嵐は過ぎ去って①


「……大丈夫かい、錦」


「ああ――ありがとう。兄さん」


「うん。それじゃあね」


「――え?」


「?」


「そ、その――」



そのまま、兄さんは背中を向けて辺境の出口へと向かってしまう。思わず声を掛けたが……どうすれば良い?


今の自分が、彼へと話したい事は――



「お、俺『弟子』が出来たんだ。はは……ゲームだけど――」

「――ゲームだから、何なんだい?」


「いや、その……」

「その弟子は、君を慕って付いてきているんだろう? まさか今回のこの戦闘で、自信を失ったとでも言うつもり?」


「でも、俺は何も出来なくて」

「そうだね錦。 『じゃあ』どうするんだ? このまま泣き言を続けて慰めを貰うつもりかな。君はもう大人だろ」


「……それは」

「良いか錦。慕ってくれる者が居るのなら、己に自信を持って良い。全く知らぬ何者かが、指を刺して笑う世界でも」


「……」

「可愛い弟子みたいじゃないか。女の子なら尚更、格好いい師匠で居ないとね」


「……兄さん、知って――!?」

「っ――言葉が過ぎたかな、じゃあね錦。今度こそさよならだ」



半ば強引に、兄さんはこのフィールドから出ていった。


……なんというか、未だに夢の中に居るみたいだ。

兄さんに出会って、助けてもらって。


その上、こんな会話を――



「――いやぁすいませんね、口下手な奴なんで」

「……は?」


「実はオレも居ました、気付いてた?」

「……」



背後。

その声に振り返ると――今度はキッドが居た。

……いや、ほんとに現実味が無いんだが。



「とりあえず――お仲間さん、復活させてあげたら?」


「あ」

「…………」


「うわっ怖!? あの目動いたぞ!?」


そして。

地面に転がっているマコトを見て、俺は現実に戻ってきたのだった。



「……つーわけで、レッドをたまたま見た弟子が俺に伝えて、俺とアラタが一緒にココに来たわけ」

「はぇ〜、まさかキッドさんとアラタ様がニシキさんのお知り合いだったとは」


「一番の功労者はその弟子だぜ、アイツが気付かなきゃそもそも始まってなかった話」

「うふふ、本当ですねぇ。アラタ様とはぜひ生きた状態で会いたかったですが……これ程死んで後悔したことはありません」


「スマンって。でもアンタが居なきゃ間に合わなかったかも」

「そう言われると嬉しいですね! キッドさーん!」

「おう! サイン付きナイフいる?」

「下さい!! それでPKKさせてもらいます!」

「ひぇ~」


二人が凄い勢いで話しており、入る隙が無い。

アレから色々とキッドが状況説明をしてくれて、マコトも蘇生した。ちなみにガベージとトラッシュの身体は無かった。とっくに非戦闘エリアで復活したのだろう。


てっきりマコトは悔しがるかと思いきや……復活した瞬間、興奮していたのだ。怒りではなく喜びの方で。



「そういえば、アラタ様とニシキさんってお顔が似てますね。それにさっきの会話はなに――」

「――ハハッそれ以上言うな」


「に、あ……『アラタ』さんは本当に最初から居たのか?」

「んっ何だって? 声ちいせえよニシキ」

「……あ、アラタさ――」


「――ハハハハハ!! 駄目だ面白え! お前の口から『アラタさん』っておい!」

「……」

「やっぱり、アレは真実だったんですね……耳がおかしくなったかと思いましたよ」



そしてもう、『アラタ』が俺の兄だということもバレてしまった。

別に知られても良いんだけど、やっぱりプライベートなところだし避けた方が良いかなと思っていた。

無駄だったが。



「あー、レッドには死ぬほどムカつきましたがソレ以上にココに居て良かったと思います」

「……それはどうも。でさっきの質問は?」


「ああ、アレは嘘。着いたのはマコトが死んだ後ぐらいだぜ。レッドを動揺させる為に煽ったんだろ。実際効いてたしな」

「……ですよね! アラタ様がもしあの場にいたら、私を見殺しにするわけないですもんね」

「ハハッそうそう」


「兄さん、意外とそういう事もするんだな」

「……アイツ、マジで怒った時は結構口も言動も悪くなるぜ」


「そんなところも素敵ですねぇ!」

「……」


横で黄色い声を出すマコトは無視で。

兄さんが俺の為に怒ってくれた事が嬉しかった。



「気を付けろよ、ニシキ。きっとアイツはまたお前を狙う。『完璧な状況』が揃えばきっと」

「ああ」


「アイツのスキル、本当気持ち悪かったですが――キッド様は何か知ってますか?」


「ある程度はな……敵味方問わず殺したらバフが掛かったり、後は殺した数だけ高威力の一撃を放てたり――なんと言っても奴の職業の代名詞、味方が死んでいる状態で発動出来るイカれた強さのスキルだ」


「……な、なるほどです」

「『鎮魂歌』とか『魂吸収』とか言ってたな」


「ハハ、ただ『決まれば強い』系のスキルが多いから使いこなすのは難しい……実力は確かだぜ。『手下』をうまく使って暴れてる。ファンも多い」


「……手下か」

「ハハッそうそう! 確かにアイツの考えはクソだ――でも、それがアイツの強さでもある」


「そうだな……それは分かってるよ」

「まあ結果オーライです。そのせいでレッドがキレて私が死にましたが気にしてません」


「ご、ごめんな」

「ハハハ! まあそういう事だからよ……なあ、ニシキ」


「何だ――っ!」



キッドは俺へと向いて、額を指で突いた。



「――次は勝て。お前がアイツに負けたらムカつくんだわ」


「!」


「じゃあな〜」

「あっもう行っちゃうんですか」



その激励をもらった後キッドはそう言って踵を返す。

何か、急いでいる様子で。



「ハハ、俺の可愛い弟子に労いの言葉を掛けてやらなきゃいけないんでな」





「……アラタ様にキッド様って、ファンか何かなのかマコト?」


「はい!!」

「良い返事だな」


「配信者とかではないですが、やっぱりあの舞月の実力トップにあの風貌、見た目だけじゃなく溢れる色気と強者の匂い、そして時折見せる切なげな瞳とか」

「ああ分かった分かった!」


兄が『そういう』目で見られているのが、嬉しかったのは伏せておこう。


「ふふ、貴方もアラタ様のファンだと思っていましたよ。彼を眺める表情が完全にソレでしたからね」

「え」

「でも、ねぇ……まさか『お兄ちゃん』だったなんて……いやあ想像が膨らみますね。子供の頃はきっと仲良しだったんでしょうね」

「や、止めてくれ」

「一緒にかけっことかブランコとかご飯食べてたりしてたんですよね?」

「頼む、ほんとに」

「兄と弟――尊いですねぇ!」

「やめろ……」



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