エリアの願い①



昇進クエスト『商人という職業』


とある商人が、君に頼みたい事があると言っている。

上位職への道へも開けそうだ。


報酬:200000G

  :上位職への転職




特殊昇進クエスト『エリアの願い』


宝石職人見習い・エリアが、君に頼みたい事があると言っている。

上位職への道へも開けそうだ。


報酬:2000000G

  :上位職への転職

  :???


クエスト失敗時は再チャレンジ不可




『また』、二つ現れた選択肢。



「そのクエストを受けるのかい?」



商人ギルド。

NPCがそう確認する。


上位職……そして報酬の二百万Gはかなり魅力的だ。


王都への道へと同様――迷う事なんて無いだろう。

それに、エリアと久しぶりに会えるんだしな。



「ああ、受けるよ」



《特殊昇進クエスト『エリアの願い』を受諾しました!》



「そうかい。そうだね……一つアドバイスをしてあげよう」


「え?」



俺がそれを受けると同時に話し出すNPC。



「私達商人は、他の生産職達を繋げるような役割を担ってるんだ」


「……そう、なのか」


「うむ。今はまだ分からないだろうけど、君がこの世界を生きていけばおのずと分かるはずだよ」


「?分かった」


「私達は常に他の生産職を助け、また助けられている。それをしっかり覚えておくといい」


「あ、ああ」


「それじゃ、頑張りなさい」



商人のNPCはそう言い終わると、俺へ手を振ってくれる。

良く分からないが……きっと後々それは分かるはずだ。






商人ギルドを後にしてすぐ。



《クエスト開始に伴い、専用フィールドに移動します》


《クエストを開始します》



そのアナウンスが流れると共に――周りのプレイヤー達が消えて。



「……うえええーん! おばあちゃん助けてぇ……」



《エリア LEVEL――》



「……」



道端で泣きじゃくる少女が現れる。

当たり前だが――それは見知った顔だった。


これは、声を掛けるべきなんだろうか。

いや掛けなきゃ始まらないとは思うけどさ。



「……はぇ?あ……ニシキさま……?」


「あ、ああ。元気か?」



……その選択肢に迷っていると目が合う。

目が赤くなり、鼻をすすっている彼女。

何とも言えない気まずさが俺達を襲った。


いや、どうすりゃ正解だったんだ……。



「どうしたんだ?エリア」


「あ……その……申し訳ありません、たいへんなお見苦しいおところを……」



そのまま地面に座り込みながら言われても、悲壮感しか無いんだが。日本語もちょっとおかしいし。


一体何があったのか。



「その、どこの宝石職人様も弟子として取ってくれなくて……」


「弟子?」


「はいです、師匠様候補は沢山見つかったのですが、皆さんエリアを子供と馬鹿にしてまともに取り合ってくれなくて……」


「ああ……」



そりゃ、エリアは正真正銘子供だからな。



「……ニシキさま?エリアは子供じゃありませんよ!」


「ご、ごめんごめん」



心の声が漏れていただろうか。

エリアがジトっとした目で俺を見ている。



「その、俺に手伝える事があるなら手伝うぞ?」


「!本当なのですか!あ、でも……」



ぱあっと顔が明るくなると同時に、また暗くなるエリア。

……俺に頼るのが申し訳ない――そう思っているのだろう。



「エリア、『出世払い』って聞いたことあるか? 」


「……え?」


「今は俺を頼って良い。でもエリアが立派な職人になった時、今度は俺がいっぱい頼らせてもらう。これじゃ駄目かな」


「……!わ、分かりました!その時はエリアにたっくさん頼ってください!」


「はは、ああ」



こういう時は便利な言葉だ。

エリアがその顔色を取り戻していく……どうやら選択肢は間違えていないみたいだな。





「……エリアは考えたんです。師匠候補様に認めてもらうには、自分の製作した物を見せたらいいんじゃないかって」


「でも、製作道具しかエリアは持って来てなくて……一番大事な、『宝石の原石』が無いんです」


「それで……この王都の南のある場所に、『ファントムレッド』という宝石の原石があるらしいのです。それの採取をニシキさま、お手伝いして頂けませんか……?」



つらつらと言い終わった彼女の言葉の後。



《クエストが進行しました》




特殊昇進クエスト『エリアの願い』


宝石職人見習い・エリアと共に、宝石の原石『ファントムレッド』を採取しに行こう。

自身の上位職への道へも開けそうだ。


報酬:2000000G

  :上位職への昇進

  :???


クエスト失敗時は再チャレンジ不可


 


うん、クエスト案内もそう言っている事だしこのまま進めていいだろう。



「ああ、一緒に行こうか。俺はその『ファントムレッド』?とやらは知らないから案内は頼むぞ」


「はい!えっと、エリアも詳しくは知らないのですが……行けば分かると思います。はい」


「分かった。それじゃ早速行こうか」


「!もう大丈夫なのですか? 準備はしなくて良いのですか? 一人で大丈夫なのですか?」



《ここからはパーティーを組んでクエストを行う事が出来ます》


《このままクエストを進行しますか?》



「……はい、と」


 

《パーティーでの参加をお勧めしますが、よろしいですか?》


《なお失敗した場合、再チャレンジは不可です》



また、エリアからもアナウンスからも心配された。

なんだかコレもデジャヴだな……



「『大丈夫』。準備はすでにしっかりやった。前みたいな事にはならないはずだ」


「!に、ニシキさまがそう言うのなら……!」



そう声を掛ければエリアは頷いてくれた。

次は――絶対に、あんな事にはさせないつもりだ。


どんな奴らでもモンスターでも、彼女は守ってあげないと。



「それではよろしくお願いしますです、ニシキさま」


「ああ。行こうか」





《クエスト開始に伴い、専用フィールドに移動します》


《クエストを開始します》



エリアと共に、王都の南の専用フィールドを歩いていく。


専用と言ってもプレイヤーが居ないだけの戦闘エリア……だと思っていたが、少し違う様だ。

どちらかと言えば餓鬼王からの挑戦状みたいな場所だろうか。



「……わたし、ここ辺りは初めてなのです……ちょっと暗いのですね」


「ああ、足元に気を付けるんだぞ」



時間的には昼だが、森の中とあって大分暗い。


そして、大体これぐらいになればモンスターが――



《ゴブリン LEVEL40》

《ゴブリン LEVEL40》



居た。

そして――まだ気付かれていない。



「……エリア。ここに」


「!は、はい……です」



バレないよう微かな声で、俺は彼女に待つよう指示する。


そして――あるモノをエリアに渡す。



「へ、これ……」


「もしエリアが危険になったら使うんだ、出来るか?」



《エリアに麻痺毒瓶を譲渡しました》



「……は、はい」


「良い子だ、それじゃ待っててくれ」


「はい……!」



それを使う時は来ないと信じたい。


でも――持っていないよりはマシだ。

俺も瞬間移動出来る訳じゃない。不測の敵がエリアに向かった時、それで少しは時間稼ぎが出来るはず。



「――『パワースウィング』」


『ギギャ!? !』



背後からの不意打ちの一撃、そして――



「らあ!」


『ギャ……』



《経験値を取得しました》



「――次はお前だな」


『ギャ、ギャギャ……』



もう一匹。

でも……何だか様子がおかしい。


もしかしなくても、俺に怯えている様な気がする。



「――あ」



そうだ。確か餓鬼王の印って……説明にそれっぽい事書いてたよな。



【餓鬼王の印】


餓鬼王からの挑戦状をクリアした際に得られるモノ。

持っていると、ゴブリン系のモンスターから攻撃されなくなる。



……間違いない。

どうする、襲えばあっちも襲ってくるだろうが……



「……」



こちらを見ているエリア。

……駄目だ。彼女が見ている前で、あまり『そういう事』はしたくない。



「――行け」


『ギャ!ギャギャ――』



《経験値を取得しました》



逃げていくゴブリン。

そして流れるアナウンス。



「……これでも入るのかよ」



思わず突っ込みを入れる。

これなら闘わなくて正解だったな。



「もう大丈夫だぞ、エリア」


「……!はい!お見事でした。ゴブリンさん逃げてましたけど……ニシキさまは何者なのですか?」


「ははは、俺じゃなくて……コレのおかげだよ」



彼女に俺は印を見せる。

職人だろうからか、身を乗り出すようそれを見るエリア。



「……不思議ですね、これ……何かすごく強大な力を感じます」


「だろ、これを持ってるからゴブリンが俺達を襲わなくなかったんだと思う」


「ニシキさま、すごいです!そんなアイテムも持ってるなんて……」


「はは、ありがとう」



これでもかってぐらい褒めてくれるなエリアは。

NPCと分かっていても嬉しい、俺が褒め慣れてないのもあるけどさ。


子供の頃からRLを始めるまで――人に褒められるなんて事はほとんど無かった訳で。

RLをやり始めてから、本当に色々変わったもんだな。



「……ニシキさま?」


「ああごめんごめん。エリアは褒め上手だな」


「!えへへ、エリアは思った事を言っただけですよぉ……」



……それが一番嬉しいって事に、彼女は気付いているのだろうか。

年を重ねて大人と言われる年となった今――エリアは本当に俺とは違って心が綺麗だな。



「あ!そうだ、これ持ってたら良いんじゃないか?」


「へぇ!?、良いんですか?」


「ああ。別に今俺には必要ないしな」



《エリアに餓鬼王の印を譲渡しました》



「……わ、わぁ……しっかり終わったらお返ししますね」


「はは、そうしてくれ」



笑って、また俺達は歩いていく。


……その印は、ゴブリンから彼女を守ってくれるだけじゃない。

エリアが死ねばその印も恐らく消えるんだ。

だから――俺自身が、彼女を守る覚悟を強める効果もある。


……はは、ちょっとのめり込み過ぎかもしれないな。




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