剥がれる仮面①


《通常フィールドに移動します》


《ラロシアアイスに移動しました》



「……や、やったー☆やりましたよ皆さん!!」



『かわE』『かわよかわよ』『かわいい』『その笑顔が見たかった』『おめでとう~!』『いやあ良かったよ』『いつの間にかめっちゃ視聴者増えてる』



「うふふ~☆皆さんありがとうございます☆」



応援してくれていたリスナーに頭を下げる。

途中までの酷い配信を耐えながら見てくれた皆には、申し訳ない気持ちしかない。


……でも。『彼』のおかげで、それは一変した訳で。


こんなに楽しい戦闘は――久しぶりだった。

特に最後の止めは、冗談ではなく生涯で一番気持ち良かった一射だったかも。



「ニシキさーん!やりましたよ私!!」



フィールドに戻った後ニシキ君に駆け寄った。

一番伝えたかったし、褒めてもらいたかった相手だからだ。


……上司だという事は、この際忘れて。



「ははは、お疲れハル。良いラストショットだったよ」


「ありがとうございます!あの刀?といい、足を斬った一撃といい凄かったですよ!」


「褒め過ぎだ、別に何も一撃で斬った訳じゃないからな」


「いやいや!ニシキさんが居なかったら――」



二人でワイワイと話していく中。


……一人、忘れている人物が居た。



「――おい、もう一回行くぞ」



不服そうに、そして小さな声でそう言うカズ。



「え?いやもう討伐出来たので……」


「そうだな、もう終わりで――」



私とニシキ君でそう返す、が……



「――ああ!?俺が全く活躍してないだろうが!報酬もねえし――」


「――それに、ハルと俺は関係あるのか?」


「……は?」


「あの、大鹿が巨大化した時……あそこで君が――」


「――う、うるせえッそもそも素人が俺に口出しすんじゃねえよ!」


「俺には、君がとても『プロ』とは思えないけどな……」


「あ、ああ!?今何つった――」



口論の果て、嘆くように言ったニシキ君に突っかかるカズ。


……正直、胸がスカッとした私がいる。

このカズという男は、配信者ではあるものの……プレイは馬鹿にしている『素人』以下だ。


それはニシキ君が証明した。

……何より、配信者だからって他のプレイヤーより凄いって考えがおかしいのよ。



「く、クソが。コメントもお前らも好き勝手言いやがって……!俺はな!あの『舞月』とも繋がりが――」



そう、『そのギルド』の名前を出した時だった。

まるでそれを引き金にした様に、彼の背後に現れる影。



《???  level???》



その影は、プレイヤーだった。

黒髪、中肉中背の男。

顔も姿も、何もかも特徴の無い見た目。それでも確かに存在感がある。



「……ちょっと、良いかな?」



そんな彼から発せられたのは、優しい声。


この見晴らしのいい氷雪の土地で、全く気付かなかった。

私達が気付いたのは、カズの肩に手を置いた後。



「!?――あ、あ?だ、誰だてめ……」



正直、不気味だった。

名前もレベルも不明。……何となく分かる、『普通』じゃない。


でも、覇気のないこのNPCのような顔。

分からない。

この人物が一体何者なのか。



「……さっき、舞月って言葉が聞こえたもので」


「ああ?お前には関係ねえだろうが!」


「はは、ごめんね。実は彼女の配信を見ていて。君は今日舞月ギルドの者達と約束して、ここに挑むつもりだったのだろう?」



終始腰を低くした態度で、ボスエリアに顔を向ける彼。



「……あ、ああ!そうさ!」


「はは、そっか。えっと……カズキングさん?君は凄いんだね」


「ああ?当たり前だろうが!!俺は有名配信者の――」


「――いやあ、そこまで潔く嘘を付けるなんて、って思って」



調子に乗ったカズに、食い気味でそう告げる謎の男。


この時、彼の言葉で空気が凍った気がした。



「……は?何言ってんだよお前」


「いやあ、言った通りなんだけど。はは、そうだなあ……証拠とかあるのかい?」


「!……ハッ、疑ってんのかよこの俺を!」


「だと言ったら?」


「他所から出てきた素人が――もし俺が嘘を付いてなかったら、どうなるってんだ?ああ?」


「はは。もし、本当にそうであれば……」



彼に向けて、カズは詰め寄ってそう問う。

対して変わらず顔を変えない謎の男。

そして――



「――このゲームをきっぱり辞めよう。この卑怯に隠している名前も公表するよ。もし僕を見つけたのなら、その時は後ろ指を指してもらっていい。君の配信が何よりの証拠だ」



そう、ハッキリと言ってのけたのだった。

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