ある竜騎士の物語
……『最強職』がどうとかは興味が無かった。
隣のバイオレットと共にこの世界を巡るのが楽しかった。
ゆっくりコイツと強くなって、色んな景色を見て……静かにRLを楽しみたい。
それでも――俺は、竜騎士だったから。
『内藤、20時からダンジョン潜るぞ。終わり次第王都でボスモンス周回』
『いや、だから俺は――』
『頼むって! お前が居なきゃダンジョンはともかくボス時間掛かるんだわ』
『俺は、ゆっくりしたいんだって――』
『――頼むよ! お前もココのメンバーだろ」
「……はぁ」
「……グラ?」
「はは、よしよしバイオレット」
「グララ!!」
一度、ダンジョンマッチングで会ったガチ勢?に誘われ、そのギルドに半強制で入った事が始まりだった。定例時刻になれば、ダンジョンに潜ってレアドロ目当てに王都のボスモンスターの取り合いに参加。
仕事終わりはゆっくりプレイしたいのに……そのサイクルであっと言う間に平日は終わる。
そして一番嫌だったのが、それがもう一つの仕事みたいになっている所だ。ミスれば迷惑掛かるし、何かピリピリしてるし、楽しむなんて雰囲気じゃないんだよ。
「……」
最初は頼りにされて、正直嬉しかった。
でも――これは俺がやりたかったRLじゃない。
もう抜けてしまおうか。
……でも俺が居なくなったらこのギルドはどうなるんだ?
ああ最悪だ。なんでゲームでまでこんな事考えなきゃならないんだよ――
「――おっおいお前、内藤か!?」
「!? 何だ……って」
王都、露店エリアを歩いていた時。
声を掛けてきたのは――引退したはずのフレンドだった。
《カトー LEVEL41 魔術士》
「か、カトー……お前復帰してたのか」
「はは、ああ。フレンド全消ししてたから気付かないわなそりゃ」
「グラ!」
「お前あの時のピンクトカゲか!? でっかくなったなあー!!」
「グララララ!」
「すげー! かっけー!」
ソイツとは、昔……ラロシアアイスに入ったぐらいまでたまに組んでいた奴で。
《――「後ろは頼んだぞ、魔法士さん」――》
《――「ああ任せろ! 俺のファイアーボールが火を吹くぜ!」》
「……ファイアーボールが火を吹くぜ、だっけ?」
「ははは! 恥ずかしい事言うなって」
笑い合う俺達。
ラロシアアイスに入ってから……コイツとはあまり連まなくなったんだよな。
確か、カトーがギルドに入ったとかで忙しくなって。
「カトーお前……ギルドは?」
「抜けたよ」
「え」
「まあ一時期休止してたしな、戻る気もしないし今はこんな状態だ」
「……そんなもんか」
「ああ。それよりお前こそギルドとか入る質じゃなかっただろ!」
「ま、色々あって――」
「――お前なんか、疲れてない?」
「!」
カトーの言葉。
それがきっと――自分の中の何かを吐き出させたんだろう。
「疲れてるさ……ギルドで毎日毎日役割に全うして、ミスも遊びも許されず、決まった時間に集まって周回して、ゲームっつーより労働だよこれは」
「……いや、抜ければ良いじゃん」
「でも俺が居なくなったら――」
「――『メニュー』開け、ほら」
「え、いや」
「良いから」
「……あ、ああ」
「次は『ギルドメニュー』、『脱退』だ」
《本当によろしいですか?》
それを押せば――現れるアナウンス。
震える指。
「押したら終わりだ、簡単だろ? まあ一応挨拶ぐらいは残しとけ。あ、返事待つ必要はないからな」
「……」
『お世話になりました』
『え?』
『いや、内藤お前何言って――』
《DarkVanguardを脱退しました》
「辞めれた……」
「はは、お疲れさん」
ギルド脱退は、本当に簡単に済んだ。それまで散々悩んでいたのが嘘だった様に。
その時、ようやく呪縛から解き放たれて。
「ま、どうせお前の事だからまたギルドに誘われるだろうけど」
「……」
「断る理由が欲しいってんなら、ウチのギルドにでも隠れ蓑で入っとくか? 」
「……え?」
そして――その瞬間から、俺のRLは始まったんだ。
☆
《ハルちゃんを守り隊に加入しました》
「なんだこのギルド名……俺場違いじゃない?」
「はは、大丈夫大丈夫。あとここ別に挨拶とかいらねーから」
「お、おう……どういう活動してるんだココ?」
「ああ、ココは対人戦闘に興味ある奴が集まるとこなんだ」
「対人……PVPって事かよ」
「ああ。それとハルちゃんっていう配信者のファンギルドも兼ねてる」
正直、これまでのギルドと毛色が違いすぎて追いつけない。
「そのハルちゃんのリスナーは対人戦に興味のある奴が多いのよ」
「……お、おう」
「だから俺がこのギルドを立ち上げた。システムは簡単、ギルド内で闘って……勝った奴がどんどん役職をあげていく」
「なんだそれ」
「はは、目に見えて強い奴が上に立つって訳よ。分かりやすいだろ? 己の力を競い合うのが楽しいのは確かだが、目に見える成果もあった方が良いと思ってな」
笑ってそう言うカトー。
……あれ?
って事はコイツがココで一番――
『カトー、適当に時間合ったらやらない? 新武技使いたみ』
『りょうかい、十分後で』
「って訳だから! 別にここ居て何かさせたりとか無いから好きに――」
「あ、あのさ」
「ん?」
「ちょっと、見ていっても良いか……?」
☆
「『暴走魔術』――『ファイアーボール』!」
「――む、無理ぃ!!」
《観戦中の決闘が終了しました》
《通常フィールドに移動します》
「……」
ギルドホーム、中にある決闘場に移動して。
気付けばその勝負は終わっていた。
そしてそれに見惚れている自分に気付く。
「やっぱカトーさん強いわ……魔術士が近距離戦えると最強だな」
「はは、そう褒めんなって――あっ内藤は見ててどうだった?」
「どうって……」
あまりにも違う世界の風景を見せられて、すぐに言葉が出てこなかった。
でもこの胸の高鳴りは――きっと本物だ。
ならもう答えは決まってる。
「……俺も、やってみたい」
☆
《ヨモギ様との決闘に敗北しました》
《ギルドルームに戻ります》
「……対ありでした」
「対あり! もうちょっと突っ込まれるとヤバかったかも」
「なるほど……」
アレから数日が経つ。
当たり前だが、ずっと俺は負けていた。
PVPとPVEは勝手が違いすぎる……竜騎士という職業の動きが全くここでは通用しないんだ。
「でも流石内藤だよ。成長が早い」
「おっ、トップが言うなら有力だな!」
「か、カトー……そんな事ないって」
「グララ!」
「最初は怖かったけど慣れてくると可愛いですねこの子」
「はは、どうも……良かったなバイオレット」
カトー、そして他のギルメン達と話す。
男女混合、職業も魔術士や聖重騎士に狩人、防具商人と多種多様。
……本当にココは自由だ。
挨拶とかも適当だし、ギルメン同士で狩りとかダンジョンとかも行っているが基本行きたい人だけ。
そんなゆるいこのギルドだが、毎週一回は開かれるPVP大会にはほぼ全ギルドメンバーが集う。一対一や多人数戦、実際の戦闘フィールドでの決闘……多種多様なPVPを行っている。
皆本当に――それが好きなのだと分かった。
そして自分自身も。
「……そういえば、何で『ハルちゃんを守り隊』なんだ?」
「まあ一応ココ、ハルちゃんのファンギルドだしな」
「対人戦ばっかやってるけどね!」
「ハルちゃんの配信見てたら対人戦やりたくなるし……」
「ちなみにココ彼女公認だから、たまに配信出演のチャンスもあるぞ」
「そ、そうなのか……まあそれは遠慮しとこうかな」
答える彼ら。
正直、その対人戦と配信者のファンというのが結びつかなかった。
「ハルちゃんの配信見てないんだっけ?内藤さん」
「ああ……でも皆その人に影響されて対人戦やってるなら興味あるかな」
「あー」
「ちょっと違うな」
「私達、きっかけは彼女じゃなくてハルハルの配信に出てきた『商人』なんだ」
……ん?
聞き間違いか。
何で今、その職業名が出てくるんだ?
あんまり他職の興味は無いが、そんな俺でも知っている不遇職。
「……内藤くん、アレだったら見た方が早いかも」
「だな」
……そして。
渡されたURLの動画は――
☆
《――「『スラッシュ』」――》
《――「何なんだよ、お前は――!!」――》
配信者のハルが一人の商人と出会い、受けたクエスト内にて商人がPK職二人を圧倒する――そんな内容だった。
「……」
正直俺は不遇職とかそういうのは興味が無い。
強い奴は強いし弱い奴は弱い、そんな感覚。
だからこの配信中のリスナーの様に、凄まじい手のひら返しは俺には起きなかった。
でも――
「――ここまで動ければ、すげー楽しいんだろうな……」
気付けば呟いていた。
無駄の無い動きに、投擲の命中率、矢の無効化まで。
もし俺が、この『ニシキ』みたいに動く事が出来たのなら――
「はは、内藤ならそんな感じの感想だと思ってたよ」
「だよねー、羨ましいよね」
「何か見てきたら燃えてきた! ヨモギさん勝負しよ~」
「いいよ! んじゃ今回はアイテムありで――」
「はは、散財しすぎないようにな~」
一緒に見ていたギルドの二人が、また決闘場に移動していく。
《ヨモギ 防具商人 LEVEL40》
《NMNM123 狩人 LEVEL41》
「……あの二人も俺も、ニシキが居なかったら多分既にRLを辞めてたんだよ」
「え」
カトーはそんな二人を笑って見送り口を開いた。
「ヨモギちゃんは商人の不遇さで一時期引退、ネムネムは繰り返すパーティプレイに疲れて引退寸前……俺はまあ、恥ずかしくて言えないレベル」
「……嘘だろ?」
「大マジよ」
頬を掻いて、カトーは続けた。
こんな楽しそうにプレイしていた彼らだから……正直冗談か何かと思ったが、口調からして嘘なんかじゃない。
そして気付く――俺もコイツに会っていなかったら、ギルドの件で休止していたのかもしれない事に。
活気あふれるRLでも、プレイヤーが辞める瞬間なんていくらでもある訳で。
「感謝してるんだ、『ニシキ』には。当の本人からすれば意味不明だろうけど……彼の知らないところで今も影響を与え続けてる」
「なんだそれ……まるで神じゃん」
「ははは! でもそんなプレイヤーに届きうるのがこのRLだろ?」
「え」
立ち上がるカトー。
その表情は――昔の彼と同じ、ファイアーボールをぶっ放していた頃のもので。
「いつか俺はこのギルドで、ニシキぐらい強いプレイヤーを生み出したいと思ってる」
「ま、まじ?」
「ああ。それは俺かもしれないし、お前かもしれないぞ」
「……っ」
「もしそれが叶ったら彼にメールでも出してみるよ。ぜひ闘ってくれませんかってな」
笑ってカトーはそう言った。
……凄えよお前。
めちゃくちゃ楽しんでるな、RL。
「グララ!!」
「頼んだぞ、バイオレット」
そしてそんな彼を見ていると、さっきから何かが疼いて仕方ない。
どうやら俺もコイツに影響されたみたいだ。
「おっやる気満々だな『二人』とも! 一戦やるか?」
「はは、頼む」
「グラ!」
そして俺達は切磋琢磨の日常を過ごしてきたんだ。
その『最強』を目指して――。
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