二人の弟子と透明少女


「あ、あの……覚えました……」


「え」

「はやいね……」



アレから十六夜の特訓が始まり、開始1分の事だった。

とりあえず隠れてゴブリンに攻撃してみてという事で……レンは草陰に隠れ魔法を放ったのだが。



「はい。『隠密』ですね……間違いないです」


「そ、そっか」

「ドクちゃん凄いですぅ!」


「あは……」



照れるレンを眺める。

……最初から思ってたんだが、ちょっとレンって十六夜って似てるよな。

喋り方とか立ち振る舞いとか。だから隠密も取得しやすかったんだろうか。



「……ニシキ?」

「……ニシキさん?」



そう思いながら2人を眺めていたら同時に聞かれた。

ほら。この今の感じとか。



「何でもないよ。ドクは習得できそうか?」


「う、うーん。ちょっと難しそうです」

「……ドクはもっと力を抜いて……あ」


「どうかしたか?十六夜」


「いや……そうだね、レンはちょっとわたしと来てくれる?」

「?はい」


「ちょっとレンに……もう少し踏み込んだ事を教えてくる、ね」



十六夜はそう言って、レンを手招きする。



「ドクはそのまま暫くゴブリンで練習してれば取得できると思う……」


「分かりましたぁ!」


「ニシキはドクに付いていてあげて?」


「ああ、了解」





「さて、と。それじゃ頑張ろうか」


「はい! 『瞑想』」



目を瞑ってそれを唱えるドク。


俺も驚いたんだが、彼女はレンと同じく『瞑想VR』をプレイしたらしい。

辛かったですなんて言っていたが……その意思の強さは目を見張るモノがあるだろう。



「ふふ、実はさっきまであんまり集中出来なかったんですよね」


「え? そうなのか」


「はい。その……レンちゃんが二人居るみたいな感じで、特に十六夜さんは守ってあげたくなるというか……」


「ははは、まあ似てるよなあの二人は」



どうやらドクも俺と同じ事を思っていたらしい。

それはまあ集中も出来ないか。



「……でも本当にレンちゃんは、以前とは比べ物にならないぐらい強くなりましたぁ」

「そうだな」

「学校でも別人だと思ってしまうぐらい生き生きしてます」

「ああ……それは良かったよ」



あっさり学生だと聞いてしまったが、まあ流し聞きしておこう。


「はい、本当に……ドクが気に掛ける必要もないです」


そして心なしか寂しそうにしているドク。

……二人が成長する為には、いつか彼女の『迷い』も取っ払ってやらないとな。


スペックで言えば俺を凌駕する程、ドクの成長は早い。

精神面の壁を越えられれば――彼女はもっと強くなれるだろう。

だが、それを何とかするのは今じゃない。



「さてと、隠密習得頑張ろうか。君なら余裕のはずだからな」


「ふふっそんなにプレッシャー掛けないで下さいぃ」





「……本当にありがとうございました」

「ありがとうございましたぁ!」


「うん……どういたしまして」



アレから、無事にドクは隠密を習得した。


レンの方も十六夜から隠密の基本から踏み込んだ応用まで叩き込んでくれたようだ。


そして十六夜自身の提案で、隠密状態の敵への対処法なんかも教えてもらった。

手加減は勿論しているが十六夜が隠密にて隠れ、それを二人が見つける……『かくれんぼ』的な特訓まで。


俺は「ないしょ」と言われたから参加してないが……戦闘に活かされる時が楽しみだな。



「もっと強くなったら、わたし達とも闘ってみるといいかもね……」

「ん、『達』?」


「うん。ニシキとわたしで組んで闘うの」


「ええっ!?」

「か、勝てないですよぉ……」



そんな提案に、彼女達は驚く。



「それぐらい出来たら隠密を使うPK職には余裕で対応できると思うぞ」

「……うん、そうだね」


「は、はぁ……そうですか?」

「うぅ、十六夜さんは案外いじわるですねぇ」


「言われてるぞ十六夜」

「へへ……がんばってね」



笑って声を掛ける十六夜。

時間を見ればかなりの時が経っていた。

今日は二人にとって、有意義な一日になっただろう。





「……ぅ……つか、れた……」

「はは、お疲れ」



アレから二人と別れ、十六夜を連れていつものデッドゾーンへ。

人と話す事は彼女にとってかなりのエネルギーを使うらしく、今は地面で座り込んでいる。


時間も遅いし……今日は結構無理をさせたかもしれない。



「大丈夫か?」

「……大丈夫じゃないよ」


「え」

「……」


「何か飲みたいのか?」

「……うん」



もうなんか、何も言わなくても分かる様になって来たぞ。



「……じゃ、行こ……」

「あ、ああ」



本当に疲れた様子で彼女は足を運んでいく。

……ここまで無理をして貰ったのは、流石に心が痛むな。



「……ね、ニシキ」

「?」


「わたし……がんばったよ」

「!  ああ、ありがとう」


「……もっと……」



俯いて、何かをねだるような様子の彼女。

……素直で助かる。



「十六夜がフレンドで本当に助かった」

「……」

「その――」

「……うん。もういいよ」



顔を上げれば、明るくなった十六夜が居た。

おいおいもしかして手玉に取られてたか?


まあ――良いか。元気になったのならそれで。



「……髪留めは?」

「あ、そうだな。来週の日曜日とかどうだ?」

「! 忘れてなかったんだ……うん、もちろんいいよ」

「当たり前だろ。約束したしな」

「……えへへ。楽しみにしてるね」



嬉しそうに笑う十六夜。

日曜日は何としても開けておかないと、元々予定なんて入らないけどさ。


……今更だけど、ここ最近はRLが大半のスケジュールを占めてるな。

二人の弟子だったり。こういったフレンドの約束であったり。 


「ニシキ……?」

「はは、何でもない」


だが――『それ』も悪くない。

レンとドクへの特訓を通して良いフレンドに巡り合えたと実感するよ。

ハル、十六夜には特に頭が上がらないな。もし彼女に出会っていなかったら、そもそも隠密を俺が取得できなかったんだし。



「ありがとな、十六夜」





「じゃ、いこっか……」

「結局喫茶店には行くのか」

「うん♪」

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