格下②
PK職の間では、ニシキはちょっとした有名人だった。
レッドの配信中、彼の手下であるガベージとトラッシュを子供の様にあしらい、はね除けたからだ。
加えて舞月の『アラタ』や新鮮グミの『マコト』といった者達との繋がりも。
『アイツは何者なんだ?』
『噂じゃアラタの弟とか』
『不遇職でPK職を狩りまくってるらしい』
そんな評判が、以前よりもPK職の間で流れ出すのは当然だった。
そしてそれに――疑問の目を向ける者達も。
『レッドの手下が弱かっただけ』
『廃プレイでゴールド稼ぎまくって、装備で何とかやってるだけだろ』
『商人だから凄い様に見えるだけ』
その声が出てくるのも当然の事。
そしてその者達が――たまたま、もし『彼』を見つけたら。
喧嘩を売りに行くのも、当たり前の事だった。
☆
《サギト 蛮族 LEVEL35》
《武器商人 LEVEL49》
自分とアイツの職業、レベルを見比べる。
確かに10以上は離れている……が。
舐めやがって。
突きつけてきたのは馬鹿みたいなハンデ。
おまけに――取り出したのはレベル10代が使う鉄等級の武器。
「じゃあ、やろうか――『瞑想』」
「……ああ」
《三十秒後、決闘を開始します》
スキルを唱え、こちらを観察する商人。
腕をだらんと下げたその体勢は動画で見た。
でも――恐れる事は無い。
このハンデで、かつあの魂斧も無い。
しかもアイテム使用不可だ。お得意の投擲も毒攻撃とやらも出来ない。
《まもなく決闘を開始します》
《決闘を開始します》
「『タフネスアップ』!」
まずはそれでSTR、VITを上昇させて。
両手に持つ片手剣を持ち――突っ込む!
「ああそうだ、もう一つハンデ――」
「『ダブルスウィング』!」
「っ!」
何か言いかけていたが無視。
いくらレベル差があっても、ステータス補正があるこのゲームじゃこっちが優勢だ。
あの馬鹿みたいなハンデもあって――
「ッ――おらぁ!」
「!」
AGIも下がっている彼に、片手剣を振り上げる。
擦る刃。減るHP。
「はッ、調子乗ってハンデ付けすぎたな! パワーブレード!」
「うおっ……こんな減るのか」
ああ、気持ちが良い。
付け上がったソイツは、ロクに回避もせずその攻撃を受ける。
削れるHP……もう既に半分!
ココで決める――
「――『ウォークライ』!」
「!」
ウォークライ――自身の全ステータスを一時的に増加させ、更に目の前の対象を一秒間『状態異常:恐怖』に陥れる。
蛮族を代表する優秀なスキルだ。
一発、二発入れればもう俺の勝ち。
つまり、『恐怖』で動けないコイツはこれで――
「『クロスブレード』!」
「!」
両手の剣で『×』を描く様な、大威力の武技をぶっ放す。
到達する寸前、『恐怖』が切れたのか動き出すニシキ。
チッ、何かの状態異常緩和スキルか!
「ぐ――っ」
その後。
ニシキは斧で一撃を庇ったようだが。
飛ぶ彼の身体が、その威力を物語る。
――「おい、あのまま終わっちまうんじゃ」「マジ?」「ダサすぎだろ」――
聞こえてくる声。
コイツのHPは既に一割。瀕死だ。
対して俺は傷一つ付いてない。
――「もしかしたらアイツがスゲーんじゃ」「そうは見えないけどな」「やっぱ商人だし、でも」――
いつの間にか、ニシキを尾行していたPK職達の注目を浴びている。
「……ハハ」
ああ、気持ちいい。
やっぱり俺は戦闘の才能があるんだ。
「来ないのか?」
「ハッ! 雑魚は黙ってろ」
「そうか」
立ち上がり、俺に向く彼にそう吐き捨てる。精一杯の強がりだろう、見苦しい――
「――じゃ、一分経ったし攻撃するぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます