エピローグ:彼の名前を知る者達
王都ヴィクトリア、非戦闘フィールド。
数多くのプレイヤーが集うこの街。
そこには、王都内に居る日々プレイヤー達が偉業を成し遂げ、『ワールドメッセージ』が流れていく。
ちなみにワールドメッセージとはいうものの、その範囲は同フィールドのみ。
ラロシアアイスはラロシアアイスのみ、王都は王都のみと分けられている。
《生産一筋様が『知能の白宝石の指輪』の作製に成功しました!》
「うわ~良いなあ、白宝玉とか売ったらいくらすんだろ」
「リアルで言ったら十万ぐらい?」
「うらやまし~」
《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》
「え、ワールドメッセ連続だ――って50!?」
「餓鬼王からの挑戦状って、死ぬまで戦わせられる奴だっけ?」
「……ソロで50ウェーブとか人間じゃねえだろ」
「ははは、俺なら発狂しそう……職業なんだろ、やっぱ騎士かな」
「竜騎士とか、上手い魔術士とかかもな~」
《メサイア様が『幻竜の太刀+5』の作製に成功しました!》
「おいおいラッシュか?」
「来る時ドバっと来るよなワールドメッセ」
「俺も鳴らしてみてえわ~」
「ははは、俺達には程遠いっての!」
道行く者達は、それを聞き流して終わる。
だが――その『商人』のメッセージを、聞き逃さない者達が居たのだ。
☆
露店エリアのある一角。
『イベント』として、ある魔弓士上位職……魔弓術士の紫髪をした彼女が、押し寄せるファンの対応に追われていた。
『ハルちゃんにワラワラで草草』
『うらやましーーーーー』
『ボクまだ王都いけてないよお……くっそ、ここに来て攻略の差が出るとは』
「わー!!すいませんすいません、いつもありがとうございます☆」
(お、思ってた以上の人が集まったわ……)
VRの世界で、ファンとの握手に応じる遥。
汗は掻いていないが、もし現実なら汗だくだろう。
『リアルで元握手会スタッフの奴が居て良かったな』
『スゲーしっかり五秒で交代してる』
『ファン達訓練されててわらうwww』
「こ、ここ辺りでちょっと休憩させてくださーい☆」
『お疲れハルちゃん』
『誰だよ握手会とか言った奴』
『正直こんな規模になると思わんかったwww』
「あ、ありがとうございます……☆」
(ほんっと、ファン交流って難しいわね。安易にやってみましょう☆とか言わない方が良かったわ……)
流れるコメントを見ながら、彼女は息を付こうとした――そんな時。
《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》
「あ」
『!?』
『今ニシキのアナウンス流れなかった?』
『おい今の何だったんだ!?配信越しだからあんまり聞こえなかったぞ!』
『餓鬼王からの挑戦状をソロってやべーw』
『50ウェーブって、何時間やったらそうなんのよwww』
『確か30ウェーブ以上をソロクリアで鳴ったはず 昔プロゲーマーが名前売る為にやってたらしい』
『ニシキすげ~w』
「あ、あはは。凄いですね……☆」
(……ニシキ君、今どうしてるのかしら)
(はあ、こっちから誘うのはちょっとアレだし……でもなあ)
(あのアラタさんとの一件から、ゲーム内じゃ会えてないし……)
唐突になったアナウンスに、彼女はそう過らせる。
それは、ファン交流の最中だったせいか――
「――また、ニシキ君と遊びたいわ……」
ふと。
疲れからか――彼女はそう口から漏らしてしまう。
『ん?』
『今何て言った?』
『ニシキ君と――なんて?』
「あ、あー!!いや、ニシキさんとコラボでもしたいなあって思いまして!!」
『ハルちゃん急に大声出してくさ かわいい』
『アイツ配信者にでもなったの?』
『なってねーよwww』
『まあまた登録者増えるならいいや』
『行商クエスト連れて行って貰えば??またあのPKK見たい!!』
『ハルちゃんを危険に会わせんな』
『アイツなら大丈夫だろw』
(あ、あぶなかった……疲れってホント怖いわね)
「それじゃ、握手会再開したいと思います☆スタッフさんお願いします!」
彼女はまたファンとの交流に勤しむ。
(花月君。また、誘ってみましょうか……うーんでも……)
未だに、心の中でそう迷いながら。
☆
《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》
「――ああ゛?」
「うわ出た」
「ニシキって……」
「フフ、懐かしい名だね」
レッド率いる、『蛆の王』の四人。
王都、非戦闘フィールドの中――PK職しか入る事の出来ないエリアに彼らは居た。
「……ダストがボッコボコに負けた奴だ」
「ああ!?負けてねえよ!」
「ハァ?負けてたじゃん、アンタのせいでどんだけあの後『収入』減ったと思ってんの?」
「フフッ、まあまあ良いじゃないか」
言い争う三人。
それを止めるレッド。
「そろそろ、彼には『お礼』をしないといけないね。『捨て駒』達」
「……チッ、当たり前だろ」
「ダストはまた負けるでしょ?レッドに任せな」
「あ!?」
「全く、君達は……まあ良い――」
また言い争う三人。
対して彼の燃える様な赤い目が、空を仰ぐ。
「――次に会うのが楽しみだよ、ニシキ」
☆
《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》
そしてまた、露店エリアでブラつく『黒のシルクハット』の男。
デッドゾーンに向かおうとする中――それを聞いていた者の一人。
案の定……彼は、好敵手であるアラタにメッセージを入れていた。
『なあブラコン!今の聞いたか?」
『……』
『おっ、その反応じゃお前王都に居なかったんだな、可哀想に』
『……次。話さないなら切るよ』
『ハハッ、どうしようかな~』
《アラタ様が貴方のフレンドを解除しました》
《アラタ様にフレンド申請を送りました》
《アラタ様がフレンド申請を受諾しました》
『切るってそっちかよ!』
『これ以上無駄な時間は――』
『――分かったっての!良いか?お前の可愛い弟がワールドメッセで出てたんだって』
『……そう、なのか。ちなみに何で出たんだい?』
(ハハッ、声が上ずってるぜ。ほんと面白いなアラタは)
決して口にはしないものの、彼は心の中でそう呟く。
その弟の話題が出た途端に――アラタの声のトーンが変わるからだ。
『あのゴブリンの死ぬまで戦えってやつよ!懐かしいだろ』
『ああ、アレか。錦はどんどん強くなってるね……ただ彼が何も知らず『それ』に遭遇するとは思えない――もしかして、君の差し金かい?』
『気持ち悪いぐらい鋭いな』
『ははは、ゴブリンなんて単体じゃ弱すぎるからね――でも、そうか。五十か……大したものだよ』
『だろ?教えてやった代わりに1Mよこせ』
「……百万如きで足りるのかい?」
「――は?」
キッドは、予測していなかった彼の返事に思わず声を上げる。
「僕には、もう彼と話す『覚悟』も『資格』も無い」
「でも――君のおかげで、今君を通じて僕は錦の活躍を知る事が出来ている」
「感謝しているんだよ『透』。加えて錦へのアドバイスも……本当にありがとう。彼が強くなっているのは、君のおかげでもあるだろうね」
続けて話すアラタ。
穏やかなその声には、複雑な線が絡まった様な想いが宿っていた。
(……ったく。もっと素直になれよ、このブラコンが)
(この俺の立場が、『テメエのモノ』だったらって考えが
メッセージを飛ばしている、アラタの顔は――きっと下を向いている。
それを想像しながらキッドは返答した。
『おいおい、悔しすぎてアタマ可笑しくなったか?』
『……急になんだい?人が君へせっかく感謝している時に』
『確か――俺の『最高記録』が130ウェーブで、『あの舞月ギルド内で最強、女性人気ストップ高』様のアラタさんは100……ちょっとだったっけ?』
『……そういう事だけはよく覚えているものだね」
キッドが挑発する様に言えば、アラタもそれに答えるように返す。
『いやあ~あの時のお前の表情な!スクショしときゃ良かったぜ』
『……』
『結局アレから俺の記録は越せず――』
『――良いだろう。また君は僕の刀の錆になりたい様だね』
《アラタ様からギルドへの招待が届きました!》
《承諾すると『舞月』ギルドへ移動します》
『うわっ必死か 』
『130ウェーブの君が、逃げる訳ないよね?』
『根に持ってんじゃねえよ!』
(……いつか。この兄と弟を引き合わせてやらねえとな)
メッセージで叫びながら、キッドは心の内でそう呟く。
『――ありがとうございます、『木戸』さん』
『ってま、マイちゃん?別に何もしてねえよ俺は……というか兄弟揃ってリアルネームは止めろマジで!ネットリテラシー考えろ!』
ほぼ同時に聞こえたアラタの妹、舞からのメッセージ。
それにまた答えながら――彼はまた好敵手の元へ向かうのだった。
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