スティール・ロード

村雨　竜次

アヴェリア戦役

惑星エメリウスにある〝ミッドガルド大陸〟は、各、都市国家が乱立する地である。

故に頻繁に都市国家間では大・小の『紛争』が発生し、中には都市国家同士の本格的な『戦争』へと発展する事もある。結果として敗戦後に併合・吸収されると云う国家の滅亡と言われる事象が起こる事もある。

遥か昔、銀河の彼方にある地球と云う惑星から人々が宇宙へと旅立って数千年。ドレだけ科学（サイエンス）や技術（テクノロジー）が発展しようとも人類の内面にはソレほど革新的な進歩は見られなかったのかもしれない。

地球と云う辺境の惑星で数千年間暮らしていた間も人類は常に争い続けていたのだから〝闘争本能〟こそが人類という種の本質なのかも知れない――—

常に紛争と戦争に明け暮れる大陸ではあるが、現在を俯瞰（ふかん）して見れば、大きな紛争も戦争もここ二年ほどは無く、微妙な均衡を保ちつつ惰眠を貪り続けている状状況にあったが、今、新たな火種が発生しつつあった。

大陸の南南東に位置する人口二千万人ほどの中規模の都市国家ヴィーネと都市国家アムルスの間に存在する鉱山に〔アストラル鉱石〕が多数含まれる事が双方の合同チームによる調査でわかったのである。

当然、双方が『権利』を主張したが、外交的な話し合いでは決着がつかず、鉱山の下に展開する〝アヴェリア平原〟を挟んで武力衝突へと発展していた。

〔アストラル鉱石〕ソレは凡そ七百年程前に、いづこかの地で発見された不思議な鉱石である。この鉱石は、どの様に小さく砕いても内部から何らかの力学的エネルギーを発生するという特徴を持っていた。ソレは太陽の様に核融合反応をしているワケでも無く、石その物を構成する元素に原因があると云う事だけは分析が出来た。しかも、この力学的エネルギーは時間と共に消える事はなく、半永久的に続くと云う事までがわかったのである。通常の科学的常識からは考えられない事であった。だが、事実として、大陸の中央部に存在する都市国家アムルタにある博物館の中に展示されている七百年前に発見された鉱石は未だにエネルギーは発生し続けていた。

そして、その鉱石の発見によって人類は新たなる発展を遂げた。石その物が発生するエネルギーは動植物に被害を及ぼす事は無く。只、純粋に〝エネルギー〟を発生し続けるのだ。故にソレまでに日常的に様々な場所で使用されていた〝カーメライド液〟と併用されて新たな『動力源』として、使用される事となったのである。

この様な貴重性から、今回、都市国家ヴィーネと都市国家アムルスの間にある鉱山から〔アストラル鉱石〕が発見された出来事が国家間を揺るがす事態となった事は必然であった。

　この事に端を発して両国の間に資源争奪の〝紛争“が発生したのだが、こうした時、この都市国家が乱立する大陸で最も必要とされ、最も便利に利用される者達がいた。ソレは《傭兵》である。

彼らは〝滅亡〟した都市国家の人間達や惑星エメリウス外からやって来た他惑星の者達など、出自は様々であった。

又、個人の護衛から各都市国家間の紛争にまで荒事（あらごと）を生業（なりわい）として生きる彼らを都市国家の人間達は蔑視しながらも頼らざるを得ない複雑な状況があった。

ソレは《都市国家条約》で締結された｟人口制限｠である。

毎年「出生率が二十万人を超えてはならない」とする条約が大陸全土の都市国家間で結ばれているのである。この様な条約が結ばれた表向きの背景には、人口比率で突出した国家による大陸支配を抑制する為。と、されているが《条約締結》は数百年ほど前にまで遡る為、事の真偽は不明である。只、勢力均衡（パワー・バランス）に変化が生じる事を恐れた各、都市国家は、互いを牽制する為にも《条約》を絶対として未だに守り続けている。コレにより入植時からの人口比の変化は七百年を経た今でも、ほとんど変化が見られないのである。

そして、この様な条約下でも民達に不平不満や労働問題が発生しない理由が各国には存在した。ソレはあらゆる分野に於いて生活が自動化（オートメーション）されている事であった。

スーパー、飲食店、銀行、図書館、企業、役所、ありとあらゆる分野に於いて、対応する為のロボットが設置されており、人間のやるべき事は企画立案（プランニング）、計画（プラン）、管理（マネージメント）、等が主である。しかも、人間ソックリのアンドロイドであるヒューマノイド型のロボット《ソレノイド》が存在し、仕事の大半で活用されるばかりか、家庭では子守、性処理、介護まで、ありとあらゆる分野で人に代わり労働を肩代わりしてくれるのである。

男女共に自分が理想と思える〝パートナー〟を安価で手に入れ、自身は、ほとんどの時間を労働ではなく趣味に没頭する事が出来る。ある意味、実現された《理想の社会構造》が、ほぼ全ての都市国家には存在した。

だが、だからこそ、安定したエネルギーに関してはどの国家も執着した。カーメライド液の精製、百年以上の時間、物を動かし続ける事の出来る‶時限電池〟の生産。そして、力学的エネルギーを自発し続ける〝アストラル鉱石〟の発掘、精錬である。

ありとあらゆる物が自動化（オートメーション）されているのだから紛争や戦争も自動化兵器で戦わせれば良いかと云うと、コレばかりは上手く行かなかった。

都市国家間の争いが顕著になって来た数百年以上前から、その様な取り組みは幾度となく試されて来たが、自動化された兵器は《電磁パルス兵器》で無力化されたり、ソレを防御する塗装や部品が開発されても、敵側の鹵獲した兵器を基にして、敵兵器の内部構造にハッキングを仕掛けて無力化したり、あろう事か鹵獲された兵器が相手側の兵器として逆に利用される事案も多々、発生したのである。

ソレではと《ソレノイド》によって兵器を操縦させた場合、ソレノイド達は人間と違い【嘘】をつく事が出来ない。敵側の捕虜となった場合、尋問に対して出来る事は『黙秘』を貫く事であるが、実はソレノイドに対しては、尋問する必要すらないのだ。彼らをソレノイド開発、運営、販売する企業等が持つ特殊な装置で『機能停止』させた後、データ・チップにアクセスして情報を抜き出せばソレで事、足りてしまう。

結果として、この時代の〝紛争〟や〝戦争〟という物は、遥か彼方の人類発祥の地、地球で何千年もの大昔に行われていた様な〝人間と人間との戦い〟が現在に於いても繰り返される事態に陥っている。

只、地球に於ける戦いと違うのは、戦う人間達は生身ではなく〝騎兵（アーマー・ギア）〟と呼ばれる二足歩行のロボットに搭乗して戦う事であった・・・