王都騎士団の片手剣①




交易クエスト『王都騎士団の片手剣』


どうやら王国にて、王都騎士団が取り扱う片手剣が少し余ってしまったらしい。

隣町の武器屋に売り込んでみよう。



報酬:270,000G+

  

クエスト失敗時は135,000Gを失う




「ただの在庫処分じゃないか? これ……」



今日は商人ギルドにて、その交易クエストを受けていた。

荷車に積まれたそれは――値段を見るに結構良いモノだとは思う。

交易の報酬額も高いし。




【王都騎士団の片手剣】


クエストアイテム。

王都騎士団が使用している片手剣。

刀身は美しく研磨され、更に鍔には美しい宝石の装飾が施されており高級感がある。





「……高級感って言ってもな。確かに綺麗なんだけど――ってこれ装備出来るのか」



荷車から、取り出して手に持ってみる。

確かに刃はその辺のスチールソードより綺麗に仕上げられているし、鍔には白い宝石が輝いていた。

そしてこの感覚は――ステータス補正がしっかり効いているみたいだな。


  

「白い宝石、か」



この前の交易クエストでは、明らかに情報が足りていなかった。


さて。

……少し、ここに寄って行こうかな。



《上級宝石職人『ガーネット』の工房へ移動しました》



扉を開けると同時に、こちらを見るガーネットとエリア。はは、なんかもう彼女もここに馴染んできているな。



「あ!」

「あ、ニシキじゃん」


「どうも、ちょっと聞きたい事があってな」


「ん? エリア! 見てやりな!」

「はーい! なんでしょうか――」



駆け寄って来るエリア。

小さい身体なのはそのままだが、昔と比べ落ち着いている様にも見える。



「――わああ!!」


「はは、そんな急がなくても良いって」



と思ったら足を引っ掛けて体勢を崩す彼女。

……前言撤回だ。





《王都ヴィクトリア・非戦闘フィールドに移動しました》



「……じゃ、気を付けて行ってきな~エリア」

「はあーい!」


「い、良いのか? 仕事中だったんじゃないか」

 

「ああ? 気にすんな!」

「お任せください!えっへん!」


「そういう事なら……」



アレから。

片手剣についている宝石について聞くだけのはずだったんだが、ガーネットの勧めでエリアも付いて来るようになった。


……まあ良いか。今回の交易先は隣町で、前みたいに危険がある訳じゃないって商人のNPCが言ってたし。

問題は交易相手なんだけど。

ガーネット的にも、エリアに色々経験させたいのかもな。



「それじゃあ行きましょー!」


「はは、ああ」





それ以外にも王都内で情報を集めた後に、荷車を引きながら王都の門を出る。

いつもなら戦闘フィールドが広がるのだが、今回は平和そうな道が続いていた。


隣町なんて、きっとクエストでしか行かなそうだしな。

というよりクエストじゃないと行けないんだが。



「あ、スライムさん!」


「平和だ……」



広がる草原に出来た、土の道を歩いていく。


どうやら本当に危険はないらしく、道から少し離れた所にスライムが居るぐらいだ。


しかも、名前が表示されない他のNPCが同じ道を歩いている。

専用フィールドだからこその配慮だろうか?確かに俺達二人だけだと寂しいもんな。



「……ふあぁ」


「はは、毎日大変そうで」



荷車の上で欠伸を一つ、うとうとと揺れるエリア。

いつも元気いっぱいな彼女が懐かしいよ。



「ガーネットさんが厳しいのです……」


「そんなにか?」


「はい! でも最近ようやく『しるし』を貰えました!」


「『印』?」


「そうです、これを持っていれば宝石加工職人として認められる――そんなやつです!」


「へえ、凄いじゃないか。じゃあもう肩書はしっかり加工職人なんだな」


「へへ~頑張ってんですよエリアは~」



その『印』であるカードの様なモノを俺に見せつけた後、くねくねと身体を動かし照れるエリア。

弁護士で言う所の弁護士バッジ的なモノか。

この年でソレを持っているのは実際凄い事だろう。



《隣町・エクレアに移動しました》



「あ、着いたな」

「王都に近いだけあって、ひともおおいですね~」

「あと可愛い名前ですよね!」

「ははは」


俺としてはお菓子の方が出てくるその町。

クエスト専用エリアといえばかなり力が入っていた。


NPCの人は沢山居るし、レンガ造りの建物も……光景もしっかり『街』って感じ。

こういう所がRLの凄い所でもあるんだろう。ロアスさんの居るラロシアアイスの辺境とかもしっかり作ってあったしな。



「後は武器屋の所に売り込みに行くだけなんだが……」


「あそこじゃないですか?」



《武器屋・トーンリの店》



「はは、ありがとうエリア。間違いないな」


「へへ~♪ エリアにお任せください!」


「それは頼もしい――じゃ、行くか」




NPCトーンリ。


彼の見た目は、褐色の肌にスキンヘッド、おまけに強面。

明らかに厳しそうな人物であり、実際間違っていなかった。



「――ああ!? 騎士団の片手剣だぁ? 帰れ帰れ!」


「ひゃぁ!?」

「話だけでも聞いてくれないか?」


「王国の在庫処分なんかに付き合ってやれるか! そんな見てくれだけの武器によぉ!」



在庫処分言われてるし。

まあ、実際そうなんだろうけど。


だが――見てくれだけってのは訂正しとかないとな。

ここでかき集めた情報が役に立つってもんだ。



「あーこの片手剣はな、スチールよりも等級が上のチタンインゴットを使って作られたんだ」


「刃はリーフタートルの甲羅を加工した砥石で研がれていて、鋭い切れ味を誇っている」


「王都の鍛冶士によって作られたコレは、スチールソードと比較すればその差は歴然だ」



とりあえず王都の武器屋に聞いた情報を並べる。

メモを眺めながらだからちょっと硬いが伝えられれば十分だろう。



「……へえ、じゃあこの小奇麗な装飾は何だ? こんなもん付いてるから無駄に高いんじゃねーのか!?」



案外素直に聞いてくれていた武器屋。しかし今度は、片手剣の鍔の宝石に手を当て声を荒げる。


と――コレも勿論、予想していた問いだ。

そしてそれの答えは……彼女に任せる事になっている。



「エリア。話せるか?」

「は、はいです!」


「ああ?」



横にいたエリアに声を掛ける。


《――「もしこの宝石について説明する時が来たら、エリアが説明します!させて下さい!」――》


思い出すのはさっきの言葉。

事前に彼女から申し出を受けていたから、エリアも覚悟は出来ているだろう。



「……何だよ?」


「あっ、えっと、その……」


「早くしてくんねーかな!? こっちも何時までも待ってらんねーんだわ!」


「うう……」



明らかに委縮しているエリア。

まあ、仕方がないだろう。覚悟はしていたとしても相手がこれじゃ。



《報酬額が減少しました》



「……」



鳴るアナウンス。まあ明らかにマイナスポイントだもんな。

でも――ここで安易に助け船を出しては、エリアの為にならない。


後ろから、そっと背中を押してやるだけが俺の役目。



「自信を持てエリア。君はもう、『職人』の一人なんだから」


「……!」



小さな背中、震える肩に手を置いてやった。

これぐらいは許されるだろう。そしてここからは彼女次第だ。



「……ありがとうございます、ニシキさま」


「まだかよおい!」



やがてその震えは収まった様だ。

目の前の大きな声にも、彼女は動じていない。



「――これは、ヴィクトリアストーンに特殊な加工を施して剣に埋め込んだものです」


「この剣の装備主は本来よりも強い力で、速い動きで戦う事が出来る様になります」


「ただのお飾りじゃなく、それらの効能はこの宝石による恩恵です!」



うん、ガーネットから聞いていた通りの説明だ。

しっかりエリアも分かっていたんだな。



「……そうかい。でもな、アンタみたいな子供に説明されても納得できないんだわ」

「へへ――エリアはこーいうモノなんですよ!」


「!? 王都の職人証明書じゃねーか! なんでこんな子供が――」

「――そりゃ、この子が加工職人だからだろ」



どこぞで見た時代劇の一幕の様に、エリアはその印を見せつけた。

狼狽える武器屋を見れば――やはりこの年でそれを持っているのは凄い事なんだろうな。



「……ああ、価値は分かった。でもな、こう説明されても今一まだ納得できないんだわ」



っておいおい。

まだ突っかかって来るか……。

確かにコレは商人NPCがああ言ってくるのも分かるな。



「に、ニシキさまぁ……」



不安そうに見るエリア。


情報は全て出し切った。

交渉材料はもう無い――と思ったが、思い当たる『手』が一つだけある。


もう言葉じゃなく、身体で示すしかないって訳だ。

彼のその見た目からしてコレが一番効くかもしれない。



「それじゃ――『実演販売』といってみよう。付いてきてくれるか?」


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