エピローグ:彼の名前を知る者達




王都ヴィクトリア、非戦闘フィールド。

数多くのプレイヤーが集うこの街。


そこには、王都内に居る日々プレイヤー達が偉業を成し遂げ、『ワールドメッセージ』が流れていく。


ちなみにワールドメッセージとはいうものの、その範囲は同フィールドのみ。

ラロシアアイスはラロシアアイスのみ、王都は王都のみと分けられている。



《生産一筋様が『知能の白宝石の指輪』の作製に成功しました!》



「うわ~良いなあ、白宝玉とか売ったらいくらすんだろ」

「リアルで言ったら十万ぐらい?」

「うらやまし~」



《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》



「え、ワールドメッセ連続だ――って50!?」

「餓鬼王からの挑戦状って、死ぬまで戦わせられる奴だっけ?」

「……ソロで50ウェーブとか人間じゃねえだろ」

「ははは、俺なら発狂しそう……職業なんだろ、やっぱ騎士かな」

「竜騎士とか、上手い魔術士とかかもな~」



《メサイア様が『幻竜の太刀+5』の作製に成功しました!》



「おいおいラッシュか?」

「来る時ドバっと来るよなワールドメッセ」

「俺も鳴らしてみてえわ~」

「ははは、俺達には程遠いっての!」



道行く者達は、それを聞き流して終わる。


だが――その『商人』のメッセージを、聞き逃さない者達が居たのだ。





露店エリアのある一角。


『イベント』として、ある魔弓士上位職……魔弓術士の紫髪をした彼女が、押し寄せるファンの対応に追われていた。



『ハルちゃんにワラワラで草草』

『うらやましーーーーー』

『ボクまだ王都いけてないよお……くっそ、ここに来て攻略の差が出るとは』



「わー!!すいませんすいません、いつもありがとうございます☆」



(お、思ってた以上の人が集まったわ……)



VRの世界で、ファンとの握手に応じる遥。

汗は掻いていないが、もし現実なら汗だくだろう。



『リアルで元握手会スタッフの奴が居て良かったな』

『スゲーしっかり五秒で交代してる』

『ファン達訓練されててわらうwww』



「こ、ここ辺りでちょっと休憩させてくださーい☆」



『お疲れハルちゃん』

『誰だよ握手会とか言った奴』

『正直こんな規模になると思わんかったwww』



「あ、ありがとうございます……☆」



(ほんっと、ファン交流って難しいわね。安易にやってみましょう☆とか言わない方が良かったわ……)



流れるコメントを見ながら、彼女は息を付こうとした――そんな時。



《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》



「あ」



『!?』

『今ニシキのアナウンス流れなかった?』

『おい今の何だったんだ!?配信越しだからあんまり聞こえなかったぞ!』

『餓鬼王からの挑戦状をソロってやべーw』

『50ウェーブって、何時間やったらそうなんのよwww』

『確か30ウェーブ以上をソロクリアで鳴ったはず 昔プロゲーマーが名前売る為にやってたらしい』

『ニシキすげ~w』



「あ、あはは。凄いですね……☆」



(……ニシキ君、今どうしてるのかしら)

(はあ、こっちから誘うのはちょっとアレだし……でもなあ)

(あのアラタさんとの一件から、ゲーム内じゃ会えてないし……)



唐突になったアナウンスに、彼女はそう過らせる。

それは、ファン交流の最中だったせいか――




「――また、ニシキ君と遊びたいわ……」



ふと。

疲れからか――彼女はそう口から漏らしてしまう。



『ん?』

『今何て言った?』

『ニシキ君と――なんて?』



「あ、あー!!いや、ニシキさんとコラボでもしたいなあって思いまして!!」



『ハルちゃん急に大声出してくさ かわいい』

『アイツ配信者にでもなったの?』

『なってねーよwww』

『まあまた登録者増えるならいいや』

『行商クエスト連れて行って貰えば??またあのPKK見たい!!』

『ハルちゃんを危険に会わせんな』

『アイツなら大丈夫だろw』



(あ、あぶなかった……疲れってホント怖いわね)



「それじゃ、握手会再開したいと思います☆スタッフさんお願いします!」



彼女はまたファンとの交流に勤しむ。



(花月君。また、誘ってみましょうか……うーんでも……)



未だに、心の中でそう迷いながら。






《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》



「――ああ゛?」

「うわ出た」

「ニシキって……」


「フフ、懐かしい名だね」



レッド率いる、『蛆の王』の四人。


王都、非戦闘フィールドの中――PK職しか入る事の出来ないエリアに彼らは居た。



「……ダストがボッコボコに負けた奴だ」

「ああ!?負けてねえよ!」

「ハァ?負けてたじゃん、アンタのせいでどんだけあの後『収入』減ったと思ってんの?」


「フフッ、まあまあ良いじゃないか」



言い争う三人。

それを止めるレッド。



「そろそろ、彼には『お礼』をしないといけないね。『捨て駒』達」


「……チッ、当たり前だろ」

「ダストはまた負けるでしょ?レッドに任せな」

「あ!?」


「全く、君達は……まあ良い――」



また言い争う三人。

対して彼の燃える様な赤い目が、空を仰ぐ。




「――次に会うのが楽しみだよ、ニシキ」






《 《 《ニシキ様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第50ウェーブをクリアしました!》 》 》



そしてまた、露店エリアでブラつく『黒のシルクハット』の男。

デッドゾーンに向かおうとする中――それを聞いていた者の一人。


案の定……彼は、好敵手であるアラタにメッセージを入れていた。



『なあブラコン!今の聞いたか?」


『……』


『おっ、その反応じゃお前王都に居なかったんだな、可哀想に』


『……次。話さないなら切るよ』


『ハハッ、どうしようかな~』



《アラタ様が貴方のフレンドを解除しました》


《アラタ様にフレンド申請を送りました》


《アラタ様がフレンド申請を受諾しました》



『切るってそっちかよ!』


『これ以上無駄な時間は――』


『――分かったっての!良いか?お前の可愛い弟がワールドメッセで出てたんだって』


『……そう、なのか。ちなみに何で出たんだい?』



(ハハッ、声が上ずってるぜ。ほんと面白いなアラタは)



決して口にはしないものの、彼は心の中でそう呟く。

その弟の話題が出た途端に――アラタの声のトーンが変わるからだ。



『あのゴブリンの死ぬまで戦えってやつよ!懐かしいだろ』


『ああ、アレか。錦はどんどん強くなってるね……ただ彼が何も知らず『それ』に遭遇するとは思えない――もしかして、君の差し金かい?』


『気持ち悪いぐらい鋭いな』


『ははは、ゴブリンなんて単体じゃ弱すぎるからね――でも、そうか。五十か……大したものだよ』


『だろ?教えてやった代わりに1Mよこせ』


「……百万如きで足りるのかい?」


「――は?」



キッドは、予測していなかった彼の返事に思わず声を上げる。



「僕には、もう彼と話す『覚悟』も『資格』も無い」


「でも――君のおかげで、今君を通じて僕は錦の活躍を知る事が出来ている」


「感謝しているんだよ『透』。加えて錦へのアドバイスも……本当にありがとう。彼が強くなっているのは、君のおかげでもあるだろうね」



続けて話すアラタ。

穏やかなその声には、複雑な線が絡まった様な想いが宿っていた。



(……ったく。もっと素直になれよ、このブラコンが)


(この俺の立場が、『テメエのモノ』だったらって考えがにじんでるぜ)



メッセージを飛ばしている、アラタの顔は――きっと下を向いている。

それを想像しながらキッドは返答した。



『おいおい、悔しすぎてアタマ可笑しくなったか?』


『……急になんだい?人が君へせっかく感謝している時に』


『確か――俺の『最高記録』が130ウェーブで、『あの舞月ギルド内で最強、女性人気ストップ高』様のアラタさんは100……ちょっとだったっけ?』


『……そういう事だけはよく覚えているものだね」



キッドが挑発する様に言えば、アラタもそれに答えるように返す。



『いやあ~あの時のお前の表情な!スクショしときゃ良かったぜ』


『……』


『結局アレから俺の記録は越せず――』


『――良いだろう。また君は僕の刀の錆になりたい様だね』



《アラタ様からギルドへの招待が届きました!》


《承諾すると『舞月』ギルドへ移動します》



『うわっ必死か 』


『130ウェーブの君が、逃げる訳ないよね?』


『根に持ってんじゃねえよ!』



(……いつか。この兄と弟を引き合わせてやらねえとな)



メッセージで叫びながら、キッドは心の内でそう呟く。



『――ありがとうございます、『木戸』さん』


『ってま、マイちゃん?別に何もしてねえよ俺は……というか兄弟揃ってリアルネームは止めろマジで!ネットリテラシー考えろ!』



ほぼ同時に聞こえたアラタの妹、舞からのメッセージ。


それにまた答えながら――彼はまた好敵手の元へ向かうのだった。



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