思わぬ協力者②



「……勝手に話を進めないでくれるかな」

「ふふっ別に良いじゃないですか。元々二対二がお望みだったのでしょう?」

「そうだね。ただこちらもPKK職が相手になるとは思わなかったもので――」

「――冷静に考えて、PK職二人で生産職相手ってヤバいですね。そう思いませんかそっちの悪趣味なリスナー方?」

「……」

「……まあ、それでも当然ニシキさんが勝ちますがね」


レッド相手に畳み掛けるマコト。最後の台詞は、俺だけに聞こえるよう小声で言って。


正直言うとスカッとした。俺は別に闘っても良かったんだが……色々強引だったしな。やり口も嫌なものだし。

あと対人戦闘は何事もやってみなきゃ分からない。まあ良いように受け取っておこう。



「って訳で、ニシキ&私対そこの『間抜けダブルセット』で。オーケーですか?」

「……仕方ない。全く見張りは何をやっているんだか」


「……絶対殺る」

「レッド。いいの」

「ああ。まあ頑張ってくれ――あのPKK職は無視で良い」


話す蛆の王達。

どうやら、本当に二対二でやるようだ。


「……らしいです。まあニシキさんは何もしなくて良いですから」

「おいおい、流石にそんな訳にはいかないって」

「ふふ、気になりません? ここまで煽った私がどれだけ奴らに強く出れるのか」

「――!」


そりゃ、正直気になる。


「後は見てみたいんですよ、あのレッドが悔しがる姿を」

「もう既に結構キテるとおもうぞ」

「ふふっ! 奴の狙いは正真正銘貴方です。『客』も同様に。それを、他所から現れた私がめちゃくちゃにしたら?」

「凄いイラつくだろうな」

「そうでしょうそうでしょう! レッドも出てこないですし余裕です。決闘後に襲ってきたら……その時は考えますがね」


早口で伝えるマコト。まあ良いか……マナーが悪いのは確かだし、彼らには少し痛い目を見てもらおう。

何というか、彼女は本当にPK職に容赦がないな。



「――それじゃ、始めましょうか!」



《決闘を開始します》



「それじゃ私はニシキさんの盾になりますので」

「なんか嫌だなそれ」

「ただ流石に二、三度ぐらいは貴方にも攻撃が行くのでお気を付けて」

「? 分かった」


「……」

「ガベージ。やるよ」

「チッ……分かってる」


どこか機嫌の悪い二人。

対照的に機嫌が良いマコト。


「――『ウィークショット』」


構え、矢を放つトラッシュ。

無駄の無い動き、そして一寸の狂いも無い――俺の首目掛けた一矢だったが。


目の前に、仲間が立ち塞いだ。



「――っとぉ! ふふ、ニシキさんは私が守りますから」

「……」

「まあまあ、私もアイツらの攻撃なんて受けたくないですがこうしないとHPがね」

「そりゃそうだけど、何かムズムズするな」

「商人の台詞とは思えませんね」


「ッ、アイツら――」

「ガベージ!」



決闘中、コソコソと話す俺達にイラついているのだろう。

案外気は短いのかもしれない。



「パワーブレイク!!」

「――ぐっ! ああ愉快愉快。趣味の悪い配信をぶち壊すのは楽しいです」


激情し、突っ込んできたガベージ。


背よりもデカい大剣を、軽々しく――そして凄まじい勢いで振るう彼女。

その一撃を食らうことに全く怖がる素振りを見せないマコト。



「クソがッ、どけ――『タックル』!」

「――『シールドガード』、どきませんよ」



身体を突き出し、無理矢理タックルで退かそうとしたガベージ。

それを盾によっていなす彼女。

……明らかに、『遊ばれている』様子だった。


「――!」


そして、ふとトラッシュを見ると目が合った。

脱力した様に弓を構えてる彼女。


静かな様子だが、確実に怒りの感情は見える。



「――『ノーティス』、ガベージ、今!」

「ッああ――『ソードオブテラー』!」


「おっ! ようやく発動しましたか――来ますよニシキさん!」

「ああ――」



『ソードオブテラー』。

ガベージがそれを発動すると、前に居たマコトの身体が硬直。

既視感のある名前からして『恐怖』状態だろう。


そしてトラッシュがスキルを発動した事で――


「『弱点分析』みたいなもんか――」

「らァ!!」

「っと、『スラッシュ』」

「ぐッ……クソ――」


俺の身体、腰の部分に赤い印が表示される。

『ノーティス』。名前は変わるが鑑定士のアレとほぼ同じだろう。

そこ目掛けて大剣を振るうガベージ。


狙いが分かれば、避けるのは容易だった。

現れた隙を狙ってカウンターを放てば減るHP。

普通のPK職よりも減少量が多い、彼女もダストと同じ何かの『特化』か?


「『オールストレンジ』!!」

「!」


体勢を立て直したガベージが唱えると、彼女の手と剣がオレンジ色に輝きだす。

――あの感じは、『黄金の一撃』と同じ。


使っているから分かる、『次の一撃を強化する』スキル。


「――おらァッ!!」

「――『パワーショット』」


威圧感のある大声で剣を振り被るガベージ。

呼吸を合わせる様に、後ろのトラッシュも矢を放つ。

まずは矢が俺に到達し――次いで大剣の一撃が俺を襲うだろう。


シミュレート。

この矢を二歩下がって『反射』、その後大きく振りかぶったガベージの一撃を避ける。そして反射した後の斧を振り上げカウンター。

彼女はそこまで『スピード』は無い。少しでも距離を取っておけば対処出来る――その分当たれば不味そうだけどな。


……と、ここまで考えといてアレなんだが。



「ふふっニシキさん、ありがとうございます」


「――ッ!?」

「……止まって、ガベージ!」



振りかぶった大剣に、自分から突っ込んでいくマコト。

抵抗空しく――ガベージのそれは彼女に衝突。


マコトのアイコンタクトで、早くも状態異常が切れているのは分かっていた。

恐らく精神系の状態異常の耐性持ち。ガベージの反応からもっと長いものだったんだろう。


そして。

今、彼女のHPは『1』になってしまったわけで。



「あーあ、やっちゃいましたね」


「……くッ、そが――」

「……ッ」


「それじゃ――『流儀選択』、『弱者の苦痛』――」



黒いオーラがマコトを包む。

そして、淡々と彼女は唱えていく。

俺と闘った時と同じ――そのスキルを。



「――『復讐開始』」



そしてそのオーラは、爆発。


衝撃波――



「――がァッ!?」

「ッ、ガベージ! 伏せて――っ!?」


「――うお!?」

「あ、すいません……この衝撃味方にも来るんですよ」



……そういうことは先に言っておいてくれ。

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