悪夢②


フルダイヴVR。

仮想空間内に五感を接続し、その仮想世界に飛び込めるそれ。


RLが生まれる前。

その技術は、当然『武道』にも転用された。

己の身体を仮想世界に移し、死なない『殺し合い』を行う。


流血など、見る者を不快にさせる様な表現をボカし。

更には痛覚などもカット出来る。技術の発展によりいくらでも『設定』を弄れた。

RLと違いステータスの概念は無く、己の身体能力はそっくりそのまま。


遙か過去から受け継がれた剣、槍、刀――様々な流派が、その仮想空間でぶつかり合う。

その道の者の『理想郷』。

何時しかそれは見る者すら魅了し、世界の『興行』となり、その道に憧れる者が多く現れ。

そしてその有望な者達を己の流派に染める武道家も現れた。


俺は、そんな武道家の内の一つの名門。

『花月家』に生まれたのだ。





「っ……」



雪が降っている。

それでも、あまり寒さは感じない。


ここはどこだ――


「左腕を失ったらどうなるのかな?」


その声が聞こえる。

レッドだ。


その姿が、唐突に俺の前に現れる。


「フハハハハ! 随分と弱気じゃないか……『パワーブレイク』!」


身体が重い。

その剣が俺を襲う。


倒れる身体。



「フフフ、後悔はもう遅い――『魂縛』」



瞬間、足下が固定され動けない。


ところどころ、記憶が違う。

後ろにはレッドの仲間も居ない。

マコトも。

俺と彼、二人だけ。



「『魂解放』」


「や、め……」



そして。

この場には。

あの時の様に。


『花月新』も、『キッド』も居なくて。



「――『フルウィンド』!!」



その刃は。


俺の左腕を――切り裂いた。





「――――はぁっ!! はっ!」



飛び起きる。

そこは、『畳』が広がる狭い部屋。


日が差し込む。

そして見える腕と足……身体が俺のものじゃない。


いや。

これは――子供の時の俺だ。



「あ。れ?」


「おれの腕、なんで動かないの……?」



『動かない』。


左腕にある――大量の痣と傷。

それは『昨日』付けられたモノ。


ゆっくりゆっくりと。

思い出させる。


《――「本当に骨が折れる出来損ないだ」――》


《――「錦。良いか? 明日だ。明日……お前がまだ反抗するのなら」――》


一室。

左腕に浴びせられたその『躾』。

最後に、父親はこう言った。



《――「新と舞にも同じ事をやる……連帯責任だ、錦」――》


《――「花月流に『よこしまの左』は要らない、格が落ちる。あらたの障害物なんだよお前は》


《――「お前のその左腕は、ゴミより価値が無い物だ」――》



そして今。

精神が折れると同時に――身体も折れた。


「どうして? どうして? どうして?」


虚しく響くその声。

思い通りに動かないその左腕。


「なんで? なんで、なんで――!」



視界が歪む。

苦しい。

思い出したくない。

忘れたままでいたい。


早く目覚めろ――そう念じれば。

視界がぐるぐると転がっていく。





「――っ!!」



床。

フローリング。


畳じゃない。

そこには見慣れた家具類。

いつも通り、何も無い部屋。



「!?」



そして。

脳がその『異変』を感じ取る。


氷水にぶち込まれた様に思考が止まる。

息が出来ない。


どうして、なんで。 

『夢』は終わったはずなのに――



「ぁ……?」



――『左腕』が、動かない。

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