彼が『盾』へと至るまで




「――お前ら全員、今すぐ俺の後ろに付け!!!」




普段じゃ出さない大きな叫び。

気の迷いを消し飛ばす為の声だった。



「……え?いや、お前ヒーラーじゃ――」


「――『一号』、彼の言う通りにするぞ」


「わ、分かった――待ってろ!今行くぜ!」



はは、言っちまったよ。


何やってんだろ俺。



『『『……GAAAAA!!!』』』



大鷲が上空に舞い、オーラのようなものを纏っている。

……もう少し。もう少しで来る。


そして――商人達も、なんとか俺の後ろに着いたようだった。



「う、うおおお!ま、間に合った!」


「……『ユウキ』。何か手があるんだな?」


「――ダメ押しに『ファイアーボール』!そろそろ来るぞ!!」




商人二人と魔法士は、俺へと目を向ける。

……『期待』、そして『責任』を感じる視線。


なぜだろうか。

今は――これが心地良くさえ感じるんだ。



「……俺があの攻撃からお前らを守る。だからお前らはこのまま俺の後ろに居てくれ」


「えっいや、いくらなんでも無理じゃ――」


「おい『一号』!……ああ、分かった――よユウキ」


「『リーダー』が言うなら――た、頼む!」


「分かった!よっし、『ファイアーボール』!」



期待の重圧が、どんどんと俺にかかっていく。

同時に――大鷲の方も、そろそろ来るみたいだ。


ヘイトの方向は魔法士。

しっかりと、大鷲の攻撃が俺を通るように位置を決める。



『『『――GAAAAAAAAA!!』』』



『トリプルアタック』。


上空から、オーラのようなモノを纏い――それぞれ一羽が滑空しこちらへ突っ込んでくる。

それを三回連続、かなりの高威力攻撃。

特に最後の一撃は前衛でも即死は免れないようなモノだ。



「……『武装変化』、『マジックシールド』」



俺の魔法剣をスキルによって変形させる。


名前そのまま――『盾』の姿に。

でも……これだけじゃ駄目だ。



「――『魔力変換』――『オールマジックシールド』!」



全MPを『魔力変換』によって消費する事で魔法剣を強化し、可能になるそのスキル。

自身の身体より1.5倍程大きい、輝く巨大な大盾へと変化する魔法剣。


それを――俺は地面へとぶっ刺し固定した。



「すげぇ!こんな事できんのかよ!」


「魔法剣士、凄いな」


「頼む……く、来るぞ!」



大盾を持ちながら、背後に刺さる視線。


そして――前からは迫りくる大鷲。



『――GAAAAAAAAA!!』


「っ――!!らあ!」



まず一撃目だ。大鷲がオーラを纏い突っ込んでくる。

しかし――全MPを注ぎ込んだその盾は、『今のところ』びくともしない。


きっちりとその大盾により防ぎきれば――大鷲の分身が消えていった。



「よっしゃあ!スゲえぞ『ユウキ』!!」


「……よし――次!」


『――GAAAAAAAAAAAA!!』




二撃目。

それも大盾で防御しようとする。


……しかし――途中で、その大盾は小さくなり――



《『オールマジックシールド』の耐久値がゼロになりました》


《『オールマジックシールド』が解除されます》



「――ぐっ!?……くそっ、おらあ!!」



《『マジックシールド』の耐久値がゼロになりました》


《『マジックシールド』が解除されます》



二撃目、小さくなった盾を抑えながら何とか耐えきった。

消えていく大鷲の分身……だが。


貫通し、半分近く減るHP。

許容ダメージを超えてしまい、受けきった直後に消えていく盾。

効果時間後はデメリットとしてしばらく『武装変化』は使えない。


……限界は来てしまった。

元の剣の形へ戻る魔法剣を握り、諦めるように笑う。



「……はは、やっぱ持たないか――」


『――GAAAAAAAAAAAAA!!』



勿論それは、分かっていた事だ。


あくまで魔法剣士は『器用貧乏』――全てを耐えられるほどの盾は使えない。

限界は来る事は確信していた。


二撃耐えただけ、俺の中では十分だ。



「だ、大丈夫なのか?」


「……ユウキ?」


「お、おい!やっぱ俺達が――」



盾が解除された事で、当たり前だが心配に思ったのだろう。


鷲の一撃が来るというのに、後ろのパーティメンバー達が俺の前に出ようとしているのが分かる。

……商人の金を消費する復活スキルで、あの一撃を凌げる事は勿論知ってるさ。



――でも。

このパーティーの盾役は、俺なんだ。

お前らの『』も『』も――纏めて全部守りたい。



「――良いから!俺の後ろにいてくれ!」


「けど、お前盾が――」


「『一号』!ユウキの言う通りにしよう!」


「――いや、アイツ死んじまうんだって!!復活スキルもねえんだぞ!」


「……っ、それでもだ!」


「俺も身代わりぐらいにはなれるぞ――」


「魔法士が居なくなっちゃ火力が足りないだろう!ここは『ユウキ』に任せるんだ!!」



『商人一号』や魔法士『カトー』が前に出ようとし、それを止めるリーダー。

はは、マジで優し過ぎるよお前らは。

これがゲームでも、それは身に染みて感じ取れる。



……ありがとう。

俺を盾役にしてくれて。

そんなお前らだったから、自分はこうして前に出てるんだ。

この後に大鷲を倒す事に成功し、皆が喜ぶ光景を見れる事に比べれば――



――もう、報酬なんてどうでも良い。

本当に。

このパーティーに入れて良かった。



『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』



前の二羽とは比べ物にならないオーラ。


これが本体――そう俺は思い知る。

だからって、負けてやるかよ。



「……っ、ふう――」




それは『覚悟』を決める為。


HPポーションを飲みこんで――手に持つ魔法剣を深く、前の地面へと刺して。

しっかりと、その持ち手を握りこんだ。



絶対に自分が逃げない様に。

そして――『死んでも』俺の身体が動かない様に。



後ろの大事な『仲間達』を、確実に守り切る為に!!






「っ――かかってこいやあああああああああああ!!!」





迫りくる一撃に、俺は叫んで構えた。




『GAAAAAAAAA!!』


「――うおおおおおらああああ!!!」



滑空し、オーラごと突っ込んでくる大鷲の巨体を身体と魔法剣で受ける。


とんでもないスピードで減っていくHPゲージ。

吹っ飛びそうになる強い衝撃。

逃げ出したくなる迫力の恐怖。



一瞬が地獄の様に長引いていく錯覚。

それでも俺は――地面に固定された魔法剣を離さなかった。



《貴方は死亡しました》



『GAAAAAA…………』


「はっ……やっ、た――」




身体が霧と化して行く中。

最後の一撃を終えて、休息状態に入る氷雪の大鷲。


そして。



「ゆ、『ユウキ』――!!」


「今だ、突っ込むぞ!このチャンスを逃したら終わりだ!!」


「絶対に成功させる!」



後ろを振り返れば――『守りきれた』仲間が見えた。

俺の背中を追い越して、前へと進む者達。


……この戦闘に最後まで居られないのは少し勿体無い気がするが。




「――案外、盾役も悪くないな……」




消えゆく身体のまま呟く。

ある意味死ねて良かったよ。

……今の俺の表情は、きっと誰にも見せられないモノだろうから。







「――『ユウキ』の為にも絶対に倒すぞ!!」


「うおおおおおおお!!Gの残量はたんまりある、これなら余裕で行けるぞ!」


「俺復活!!ありがとな『ユウキ』!!」


「――あとは任せろ、『ファイアーボール』!!」



その後復活した『そうきゅう』も含め、三人が大鷲へと向かっていく。

魔法士も火球で追撃。


そして。



『「『黄金の一撃!!』」』



黄金色、眩しい程に綺麗な一撃が三発――大鷲を襲ったのだった。




《おめでとうございます。フィールドボスを撃破しました!》


《次のフィールドへの入場条件をクリアしました!》


《死亡状態の為報酬は未獲得となります》


《称号:『氷雪の守護者』を取得しました!》


《称号:『仲間の盾』を取得しました!》


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