『壁』

『当たらない』。


その挑戦を行った者は全員こう言う。


『キッドの99%チャレンジ』。

彼は配信をあまり行わないが、配信をした時に必ずと言って良い程行うそのイベント。

腕に自身のあるリスナーが立候補し、キッドはハンデを背負い決闘を行う。


そのハンデは、残りHPを1%にするというもの。当然挑戦者は万全の状態だ。


しかし未だに――その挑戦は成功に終わった事が無い。

『1%の壁』。

それを壊す前に、キッドは挑戦者のHPを刈り取って来る。


一撃さえ当たれば。

一撃さえ掠れば。

そんな思考を読むかの様に彼は笑う。

まるで、手の平で踊らされているかの様に――挑戦者は空振りを繰り返し。


結果、最後に立つのはキッドだけ。

そんな『1%』。


そして今。

ニシキもその『壁』に苦戦していた。



「――っ!」

「危ない危ない」


1%削るだけなら……そんな思考が読まれる様に。

キッドは時には身体をくねらせ、時には跳び、時にはそのまま立ち尽くし……俺の魂刀を簡単に避けていく。


するすると。

まるで、煙を相手にしている様な。


「隙あり――『スティング』」

「ぐっ!?」


そして当然、隙があれば反撃された。

今――俺のHPは残り30%。


一撃一撃が、ナイフの割りに重いのだ。



「……終わるぜ、ニシキ」

「っ――」


『刀』と『ナイフ』。

当然早いのは後者だ。


じりじりとその差は開いていく。


……どうすれば良い?



「ま、挑むのが早かったな――『スティング』」

「ぐっ――」



《魂刀化の効果時間が終了しました》


10%まで減少する俺のHP。

そして刀は斧へ。


「……あーあ。終わっちゃったな、どうする?」


衝撃を活かし後ろに下がる。

掛かる声。

……でも。


ようやく解けた。

その、『1%』の魔力が。



「……は? 何やってんの?」



距離にして約10m。

俺は、『魂斧』を地面に差した。


『素手』状態。



「……」

「……」


ただ、対峙する俺とキッド。

お互い固まって――膠着状態。



「『スピードスロー』」



それを崩したのは彼だった。



「――っ」

「……普通に避けやがって」



煌めきを確認。

半歩、左へズレて回避。

その人間離れした投擲も、投擲だけなら避けられる。


……だから。

キッドが近付いてこない今の内に――もっと、己を追い詰める。


思い出せ。

俺がRLで一番必死だった時は。

どんな場面だったっけ?



《――「クソがああああああ!」――》



吹けば飛ぶような紫色のHPバー。

嘲笑う二人のPK職。

意味のない叫び。


最後と決めたそのクエスト。

あの時、俺は。



《――「商人の癖に足掻きやがって。でも残念だったな、これで終わりだ」――》



復活し、初めて追い詰めたPK職。

今でも鮮明に思い出せる。


次の次もその次も無い。

負けは認められない。

絶対に当てなければならないその攻撃。


シルバーの笑顔も。

俺のこれまでのRLも。

外せば、全てが終わってしまう一撃を。



「……」



そんな過去の瞬間を脳裏に宿して。

俺は――そのスキルを呟いた。



「――『黄金の一撃ゴールド・クリティカル』」

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