喧騒の商人ギルド
《王都ヴィクトリアでログインしました!》
《冒険者ギルドに向かってみましょう!新しいクエストが受けられます!》
《商人ギルドに向かってみましょう!新しいクエストが受けられます!》
「……商人ギルドなんてあったのか」
ログインすると同時に、そうアナウンスが流れる。
そういえばあっち方面はまだ行こうとしていなかったから、しっかり見れていなかった。
すっかり『デッドゾーン』に目がやられていたからな……
一日経っても行かないものだから、システム的に教えてくれたんだろう。ありがたい。
「行ってみるか」
俺は、ギルドエリア……王都の西へと進んでいった。
☆
《冒険者ギルド》
《冒険者ギルドへようこそ!ここではモンスターの討伐、物資の運搬等の様々なクエストを受注できます》
《受付NPCに相談するか、クエスト掲示板に貼り出されている依頼を受注し、達成して報酬を獲得しましょう》
職業『冒険者』のアイコンの看板の建物。
そこに入れば、大きな中世の酒場だった。
受付のNPCが何人か居たり、掲示板の様なモノも並んでいる。
まあ、何よりも――
「多い……」
抱いたのはそんな印象だった。
ファンタジーでは最早定番となっているそれだが、こんな人数まで再現しなくても。
ただ受付NPCの前には人が全く見えないから、あくまで待機とかはする必要はないんだろう。
流石にゲームで並んで待つのは勘弁だ。
……ただ、名前が埋もれているのには助かるな。
この人数じゃ――『商人』として変な目を向けられる事も無い。
《受付嬢 LEVEL―》
『ようこそ冒険者ギルドへ!今日貴方が受けられるクエストは――』
□
スライム×10体の討伐
報酬:50000G
□
□
ゴブリン×10体の討伐
報酬:50000G
□
「それじゃ……両方受けとくか」
かなり少ないと思ったが、来て早々だしこんなものだろう。
《クエストを受注しました!》
『それでは、ご健闘を!』
「ああ、ありがとう……次は商人ギルドか」
受付と冒険者ギルドを後にして、俺はマップを見る。
どうやら、ここから直ぐみたいだな。
☆
《商人ギルド》
「……はは、分かりやすい」
看板にはゲーム通貨『G』と、商人の職業アイコンが飾られた看板。
……自分の職業のギルドってのは、思いの外良いものだ。
何というか、特別感がある。
恐らくほとんど人も居ないだろうし――さっきよりはゆっくり見れるだろう。
もしかしたら俺より先に来ている商人もいるかもしれない――
そんな淡い期待を抱きながら、俺はその中へ入っていった。
☆
《商人ギルドへようこそ!ここでは商人専用のクエストをNPCから受ける事が出来ます》
《今はまだレベルが低い為クエストが少ないですが、レベルが上がるにつれ様々なクエストを受けられるようになります》
《また、クエスト掲示板はありませんが代わりに取引掲示板があります。ご活用ください》
冒険者ギルドに比べて上品な、落ち着いた内装。
商人らしい、好みな眺め。
本来なら――ゆっくりと、見て回りたかった。
――でも。
「――え、おい!あれ――」
「商人じゃん!」
「おいおい、商人ギルドに商人が居るぞ!」
《かいと 神官 LEVEL36》
《シンヤ 戦士 LEVEL39》
《FIRE 魔術師 LEVEL43》
アナウンス、そして聞こえるプレイヤーの声。
一瞬、思考が纏まらなかった。
どうして――『他職』の奴らがここで寛いでいるのか。
数にして同じ様な集団が三つほど。
まるで、ここが普段の居場所であるかのような。
「声でかいってお前」
「ははっ、取引掲示板専用ギルドじゃなかったんだな」
「邪魔だからどっか行ってくれねえかな」
「な、ここ人少なくて良いもんな~」
声の中。
ようやく頭が思考を始める。
……そうか、取引掲示板があるからか。
人が少ないこの場所は、たむろするのに良い場所なんだろう。
……外じゃなく、建物内だし。
そうだよな。
勝手に――商人ギルドが、商人の居場所だと決めつけていた俺が悪かった。
「マジで俺初めて見たわ」
「チッ、さっさとどっか行けよ」
「ハハハ、馬鹿!ここ一応商人ギルドだっての」
……その目は、その声は――『商人』の扱いを今一度、知らしめる様なモノだった。
蔑むような。
薄ら笑いの。
舐められた様な。
《――「ニシキさん、今までありがとうございました」――》
フラッシュバック。
あの時――未だに濃く残っている、ギルドマスターの目。
「……っ」
これまでは、外だから良かった。
でも――この閉鎖空間で。
楽しみにしていた、新しい居場所の『商人ギルド』だから。
「なんかずっと動いてなくね?」
「おいおい俺達邪魔なんじゃねーの」
「ははっ、邪魔なのはアイツらの職業だろ――『寄生』だし」
聞こえたくないのに、その小さな声は大きく俺の頭に響く。
――もう、限界だった。
思わず俺は、脚を後ろに――
《――「なあシルバー、商人って職業楽しいか?」――》
《――「!はい!最高です!」――》
瞬間――上書きされる記憶。
シルバーとの会話。
あの時……俺は彼女に、何よりもクエストを楽しんで欲しくて。
そして――その時俺も、心の底から初めて、この職業で良かったと思ったんだ。
商人であるシルバーが、商人である事を楽しいと言ってくれたから。
「……」
――もし。
俺が、ここで逃げてしまったら。
この職業を……シルバーのあの笑顔を、裏切ってしまう気がした。
何よりも――王都へ到達していない、後続の同職達に同じ思いをして欲しくなくて。
「……お、おい来るぞ」
「マジかよ」
「こわ」
刺さる視線を受けながら、俺は中を歩いていく。
ゆっくりと。
ここは、自分の居場所でもあるかの様に。
「――おい!なあアンタ!邪魔だからどっか行ってくれね?」
「や、やめとけって――」
「チッ!目触りなんだよ、『
突然、近付いて来たプレイヤー。止める者も居たが止まらず続けて罵声を浴びせてくる。
大丈夫。
進んだ時点で、覚悟は出来ていた。
「……商人が、商人ギルドに居て可笑しいか?」
「――あ?」
「君がここに居るのには何も言わない。だが、俺がここに居るのにどうして文句が要るんだ?」
「な、何だと……!?」
俺は静かに、彼にそう言う。
この建物内の空気が――凍った気がした。
でも、構わない。
俺は――そのまま口を開く。
「――ここに来るまで、俺は色んなプレイヤーに助けられてきた。でも――『寄生』はしていない」
「昔はきっと迷惑をかけてきただろう。俺もそうだし、恥ずかしいが寄生もしてきた」
一歩。
「でも――今、商人はもうろくにパーティーに入れない。寄生なんて、『したくても出来ない』」
足を前に。
これまでを思い出しながら――
「つまり。俺も、ここへ俺の後に来る同職達も――きっと必死に、自力で這い上がって来た者達だ」
冷やかしの彼に、そう続ける。
そして俺は腰の魂斧を取り出し、刃を前に向けた。
PK職に向ける様な、ありったけの殺意を込めて。
「だから――二度とその蔑称で、『俺達』を呼ばないでくれ。今、自分に文句があるなら、決闘でも何でも受けるから」
「ッ――うあッ!」
仰け反り――尻餅を着いた彼。
もう、話す事も無いだろう。
闘う気も無いようだしな。
「――それじゃ」
何とも言えない雰囲気に包まれる商人ギルド。
流石に、この中でゆっくり見て回るのは出来ないが――もう、十分だ。
次来る時には、少なくとも突っかかってきた彼は居ない事だろう。
《商人ギルドから移動しました》
「……ふう」
大きく息を吐く。
解放感が凄まじい。何というか、自分らしくない事をやっている気がする。
でも、スッキリした。アレに言わないよりは良い結果になっただろう。
……少しづつでも、同職の居心地の良い場所を作れればいいんだけどな。
「――よし!クエストついでに、戦闘フィールドにでも行くか」
心機一転。
俺は、王都のモンスター達に向けて歩き出した。
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