

 

 彼はリアより十歳ほど年上だったから、今は二十歳くらい。

 一縷の望みをかけ、賭博場の傍まで行ってみたが、まだそれは存在してなかった。


(やっぱり、まだ先ね……)


 リアは溜息をつく。

 この辺りをうろうろしていると目立ってしまう。

 

 帰ろう、と思ったとき、暗がりから怒号がした。

 気になって通りを覗き込めば、大柄の男二人に、リアと同じくらいの年頃の少年が絡まれている。


「俺から盗みを働こうとするとは、ふてぇガキだ」

「痛い目に遭わせて、わからせねぇと」


 男は少年の襟もとを掴み、拳で殴っている。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 少年は謝り続けているが、男らは殴るのをやめない。少年はスリで、それが見つかり殴られているようだ。


 リアは路地に足を踏み入れ、彼らの傍に寄った。


「この少年は、謝っていますし、もう充分でしょう。おやめなさい」

「あ!?」


 男が振り返る。

 

 少年がしたことは悪いことだが、子供にそんな暴力をふるうのは許せない。

 

 リアはにっこり微笑んで、魔力で風を起こす。

 術者が、無闇に力を使うことは禁じられているので、察知されないくらいの力だ。

 鋭い風が、二人の男の服と肌を切り裂いていく。


「なんだ!?」

「痛っ!」


 男は少年から手を離し、風から慌てて逃げだしていった。

 リアはそれを静かに眺め、少年に視線を戻した。


「大丈夫ですか?」


 少年は呆然としていた。幸い怪我はそれほどひどくない。


「一体、今の何……」

「本当、何だったのかしら? あの人達、突然痛がりだして?」


 リアはとぼけて、肩を竦めてみせた。


「……あんたは、誰?」

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