第101話 伯爵夫人と因縁の二人

 案の定、しばらくするとシャールやフエやバルが押され始めた。

 身体能力でカバーしているけれど、それがなければ既に倒されていたことだろう。

 器用に闇魔法を避けてはいるが、魔法でエペに攻撃する余裕がなさそうだ。


(あと少しで私にかけられた魔法が解ける。逃げてくれないなら、せめてそれまで持ちこたえてちょうだい)


 焦っていると、不意に周囲の気温が下がったような感覚がした。

 最初は妙に涼しいくらいだと思っていたものが、徐々に肌寒さを覚えるようになってくる。

 ここが室内ということを鑑みると、あまりに唐突で不自然な下がり方だ。


(もしかして、これは……)


 エペも何かに気付いたように周囲に視線を走らせた。


「ふん、あいつも来たみたいだな。ヒヨコに先を越されるなんて、相変わらずのとろくささだ」


 彼が言葉を切った瞬間、音を立てて部屋の奥にあった大きな窓が割れた。冷気がさらに強まる。

 私は窓の方を見て、予想通り現れた相手に呼びかけた。


「フレーシュ殿下」


 窓から顔を出したフレーシュは、王子だというのに一人で乗り込んできたらしい。

 彼の実力に匹敵する部下がいなかったのか、別の場所に待機させているのかはわからないが、兄弟子に対抗できるのは自分くらいだと判断したのかもしれない。


 フレーシュは一人ベッドの上にちょこんと乗ったままの私を目にして、ある程度事情を察したようだ。

 昔から、彼は鋭い部分とおっとりした部分を併せ持った子なのである。


「師匠、大丈夫!? あのクソ……こほん、あそこにいる兄弟子殿によく似た人に、何かされたの? でなければ師匠は、さっさと魔法でお仕置きなりなんなりして、ここを逃げ出しているだろうからね」

「……正解よ。彼はあなたと同じように転生したエペ本人で、私は今、彼の魔法を食らって魔法が使えない状態なの。もうすぐ解除できそうなんだけど」

「許せない。無力な師匠を独り占めして部屋に連れ込むなんて」

「えっ? 怒るのはそこ……?」


 私の指摘には答えず、フレーシュはつかつかと部屋の中へ入り、エペを睨み付けた。


「やあ、五百年ぶりだね、兄弟子殿。勝手に城に侵入し、いきなり師匠を攫うなんて、少々乱暴じゃないかな……僕でさえ、まだ今世の部屋に師匠を呼べていないのに」

「あ゙あ゙? 誰のおかげで五百年後に転生できたと思ってんだよ。これだから上流階級の奴は鼻につくんだ。なんでも他人にやってもらって当然だと考えて……てめぇはアウローラを部屋に呼ぶ前に感謝の心を覚えろ。それから、お前の師は俺が一生養ってやる」

「勝手に決めないでよ。師匠は僕と結婚してレーヴルの王妃になるんだから」


 どちらにも同意していないのだが、弟子たちは揃って喧嘩をし始める。

 五百年前によく見た光景だ。


(よし、今のうちに……)


 その隙に私はエペの魔法を最終段階まで解除し、自分にかけられた魔法を解くのに成功した。

 魔力の構築を遮っていた魔法が外れ、心なしか体もスッキリしたように思える。


「間に合って良かったわ。エペが気を取られていて助かった……」


 魔力さえ取り戻せばこちらのものだ。エペの魔法を解くのにかなり体力を持って行かれたけれど、まだ数回は魔法を使えると思う。

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