エピローグ:強者達



『なあブラコ――』



《アラタ様が貴方のフレンドを解除しました》


《アラタ様にフレンド申請を送りました》


《アラタ様がフレンド申請を受諾しました》



『なあ、何かこれ恒例行事みたいになってないか?』

『君が不愉快な言葉を発するからだろう』


『いやいや次は無い次は無い言ってて結局許しちゃうもんねアラタ君は』

『……それで。錦が弟子を持ったってのは本当なのかい?』


『おう!俺の可愛い弟子が見て来たってよ!』



とある新しめのギルド、その一室。

そこで――黒のシルクハットを被った彼が、メッセージで話していた。


アラタのその質問に対し、後ろに居たオッドアイの少年に声を掛ける。



「なあアバロン!」


「えっ!?あ、ああ。ニシキさんの事か……そうだよ、弟子は2人。結構かわいくて話かけれなかった……」



『……そうか。遂に錦もこの世界でそんな立場に……』

『二人とも可愛い感じの女の子だってよ。案外アイツも――』


『――それは違う。錦は『そういう』子じゃないよ。ゲームとはいえ真剣に教えている筈だ』

『そ、そっすか……』



(相変わらずブラコンだよなぁ……なんて言ったらまた刀飛んでくるな)



思わず、キッドは苦笑いしながら答える。

メッセージを飛ばすアラタを想像しながら。



『それにしても、君は『弟子』なんて取らないんじゃなかったのかい?ゲームなのに何で他人の教育なんて、ってよく言ってたよね』


『……気が変わったのさ』


『それはまた何でかな』



(痛い所ついてくるな、ほんとコイツ)



珍しく言葉に詰まる彼に、アラタは続ける。

そしてキッドは、また珍しく語気を正して彼に告げた。



『ああ。舐めてたのよこのゲームを。たかがゲームなんだってな』


『でもそれは違った。案外自分には影響力ってモノがあるらしい。この世界で、マジでオレを追い掛ける奴がいたのさ』


『這い上がって来たソイツを目のあたりにした瞬間――孤高を気取った自分自身も、あっさり影響されちまった』



『弟子って言ってもほぼ放任だけどな』と笑う彼の背後。


そこには――



「なんかキドっちがマジになってる~オモシロいね」


「ちょ、ちょっとブラウンさん、怒られるって!」


「ヘーキヘーキ!カレは優しいからね」



一人はオッドアイの邪眼術士。

もう一人は……派手に遊んだ茶髪の、軽い雰囲気の裁縫術士が居た。



『へえ、そうかい』

『ああ。ニシキにとってのテメーみたいに。あーあ、アイツも弟子に呼び込んどくんだった』


『……!』

『まっ多分アイツも、この調子ならお前を忘れるぐらいに楽しんでるかもな」


『……それだと良いんだけどね』

『だからバカ真に受けんな、冗談だろうが!』



「あっまたキドっちが焦ってる。オモシロいね~」


「ブラウンさーん!!!」


「あの様子じゃ実は女のコと話すのも不得意そう」


「こっ殺されますよぉ!!」


「ふふッ大ジョーブだっての!聞こえてない聞こえてない~」



背後の声に、キッドはあえてスルーを決め込んだ。



(アイツらマジで……ま、許してやるか。つかアバロンの方が声でけえし)



『ははは。冗談がきついね君も』

『ったく……じゃあなアラタ。思ってたより楽しいわ、このゲーム』


『まったく、本業を疎かにしない様にね。それじゃ』

『程々に気を付けるぜ!』



そう言って、お互いはメッセ―ジを切る。



「……ふう。さて――アバロン、お前『ニシキ』から確かにそう言われたんだよな?」

「は、はい」


「じゃあ頑張らねーとな!アイツの弟子ならきっと強いぜ」

「はい!ニシキさんには……まだ敵う気しないですけど」


「ふーん?その割には燃えてんじゃん」

「……はい、燃えてます!『釜茹』です!」


「うんうん、そりゃ良い事だ。ほどほどに頑張れよ」

「はい!」


「よーしよし。えらく素直になりやがって、一体誰の影響だ?」

「へへ……秘密です」



意気込むアバロンの頭を撫でながら、彼は部屋の窓から外を眺めた。




(ふう……まさかコイツが降参を選択する程とは)




アバロンの職業は厄介な『邪眼術士』。

数々の状態異常を付与する眼術、特に重い犠牲は伴うが相手を一時的に完全な闇へ落とすスキルもある。


加えてアバロン自身のリアルスペックの高さもあり、かなり苦戦するだろうとキッド予想を立てていた。



(降参だぜ、降参。しかも『天葬』を食らってな!)


(ああ――話を聞いてれば、本当にアラタに似てきてやがる)


(化け物みてえな成長スピードも、闘った相手を変えていくのも)



良い意味で裏切られた、と。

その商人を思い浮かべながら――




「――ハッ。マジで強くなったな……『錦』」




そう、彼は静かに呟いた。










「……正直、アイツがブラウンとも会ってるのは想定外だったけどな」


「――ん?何か言った?」


「いーや。案外この世界は狭いなって思っただけよ」


「ふーん?ねえキドっち、やっぱそのクソダサシルクハット止めない?帽子ならオレが作ったげるから。ダサいし」


「要らねえお世話だ!つかテメェはその呼び名を止めろ。背筋がぞわっとすんだよ!」


「……し、師匠。俺は似合ってると思います!」


「アバロンに言われるとちょっと複雑だな」


「な、何でですかぁ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る