第三回 かくれんぼのその果て。


 ――そこはもう眩い場所。春風が僕を包む。……朝シャン後の素肌をね。



 でも火照る。体が熱くて。


 全裸なのに、かくれんぼなの。梨花りかがきっと、僕を見付けてくれるから。もっと見てほしいし、もっと触れてほしいの。もちろん恥ずかしいけれど、高鳴る鼓動は心地よいの。


 ――超気持ちいい!


 大好きな人のお部屋。靡くピンク色のカーテン。大好きが……最愛になる瞬間。決して昨日の缶チューハイのせいじゃない。吐息漏れるもどかしさが、それを物語るの。


 物音、近い。……足音も。ドキッとしたけれど、それ以上に、


「梨花!」と、心から呼ぶその名。もう最愛の人。裸の僕を受け止めてほしいの。


「ちょ、何、何なの?」


 飛び込む、ダイブ、僕は全裸のダイバー。そしてハグ、抱擁してほしい。チューもキスも口付けも。接吻……ゴチン! と、響く効果音? 「痛っ」と声にする。……って、あれ? 梨花じゃない。な、な、何で? 可奈かながいるの、拳骨も。それに今、ハグしちゃっているのは、や、やだ……せっちゃんじゃない。それにそれに、……見られちゃった僕の裸。それだけではなくて、しっかりと抱きついちゃって。もうパニックで収集が。


千佳ちか、あんた何してるの?」


「あ、あの、そのね……」と、何て言ったらいいの? って、感じで。


 丁度そこに梨花が……来てね、バスタオル片手に。自分はチャッカリお洋服着て。全裸は僕だけで、言うまでもなく一糸まとわずで。それでもって梨花はね、


「可奈、早かったね。せっちゃんも……」と言いつつも、せっちゃんは泣きだしちゃって大泣きで、僕は僕で視線を……恐る恐る可奈の方へ向けて、向けると、


「とにかく服を着る。それから詳しく説明してもらうわよ、千佳……」と、顔を悪魔にしながら、静かに言う。サーッと冷える僕の裸体。ナチュラル・クーラーとでも言うべきだろうか。「アハ、アハハ……」と、見た目にも力なく笑って誤魔化そうと無駄な抵抗で。



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