第36話 大人たちの魔法授業2
あの写本に書かれてある魔法は二十種類ほど。
その中で雷の魔法は三種類だったかと思う。
私も弟子も得意属性が雷魔法ではないため全体的に少なめだ。
相手を麻痺させ一時的に体の自由を奪う緩い魔法と、瞬間的に近距離移動する便利な魔法、体内魔力を循環・増幅させ肉体を強化する魔法が載っている。
ちなみに体を強化する魔法は私がいつも使っていた。
「シャール……麻痺の魔法、私で試すんじゃないでしょうね?」
「そんなわけないだろう。実験台は、ほら」
シャールが指さす方向にはフエが立っており、笑顔で手を振っている。
(いつの間に? というか、彼も呼んだのね?)
フエの足下では、縄でぐるぐる巻きにされたグルダンが喚きながら暴れていた。
「学舎への脱走を試みたらしく、ついさっきフエが捕獲した。あいつを実験台にする。夜中まで脱走騒ぎを起こされてはたまらないからな」
シャールはさっそく最初の魔法を試す。
喚いていたグルダンが「ピェッ!」と叫んで静かになった。成功だ。
続いてシャールはグルダンの近くへ瞬間移動。これも成功。
最後に体を強化しグルダンを……投げたぁーーーー!
グルダンは、奇跡的にミーヌの破壊魔法を逃れた木に激突。そのまま気を失った。
(全部成功しているじゃないのよ。今初めて魔法を使ったのよね?)
しかし、シャールの魔法はこれだけでは終わらなかった。
「他の属性も試してみたい。言っただろう、全部覚えたと」
「……って」
その後、シャールは二十種類全ての魔法を訓練場で試したのだった。
残りは人体に関係しないものなのでグルダンの協力は不要だったが、一日で二十種類ほどの魔法を覚えるなんて前代未聞の事態だった。
「シャール、あなたすごいわね。こんなに一度に魔法を身につける人は初めて見たわ」
「アウローラの写本だからな、全部覚えるのは当然のこと。彼女の魔法を使えるなんて夢のようだ」
キラキラと顔を輝かせたシャールはどや顔で言ったが、普通のことではない。
前世の弟子でも、ここまでやってのけた人物はいなかった。
「次の本を訳しておくわね」
そう伝える他なかった。彼はまだまだやる気に燃えている。
途中でバルも合流したので、訓練場から離れないシャールをフエと協力して屋敷へ連れ帰った。グルダンはバルが運んでいった。
翌日の早朝、学舎へ向かう前に体力作りのため箒を振り回していると、にわかにメルキュール家の門前が騒がしくなった。使用人たちが困っている。
「あら、何かしら?」
メルキュール家の客人と言えば魔獣退治やら何やらの依頼に来る人間くらいだが、彼らはいつもこっそりシャールに会いに来るのみだ。
人々はメルキュール家を頼りにしていると同時に恐れてもいる。
(昔は魔法使いなんて一部を除けば怖がる対象ではなかったのだけれど)
そのうちフエかバルが来そうだけれど、とりあえず様子を見に行くことにした。
「どうしたの?」
顔を出すと、使用人たちがあからさまにホッとする。
彼らの前には趣味の悪い馬車から降り立った、亜麻色の髪を持つ二人の令嬢がいた。
同じく派手で趣味の悪いドレスを身につけ、けばけばしい髪型と化粧をしている。
彼女たちは私を見て不遜な表情で口の端をつり上げた。
「まったく、出迎えが遅いじゃないの、お姉様!」
「そうよ! 相変わらずグズで気が利かないわね!」
出迎えも何も、何の連絡も来ていない。
(よその家へ押しかけるなんて困った人たちだわ)
上から目線で私を貶す彼女たちは男爵家にいる実の妹二人だった。
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