亡霊の魂斧②


場所はラロシアアイス、戦闘エリア。

相変わらず人が多い。この時間だから尚更ではあるんだが。



……まあでも、一人なら大した問題じゃない。悲しいけど。


で。

この新武器を試すにあたり、とりあえずこの辺りで一番相手しやすい……



《アイスウルフ level22》



コイツだ。



『グルル……』


……気のせいか、若干不服そうに見えるが。



「やっぱり、ちょっと重く感じるな」



これまでの要求STRよりかなり多くなったせいだろう。

その見た目もあって、魂斧は大分手にずっしりと来る。


……これは少し、慣れが必要かもしれない。




『グルァ……』


《経験値を獲得しました》



三体目のアイスウルフを討伐。

経験値も流石にあまり入ってこない……が、今は良い。



「……これはまた、調整がいるな……」



思わず嘆く。

魂斧は、良くも悪くもかなりモノが違う。


今までのスチールアックスよりリーチが少し長いし、重い。

普通なら些細な事かもしれないが――特に『反射』スキルを使って、かつ急所を狙いに行く俺のプレイスタイルには大きい違いだった。


……でも。

ベアーとクマー、二人が俺の為に作ってくれたんだ。

初めて手にするソレの重みは、とても嬉しいモノだった。



「使いこなさなきゃ、意味無いよな」




《Reflect!》


《経験値を獲得しました》


「……ふう」



ラロシアアイス、アイススライムからバーバヤーガまで一周。

……残念ながら赤いスライムは出なかったが。


やはりネックは『反射』だ。

それでも――何度もやっていくと、意外と慣れてくる。

もう深夜ではあるんだが……最後に、取っておいたアレだ。



「『黒の変質』……確かめるのは――ココしかないよな」



何となく、これを試すのは全てが終わってからが良かった。

俺もまだまだ少年心が残っているらしい……正直、結構楽しみな自分が居る。



「――行くか。亡霊と戦うのも最後かな」



……もうアイツも、飽き飽きしてるかもしれない。

正直俺も――何て事は無いのが、コイツの凄い所なんだけど。


レベルも上がって装備が良いモノになっていって、それでも戦い甲斐がある。もちろん最初より格段に楽にはなったが。


亡霊は、戦闘の楽しさを一番感じさせてくれるモンスターだ。



《パーティメンバーを確認》


《ボスフィールドに移動します》





《氷雪の亡霊 level30》


『――!――!!――!!』



体力が三割になり、矢と魔法の同時攻撃が襲い掛かってくる。

手数二倍、威力二倍。


近付いていないのは、勿論わざと。



《Reflect!》

《Reflect!》

《Reflect!》



矢を避けながら、遅れてくる黒い火の玉を打ち返す。

それを三回。


多いように見えても、コイツの連打がかなり早いため過ぎ行く時間は一瞬だ。



『――!』



反射された火の玉は、亡霊が変質させた小刀で打ち消す。

……流石に食らってくれないよな。



『――殺ス』


「はは、楽しいな……っと」



物騒な声だが、俺にはもはや落ち着く声だった。



《Reflect!》

《Reflect!》

《Reflect!》



攻撃を反射しながら、過去を思い出す。

お前が居なければ――俺はこの左腕を一生使っていなかったかもしれない。



「……ありがとな」



この、現実じゃ傷だらけの――幼少から否定され続けた『左』は。

RLを通して、生き返ってくれたんだ。


それは傍から見れば不幸な事かもしれないが……少なくとも俺は、今が楽しくて仕方が無い。



「さて――最後に試させて貰おうか」


『――!!!』



矢と火の玉の雨を超えて近付くと、亡霊はその杖と弓を刀二本に形を変えた。



「ぐっ――」


『――!』



久し振りの一撃を右腕で受ける。

正直、わざと攻撃を受けるのは本意じゃないがしょうがない。



「っ――」


『――……!?』



《体力が一定値以下となった為、黒の変質が発動します》



やがて、そのアナウンスが流れる。

同時に――左腕に、途轍もない力が流れていくのを感じた。


そして……まるで溶けていく様に形を変えていくソレ。

どろどろと。まるでそれは、最初からそうであったかの様に。

目の前の亡霊は――いつの間にか、後ろへと引き下がっていた。



「何だよ、これ――」



この手に持つ武器が、自分のモノだと思えない。

禍々しさが勝っていた前の見た目とは相対的に、周囲の目を奪い取る様な美しさを放つそれ。


思わず身惚れてしまう、そんな武器。


そして同時に――俺の過去の中のある人物が蘇る。



《――「また会おう、『錦』」――》




――――それは、『最強』。



現実世界で、幼少から憧れ続けた。

血が繋がっているのが奇跡だと思える程の人。


――そんな彼が持ち、振るっていた武器へと形を変えていたのだった。






《経験値を取得しました》


《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》


《亡霊の魂の欠片を取得しました》


《通常フィールドへと移動しました》


《非戦闘エリアへと移動します》



流れるアナウンス。

俺は――ステータスを振る事も無く、グリーンソルデへと移動する。


試したい。

あれから……身体が燃えるように熱い。



これで――PK職と、闘いたい。

その一心で俺は行商クエストに赴くのだった。

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