思わぬ協力者②
☆
「……勝手に話を進めないでくれるかな」
「ふふっ別に良いじゃないですか。元々二対二がお望みだったのでしょう?」
「そうだね。ただこちらもPKK職が相手になるとは思わなかったもので――」
「――冷静に考えて、PK職二人で生産職相手ってヤバいですね。そう思いませんかそっちの悪趣味なリスナー方?」
「……」
「……まあ、それでも当然ニシキさんが勝ちますがね」
レッド相手に畳み掛けるマコト。最後の台詞は、俺だけに聞こえるよう小声で言って。
正直言うとスカッとした。俺は別に闘っても良かったんだが……色々強引だったしな。やり口も嫌なものだし。
あと対人戦闘は何事もやってみなきゃ分からない。まあ良いように受け取っておこう。
「って訳で、ニシキ&私対そこの『間抜けダブルセット』で。オーケーですか?」
「……仕方ない。全く見張りは何をやっているんだか」
「……絶対殺る」
「レッド。いいの」
「ああ。まあ頑張ってくれ――あのPKK職は無視で良い」
話す蛆の王達。
どうやら、本当に二対二でやるようだ。
「……らしいです。まあニシキさんは何もしなくて良いですから」
「おいおい、流石にそんな訳にはいかないって」
「ふふ、気になりません? ここまで煽った私がどれだけ奴らに強く出れるのか」
「――!」
そりゃ、正直気になる。
「後は見てみたいんですよ、あのレッドが悔しがる姿を」
「もう既に結構キテるとおもうぞ」
「ふふっ! 奴の狙いは正真正銘貴方です。『客』も同様に。それを、他所から現れた私がめちゃくちゃにしたら?」
「凄いイラつくだろうな」
「そうでしょうそうでしょう! レッドも出てこないですし余裕です。決闘後に襲ってきたら……その時は考えますがね」
早口で伝えるマコト。まあ良いか……マナーが悪いのは確かだし、彼らには少し痛い目を見てもらおう。
何というか、彼女は本当にPK職に容赦がないな。
「――それじゃ、始めましょうか!」
☆
《決闘を開始します》
「それじゃ私はニシキさんの盾になりますので」
「なんか嫌だなそれ」
「ただ流石に二、三度ぐらいは貴方にも攻撃が行くのでお気を付けて」
「? 分かった」
「……」
「ガベージ。やるよ」
「チッ……分かってる」
どこか機嫌の悪い二人。
対照的に機嫌が良いマコト。
「――『ウィークショット』」
構え、矢を放つトラッシュ。
無駄の無い動き、そして一寸の狂いも無い――俺の首目掛けた一矢だったが。
目の前に、仲間が立ち塞いだ。
「――っとぉ! ふふ、ニシキさんは私が守りますから」
「……」
「まあまあ、私もアイツらの攻撃なんて受けたくないですがこうしないとHPがね」
「そりゃそうだけど、何かムズムズするな」
「商人の台詞とは思えませんね」
「ッ、アイツら――」
「ガベージ!」
決闘中、コソコソと話す俺達にイラついているのだろう。
案外気は短いのかもしれない。
「パワーブレイク!!」
「――ぐっ! ああ愉快愉快。趣味の悪い配信をぶち壊すのは楽しいです」
激情し、突っ込んできたガベージ。
背よりもデカい大剣を、軽々しく――そして凄まじい勢いで振るう彼女。
その一撃を食らうことに全く怖がる素振りを見せないマコト。
「クソがッ、どけ――『タックル』!」
「――『シールドガード』、どきませんよ」
身体を突き出し、無理矢理タックルで退かそうとしたガベージ。
それを盾によっていなす彼女。
……明らかに、『遊ばれている』様子だった。
「――!」
そして、ふとトラッシュを見ると目が合った。
脱力した様に弓を構えてる彼女。
静かな様子だが、確実に怒りの感情は見える。
「――『ノーティス』、ガベージ、今!」
「ッああ――『ソードオブテラー』!」
「おっ! ようやく発動しましたか――来ますよニシキさん!」
「ああ――」
『ソードオブテラー』。
ガベージがそれを発動すると、前に居たマコトの身体が硬直。
既視感のある名前からして『恐怖』状態だろう。
そしてトラッシュがスキルを発動した事で――
「『弱点分析』みたいなもんか――」
「らァ!!」
「っと、『スラッシュ』」
「ぐッ……クソ――」
俺の身体、腰の部分に赤い印が表示される。
『ノーティス』。名前は変わるが鑑定士のアレとほぼ同じだろう。
そこ目掛けて大剣を振るうガベージ。
狙いが分かれば、避けるのは容易だった。
現れた隙を狙ってカウンターを放てば減るHP。
普通のPK職よりも減少量が多い、彼女もダストと同じ何かの『特化』か?
「『オールストレンジ』!!」
「!」
体勢を立て直したガベージが唱えると、彼女の手と剣がオレンジ色に輝きだす。
――あの感じは、『黄金の一撃』と同じ。
使っているから分かる、『次の一撃を強化する』スキル。
「――おらァッ!!」
「――『パワーショット』」
威圧感のある大声で剣を振り被るガベージ。
呼吸を合わせる様に、後ろのトラッシュも矢を放つ。
まずは矢が俺に到達し――次いで大剣の一撃が俺を襲うだろう。
シミュレート。
この矢を二歩下がって『反射』、その後大きく振りかぶったガベージの一撃を避ける。そして反射した後の斧を振り上げカウンター。
彼女はそこまで『スピード』は無い。少しでも距離を取っておけば対処出来る――その分当たれば不味そうだけどな。
……と、ここまで考えといてアレなんだが。
「ふふっニシキさん、ありがとうございます」
「――ッ!?」
「……止まって、ガベージ!」
振りかぶった大剣に、自分から突っ込んでいくマコト。
抵抗空しく――ガベージのそれは彼女に衝突。
マコトのアイコンタクトで、早くも状態異常が切れているのは分かっていた。
恐らく精神系の状態異常の耐性持ち。ガベージの反応からもっと長いものだったんだろう。
そして。
今、彼女のHPは『1』になってしまったわけで。
「あーあ、やっちゃいましたね」
「……くッ、そが――」
「……ッ」
「それじゃ――『流儀選択』、『弱者の苦痛』――」
黒いオーラがマコトを包む。
そして、淡々と彼女は唱えていく。
俺と闘った時と同じ――そのスキルを。
「――『復讐開始』」
そしてそのオーラは、爆発。
衝撃波――
「――がァッ!?」
「ッ、ガベージ! 伏せて――っ!?」
「――うお!?」
「あ、すいません……この衝撃味方にも来るんですよ」
……そういうことは先に言っておいてくれ。
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