エピローグ:黄金色の英雄譚


 

「……はは!ほら言ったろ、大丈夫だって」


「何かもう恥ずかしすぎてどうでもよくなったわ……」


「ははは、魔法剣士『様』カッコ良かったぜ~」


「俺なんて空気だったしな」



俺は、しがない商人。


それに商人二人と、魔法剣士に魔法士。

その五人で氷雪の大鷲討伐後……スレの反応を見て笑っていた。


一人……魔法剣士の『ユウキ』は、顔を真っ赤にしているが。



「ったくよ……こいつら掌返しすげえな」


「まあ、俺達の時もそうだったし……」


「ある意味わかりやすくていいわ」


「あああ恥ずかしいいいい!動画許可とかやめとけばよかった!!」


「ははは、こうして住民たちのモチベアップにつながったんだから良いだろ」


「そうそう、胸張って良いぜ」


「それでもさやっぱキツイって!!何だよあの俺の台詞は!!あああああああ熱くなり過ぎた!」



『ユウキ』は声を上げながら悶絶している。

……何か、最初の時と違って活き活きしてるな。



「……ま、これで俺達は次の街に行ける訳だけど」


「早速行っちゃうか!」


「あ、ああ……盾役兼回復役で頑張るよ」


「良いねぇ!」



『一号』がそう言えば、他の三人も賛同する。


……さて。

『商人最前線』に、新しく仲間が加わった所で――





「――俺は、ここに残るよ」




「え?」


「いやいや、リーダーが居なきゃ始まらないって!」


「なんでだよ!」


「俺もそう思う……」



口を揃えそう言う仲間達に、俺は笑ってしまった。

商人二人に魔法剣士、魔法士の全員が全く同じ顔をしていたからだ。



……本当に、良いメンバー達だな。




「ありがとう。でも――やり残した事があるんだ。『商人最前線』は、お前らに託す!」




そう言って、『一号』と『そうきゅう』の肩に手を置いた。


俺はまだまだ弱い。それはこの大鷲との戦闘でも良く分かった。

商人として自分がもっと強くならないといけないんだ。


そしてこの仲間達は――もう俺抜きでも前に進んでいけるだろうから。



「……マジで、言ってんだよな?」


「ああ」


「そっか……せめて、その残した事だけでも言ってくれよ~」



……正直、こんな事を言うのは恥ずかしかった。


もしそれが失敗して諦めて泣く泣く次の街に……なんて事になったら恥ずかしいし。



でも、まあ良いか。

これである意味、決意は定まったかな。

俺は自分の顔を覚えさせる様メンバーの顔を見まわしてから――





「――俺は、『氷雪の亡霊』を倒す」





そう言った。




「はあ!??」


「ま、マジで?」


「俺でも知ってるぞ、アレは流石に無謀だって」


「……いくら『リーダー』でも……」



一斉に掛かる声。


でも――これは『アイツ』にほんの少しでも近づく為なんだ。

俺も無謀だとは思うけど、このまま進んでしまったらダメな気がした。


彼は初見でそれを倒した。俺はきっとそんなの無理だろうけど……。



「『ニシキ』もそれを倒したんだ、だから俺もあのボスを倒したい。それだけのことだ」



何度も挑戦して、地面に叩き付けられても……やがて、このラロシアアイスの最強を倒してから俺は次に進みたい。

仲間達に頼りっきりだったから――今度は、自分だけの力でそれを打ち破る。



「……ま、マジか……」


「マジでアイツに追いつく気かよ、応援してるぞ」


「に、『ニシキ』ってあの?」


「『ニシキ』って奴は知らねえけど、そいつは亡霊を倒したのか……」


「……はは、ああ。しかも初見でな。すげー奴だよ本当に。それじゃ――ありがとう」


「え!?」


「ちょ――」





《パーティーを離脱しました》




「――また会おうぜ、皆」




このままじゃ、一緒に行きたくなってしまいそうになる。

アイツらに会ってから、RLのヘッドギアを付けるのが何よりも楽しみになった。

しかしこれからは――『孤独』の戦いなんだ。



……正直皆と次のフィールドに行きたい。


でもそれじゃあ、ずっと俺は後悔する。




だから俺は、強制的にパーティを抜けた。



いつからか――俺達は『商人最前線』か何かと呼ばれている。    

その名前に相応しいように強くならなきゃ恥ずかしいしな。

何たって……俺は『それ』の『リーダー』と言われているんだから。



「――おっ、おーい!待ってるぞーー!!」


「――またな~!!」


「――ありがとなー!」


「――――倒せたら連絡しろよ!!」



後ろからの声。

それをまた聞けるのは――何時になってしまうだろうか。

離れていくその者達。

悲しいような、寂しいような。

でも――アイツらなら、このまま最前線を突っ走ってくれるだろう。



ほんの少しだけ先に行っててくれ。

お前らの事はこっちで応援してるから。

もしかしたら、俺は掲示板で腐ってるかもしれないけど。



それじゃ。

――楽しい仲間と、その先に居る背中へ向けて。




「……ああ、待ってろよ。ぶっ倒してくる!」





遥かな先に居るニシキに追いつく為。

次の街で待つ、仲間達に追いつく為。



俺は――ラロシアアイスを駆けて行った。

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