弱肉強食①


「……おい!裏提示板見ろよ!!『行商クエスト』があるぞ!」


「は?今のRLにそんな美味しいのがあるわけ――あるじゃねえか!」


「な?だから言っただろ!……しかもかよ!?コイツ正気か……?」




RLのある、薄暗いエリア。

そしてそこに居るプレイヤー達。


一定の条件を満たした場合にのみ転職できる、『裏』職……PK職。


『暗黒騎士』

『盗賊』

『狂人』

『暗黒神官』

『暗殺者』


……etc。

そのどれもが、対人戦を有利とする職業だ。

プレイヤーをPKし、経験値とアイテムを奪う者達。


RealLifeOnline。

モンスターを倒し未開の世界を切り拓く――そんな遊びが普通……しかし、RLは『普通じゃない』遊びも大歓迎だった。


それが、世界からは『悪』と呼ばれるモノであっても――



「ハハ、一人って事は護衛無しの商人単体か?」


「……いやあ、何か『カモ』過ぎて怖いな」


「はあ?何言ってんだよ、お前が行かないなら埋まる前に行くわ。報酬馬鹿うめーんだよなコレ」


「せ、セコいぞ!俺が見つけたんだから!!」


「ああ?」



PK職業のみが扱えるPK職専用クエスト提示板。通称裏提示板。


PK職は、『乱入可能なクエスト』をそれで探す。


『乱入』とは、プレイヤーが専用フィールドにてクエストを行っている中、そこに文字通り乱入し、PK出来るというもの。

各クエストにランダムでそれは現れ、PK職達はそれにエントリーする。そして抽選で選ばれた者……及びパーティーがそのクエストに乱入するというわけだ。



『行商』も――その一つ。

そしてこのRLで、一番人気とも言えるものだった。


報酬Gが多いという事もあるが――人気の理由は、その難易度だ。

商人というお荷物を抱えているせいか、実質PK職側は一人参加人数が多いようなモノ。



《『行商クエストⅡ』にマッチしました。一分後に転送されます》



そのアナウンスが、一人の頭に響く。




「――!!!やった来た!俺だ!!」


「はあ!?」


「へへっ悪い、じゃあな!ちょっと稼がせて貰うわ!!」


「クソッ!!俺が見つけたんだからな!!一割寄こせよ!」




騒ぎ立てる二人の内、一人が転送されていった。


その顔は、敗北のイメージは無い。

実際――これまで、『行商』でのクエスト達成は、このRLではつい一週間前の、しか成功例が無いのだから。



「……ふう。まずは『地獄耳』発動と」



彼の職業は『暗殺者』。


敵を一早く発見し、奇襲によりプレイヤーキルを行うのが主なパターンの職業だ。

そして地獄耳スキルは、その名の通り聴力を強化し、自身以外のプレイヤーの足音を聞く事が出来るもの。


(……そこか。意外と近いな。まあでも、そんな慎重に動かなくて良いだろ)


距離にしておよそ百メートル。

彼は、そこへ警戒もせず足を進める。



……自身が狩られる側とも知らずに。



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