『壁』
『当たらない』。
その挑戦を行った者は全員こう言う。
『キッドの99%チャレンジ』。
彼は配信をあまり行わないが、配信をした時に必ずと言って良い程行うそのイベント。
腕に自身のあるリスナーが立候補し、キッドはハンデを背負い決闘を行う。
そのハンデは、残りHPを1%にするというもの。当然挑戦者は万全の状態だ。
しかし未だに――その挑戦は成功に終わった事が無い。
『1%の壁』。
それを壊す前に、キッドは挑戦者のHPを刈り取って来る。
一撃さえ当たれば。
一撃さえ掠れば。
そんな思考を読むかの様に彼は笑う。
まるで、手の平で踊らされているかの様に――挑戦者は空振りを繰り返し。
結果、最後に立つのはキッドだけ。
そんな『1%』。
そして今。
ニシキもその『壁』に苦戦していた。
☆
「――っ!」
「危ない危ない」
1%削るだけなら……そんな思考が読まれる様に。
キッドは時には身体をくねらせ、時には跳び、時にはそのまま立ち尽くし……俺の魂刀を簡単に避けていく。
するすると。
まるで、煙を相手にしている様な。
「隙あり――『スティング』」
「ぐっ!?」
そして当然、隙があれば反撃された。
今――俺のHPは残り30%。
一撃一撃が、ナイフの割りに重いのだ。
「……終わるぜ、ニシキ」
「っ――」
『刀』と『ナイフ』。
当然早いのは後者だ。
じりじりとその差は開いていく。
……どうすれば良い?
「ま、挑むのが早かったな――『スティング』」
「ぐっ――」
《魂刀化の効果時間が終了しました》
10%まで減少する俺のHP。
そして刀は斧へ。
「……あーあ。終わっちゃったな、どうする?」
衝撃を活かし後ろに下がる。
掛かる声。
……でも。
ようやく解けた。
その、『1%』の魔力が。
「……は? 何やってんの?」
距離にして約10m。
俺は、『魂斧』を地面に差した。
『素手』状態。
「……」
「……」
ただ、対峙する俺とキッド。
お互い固まって――膠着状態。
「『スピードスロー』」
それを崩したのは彼だった。
「――っ」
「……普通に避けやがって」
煌めきを確認。
半歩、左へズレて回避。
その人間離れした投擲も、投擲だけなら避けられる。
……だから。
キッドが近付いてこない今の内に――もっと、己を追い詰める。
思い出せ。
俺がRLで一番必死だった時は。
どんな場面だったっけ?
《――「クソがああああああ!」――》
吹けば飛ぶような紫色のHPバー。
嘲笑う二人のPK職。
意味のない叫び。
最後と決めたそのクエスト。
あの時、俺は。
《――「商人の癖に足掻きやがって。でも残念だったな、これで終わりだ」――》
復活し、初めて追い詰めたPK職。
今でも鮮明に思い出せる。
次の次もその次も無い。
負けは認められない。
絶対に当てなければならないその攻撃。
シルバーの笑顔も。
俺のこれまでのRLも。
外せば、全てが終わってしまう一撃を。
「……」
そんな過去の瞬間を脳裏に宿して。
俺は――そのスキルを呟いた。
「――『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます