悪夢②
フルダイヴVR。
仮想空間内に五感を接続し、その仮想世界に飛び込めるそれ。
RLが生まれる前。
その技術は、当然『武道』にも転用された。
己の身体を仮想世界に移し、死なない『殺し合い』を行う。
流血など、見る者を不快にさせる様な表現をボカし。
更には痛覚などもカット出来る。技術の発展によりいくらでも『設定』を弄れた。
RLと違いステータスの概念は無く、己の身体能力はそっくりそのまま。
遙か過去から受け継がれた剣、槍、刀――様々な流派が、その仮想空間でぶつかり合う。
その道の者の『理想郷』。
何時しかそれは見る者すら魅了し、世界の『興行』となり、その道に憧れる者が多く現れ。
そしてその有望な者達を己の流派に染める武道家も現れた。
俺は、そんな武道家の内の一つの名門。
『花月家』に生まれたのだ。
☆
「っ……」
雪が降っている。
それでも、あまり寒さは感じない。
ここはどこだ――
「左腕を失ったらどうなるのかな?」
その声が聞こえる。
レッドだ。
その姿が、唐突に俺の前に現れる。
「フハハハハ! 随分と弱気じゃないか……『パワーブレイク』!」
身体が重い。
その剣が俺を襲う。
倒れる身体。
「フフフ、後悔はもう遅い――『魂縛』」
瞬間、足下が固定され動けない。
ところどころ、記憶が違う。
後ろにはレッドの仲間も居ない。
マコトも。
俺と彼、二人だけ。
「『魂解放』」
「や、め……」
そして。
この場には。
あの時の様に。
『花月新』も、『キッド』も居なくて。
「――『フルウィンド』!!」
その刃は。
俺の左腕を――切り裂いた。
☆
「――――はぁっ!! はっ!」
飛び起きる。
そこは、『畳』が広がる狭い部屋。
日が差し込む。
そして見える腕と足……身体が俺のものじゃない。
いや。
これは――子供の時の俺だ。
「あ。れ?」
「おれの腕、なんで動かないの……?」
『動かない』。
左腕にある――大量の痣と傷。
それは『昨日』付けられたモノ。
ゆっくりゆっくりと。
思い出させる。
《――「本当に骨が折れる出来損ないだ」――》
《――「錦。良いか? 明日だ。明日……お前がまだ反抗するのなら」――》
一室。
左腕に浴びせられたその『躾』。
最後に、父親はこう言った。
《――「新と舞にも同じ事をやる……連帯責任だ、錦」――》
《――「花月流に『
《――「お前のその左腕は、ゴミより価値が無い物だ」――》
そして今。
精神が折れると同時に――身体も折れた。
「どうして? どうして? どうして?」
虚しく響くその声。
思い通りに動かないその左腕。
「なんで? なんで、なんで――!」
視界が歪む。
苦しい。
思い出したくない。
忘れたままでいたい。
早く目覚めろ――そう念じれば。
視界がぐるぐると転がっていく。
☆
「――っ!!」
床。
フローリング。
畳じゃない。
そこには見慣れた家具類。
いつも通り、何も無い部屋。
「!?」
そして。
脳がその『異変』を感じ取る。
氷水にぶち込まれた様に思考が止まる。
息が出来ない。
どうして、なんで。
『夢』は終わったはずなのに――
「ぁ……?」
――『左腕』が、動かない。
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