蜜月の行進
(これからの私とあなた)
割られた焼菓子も二十を超した。二人の配置はぴたりとあって、掛け違いは正された。菓子は甘く香ばしく、細かに前進する日々はゆるい螺旋を描く。
薪が燃えて爆ぜるのに、台を踏む音が混じる。着替えが済んだら部屋へ来て、とワイスは誘う。ソファの上から視線が交差し、落ちた沈黙が払われる。
俯きはにかんだ聖女は、知っているのよ、と呟く。慎みがないと思うかしら。口元へは手が添えられた。それでも、と声は続き、小さな手が袖を引く。
わたしたちは結婚したのだから。彼の困惑を余所にワイスは台を降り、その日の会話はそれきりになった。……否。その後少しの空白を経て夜が来る。
夜半。小さな椅子から寝台の縁へ英雄譚が語られる。高い声は就寝の鐘に遮られた。本は閉じられ、短い舌は『おしまい、続きはまた明日』を告げる。
夜半。声もなく小箱から取り出されたのは押し花だった。秘密にしてとワイスは言う。夜半。特別の関係には相応の儀式が必要だ、と小さな口は説く。
夜半。棚の本から読み聞かせの二冊目を選ばせた。彼は古い物語を望み、ワイスはそれを良しとした。夜半。拍をとり、声を揃えた二人は歌を誦じる。
深夜。今日は遅いと送り帰され、なればその日はそれまでだ。夜の楽しみは手を替えて続く。革の靴が外されることはなく、全ては次へ持ち越される。
昼間は素気ない待ちぼうけ、彩る夜は鮮やかに。寝室に響くは、次の段階に進みましょ、と潜めた声。指先を握る小さな手は、彼を天幕へ引き込んだ。
夜半。膝を折り、手を組んで目を瞑る。ワイスは彼にも祈るよう求めた。夜半。寝台のなかでも焼菓子を割る。粉を払い、指を舐めて悪戯っぽく笑う。
夜半。繰り返される内緒話は未だ話の枠を超えない。夜半。夜ごとワイスは彼を招く。おやすみなさいの声のあと、ワイスは重なるお休みを想像した。
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