第69話 迷惑な聖人と不評な兄妹設定
「そうだと言ったらどうする? 二人は魔法使いだよね? ボクに魔法を向けてみる? アハハッ! いいね、それ、楽しそう!」
窓からステンドグラスを通して入り込むカラフルな灯りに照らされ、一人で盛り上がる少年は罪悪感など微塵も感じていない様子だ。
魔法使いに敵意を抱いているというより、子供のように遊んでいる印象が強い。
一国を巻き込んだ壮大な迷惑行為も、彼にとっては、ただはしゃいでいるだけなのだろう。
(本当に、迷惑な子ね)
キャハキャハと場違いに明るく笑い続ける少年に、私は大事な質問をした。
「あなた、聖人なの?」
「うん、そうだよ。ボクはカオ、七番目の聖人」
まるで世間話をするかのように少年――カオは自分の正体を軽く明かす。
そして、こちらに鋭く挑発的な視線を向けた。
「で、派手な髪のお姉さんとお兄さんは?」
「えっと……」
問われた私は、どう答えるべきか迷う。
ここでメルキュール家の者だとばらすわけにはいかない。
すると、代わりとばかりにシャールが口を開いた。
「……お察しの通り、我々はこの国の魔法使いだ」
シャールの決めた設定に乗っかり、私も話を続ける。
「そ、そうなの。私はラーム、こっちはシャル。兄妹よ」
カオは何かを考えるようにじいっとこちらを見て、やがて破顔した。
「似ていない兄妹だね」
「母親が違うんだ。妹が気にするから、詮索しないでもらえると助かる」
シャールが牽制したおかげか、カオはそれ以上私たちの出自について聞いてこなかった。
ついでに、私のほうを向き、シャールは「これ以上余計なことを喋るな」と念押ししてくる。
今回の変装に、まだ不服があるらしい。偽名も気に入らなかったようだ。
「それで、二人はボクと遊んでくれるんだよねぇ?」
キラキラと目を輝かせる彼は、まるで餌を前にした大型犬のように落ち着きがなくなる。
そして、ついに我慢できなくなったのか、手に風の魔法を宿し始めた。
「……っ!? ちょっと、ここ、大聖堂よ?」
まさか建物の中で魔法を放つ気だろうか。
彼の言う「遊ぶ」はきっと、魔法での「喧嘩」を指している。つまり、魔法を使った戦闘行為。
こんな場所で、攻撃魔法を放てばどうなるかは明らかだ。
建物は崩壊し、礼拝に来た人々も怪我を負ってしまう。
(聖人なのに、大聖堂や信者が大事ではないの? というか、モーター教徒こそ、聖人が守るべき対象なのでは?)
私とシャールはやや緊張しつつ、カオの行動を見張る。
だが、彼はけろりとした表情で、逆に問い返してきた。
「知っているよ? だから……何?」
迷うこともなく、コテンと首を傾げて見せる。
本当に、何も考えていないようだ。
「礼拝のために来ている人が、たくさんいるのよ? こんな場所で暴れたら、怪我人が出るわ」
まさか、彼らを巻き込むことはないだろうと思いたい。
だって、カオは人々が崇めるモーター教の聖人だから。保護の魔法などで、モーター教徒を守ろうとするはずで……
「それがどうしたの? 危機も感じ取れない、鈍い間抜けが悪いんだよ。普通に考えれば、今この国の広場に出れば危ないってわかるでしょ。モーター教徒と魔法使いが争っている真っ最中だからね。自分だけは巻き込まれないだろうって、のこのこ大聖堂に出てくるほうがおかしいんだよ」
直前まで纏っていた無邪気な空気はなりを潜め、驚くほど酷薄な表情を浮かべるカオがそこにいた。
「それに、モーター教徒なんだから、聖人のために喜んで犠牲になってくれるよね?」
どこをどう解釈すればそんな話になるのか。まったく彼を理解できない。
反論する間もなく、カオは手に大きな炎を宿し始めた。
(こんな場所で炎を使うなんて! ボンブのほうが、よほどお利口ね!)
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