卒業式

@kanzakiyato

第一話 卒業式

私は今、同窓会に来ている。高校の同窓会だ。

本当は来たくなかったが、高校生の時にお世話になった先生方も来るという事で渋々参加している。あまりこういった場所は苦手だ。

裏では悪口や陰口を言っていたり、言われてるくせに、久しぶりに会えば、

甲高い声で「久しぶり〜!!!!」なんて。その甲高い声を聞いてると頭が痛くなる。


私は一人隅っこで縮こまりながら、ものすごく度数の弱い酒を呑んでいる。

「はぁ。やっぱりこんなとこ来るんじゃ無かった...」

小さい頃から人混みとかが苦手でいつも独りで過ごしていた。そのせいか

「陰キャ」「根暗」など色々なあだ名がついた。


....不本意ではあるが、まぁ、陰キャはあながち間違ってはない。

それでも私は学校に行った。別に虐められてる訳でも、

差別、軽蔑されていると言う訳ではないし、

まぁ、勉強しか取り柄がないからという事もあるが、

九割の理由が、自分自身の成績が危ないからだ。

成績を良くするために毎日必死に勉強して、学校も無遅刻無欠席で通った。


「久しぶり。蒼ちゃん。」

そう声が聞こえたので振り向くと、私の幼馴染であり、大親友の裕ちゃんだった


「蒼ちゃんは何年経っても変わらないね。」

「そう?」

「うん。全然変わらない。」

「そう言う裕ちゃんは結構変わったね。見た目とか。」


そう。裕ちゃんは私と同じの陰キャで根暗だったのだ。


「こうやって会うのも何年振り?」

「高校卒業してからそのまま別々になったからね。かれこれ4年振りじゃない?」

「そっかぁ。4年振りかぁ。」

「うん。高校の最後はうちほとんど行かなかったけど、

 家が隣同士だから毎日会ってたしね。」

「そうだ。覚えてる?高2の時の調理実習」

「あー。覚えてる。確かあれでしょ。うちらの担任が料理下手すぎて不味い料理を作った時でしょ?」

「そうそう!『先生は料理が得意ですので。』とか言ってたくせに、シチューで作り方失敗してジャ〇〇ンみたいなシチューができたんだよね。」

「そうそう。あれ、まじで不味かったよね。この世の終わりってぐらい不味かった。」

「わかる〜!」


久しぶりに会った幼馴染の裕ちゃんとの思い出話や他愛のない話についつい盛り上がってしまった。気がつけば会場にはほとんど誰もいなかった。もうそんな時間か。と思い時計を見れば、もう10時を過ぎている。


「あ、やばもうすぐで終電だ。」

「もうそんな時間?蒼ちゃんと話してるとあっという間に時間が過ぎてくね」

「本当にね。」

「じゃあ、ウチこっちだから。裕ちゃんまたね。」

「うん。蒼ちゃんも。」


裕ちゃんの姿が見えなくなるまで見送った後、私はゆっくり歩いた。

「そういえば。高校の卒業式、裕ちゃんと一緒に出てないんだよなぁ、、、」


私は高校二年生の後半あたりから不登校になり、卒業式にも出なかったのだ。

なので、久しぶりに着た制服はコスプレみたいになっていた。

大好きな先生方からのお誘いだとしても、やはり、久しぶりに学校に行くのは気が引けた。でも、その先生方が私のためだけに卒業式をやってくるらしいので、渋々学校へ行ったのだ。高校時代にお世話になったのに感謝の言葉も伝えていないので、その意味を込めて、大好きな先生方三人に手紙を書いた。その先生方は私が不登校になって学校に来なくなっても、今まで通り変わらず接してくれた。その先生方はどんなことをしても無反応な先生方なので、手紙を渡したらどんな反応をするのか少し楽しみだ。高校には最寄駅からバスに乗っていく。いつものバスに乗って、窓の外を見ながら高校に行くのがいつもの日課だった。その日は卒業式なので、窓の外を見れば、同級生が胸に卒業花を付け、満面の笑みで駅に向かっている。そこには裕ちゃんの姿もあった。それを見てつい涙が出そうだった。本来ならばみんなと一緒に私も卒業する予定だったのに。どうして私だけ。

思い出してみれば、辛いことばかりではなかった。むしろ楽しいことがたくさんあった。ただ、漫画に出てきそうな人を虐めるのが好きな女子軍団に濡れ衣を被せられ、階段から突き落とされたのだ。そこから学校へ行きにくくなり、不登校になった。本当は一人だったとしても卒業式をしない予定だったのだ。

でもこのままではダメだと思い卒業式に参加した。

廊下を通れば空っぽの教室。よくみれば廊下側の一番後ろにある机に落書きが書いてあった。その落書きは移動教室の時、私と裕ちゃんがこっそり思い出として書いていたものだった。


「懐かしい、、、ここに落書きしてよく怒られてたなぁ、、、」


懐かしい移動教室の前を通り、私の教室に着く。ドアを開ければ、大好きな先生方が、たくさんいた。嬉しい気持ちと感謝の気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいで、今まで堪えていた涙が一気に溢れ出た。


「卒業おめでとう。蒼弥さん。」

「おう、イノシシ!卒業おめでとな!」

「よく頑張ったな。蒼弥。」


一ノ瀬先生に続き、久保賀先生、五十嵐先生とお祝いの言葉を言った。

よく見てみれば先生方も泣いている。


「イノシシ!よく頑張ったぞ!お疲れ!」

「誰がイノシシだよ。」

「蒼弥。そこの椅子座って。」

「はい。五十嵐先生。」

「卒業証書 授与 3年2組 青葉 蒼弥」

「はい!」

「おめでとう。」

「ありがとうございます。先生。」


卒業証書を貰っている時、後ろから先生方の啜り泣く声が聞こえた。

そして一人卒業式が終わり、帰りのバスに乗った。


「また帰ってきてください。」

「そうだぞイノシシ!」

「いつでも待ってるから。」


先生方はそう言っていた。卒業証書と一緒に手紙をもらった。その手紙を見たら、思わず泣いてしまった。家に帰った時目が赤かったので親からはとても心配された。


「ただいまぁ。。。って誰もいないんだけどね」


地元を離れ都内のマンションに一人で住んでいる為返事は来ない。

部屋着に着替えてふと先生たちからもらった手紙のことを思い出す。

一番最初に手に取った手紙はうちのことをイノシシと呼んでいた久保賀先生からの手紙だ。


「ふっ。久保賀先生は相変わらずうちの事イノシシ呼ばわりだし。」


再度手紙を読む。


「よしっ。いいとこ就職して先生たちに会いに行こう。」


そう思ったのが4年前。残念ながらいいとこには就職できなかったが、金がたくさん入ったので、母校に寄付しよう。 

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