第40話 半死にで書くのと全死にで書くのと大差ないさ

 報告書、って一応書かないといけないんだよね。


「適当でいいよ」


 って所長は言ってくれるけどさ。


『死因:鉄筋が口腔から咽喉を貫通』


 なんて案件があって、それをなんて書けない。


 わたしはそこまで異常じゃない。


 あ、そもそもこういう仕事に就いてることが異常なのかな。


捨無シャムさん。今日の日報、書けた?」

「はい。なんとか」

「読ませてね」


 そう言ってわたしの唯一の先輩にして絶対的指導者(カルトじゃないよ、わたしの職務上のね)である源田げんださんがわたしが日報フォルダに保存したワード文章を開いて読み耽る。


「・・・・・・新仏しんぼとけは検死に?」

「はい。一応は事故のセンも当たるそうです」

「廃校になった小学校に夜中に侵入して壊れたブロック塀から真上に剥き出しになってそそり立ってる鉄筋の錆びた棒に真上から正確に大きく口を開けて倒れこんだ状況が?事故ですって?」

「一応は検証するそうです。源田さん」

「なに」

「自殺としてもこういう死に方、普通は選びませんよね」

「シャムさん!」

「は、はい」

「『人の死にたい理由を決して否定しないこと』って入所初日にわたし何度も言ったでしょう!?」

「は、はい。お、覚えてます」

「ひとつ、死にたい理由に汎用なし!ふたつ、死にたい理由に軽重なし!みっつ、死にたい人は悪くなくてその人に『死にたい』と思わせてる人間が悪い!」

「は、はいっ!」

「でも今日のはなかなかいい文章ですよ、シャムさん」

「あ、ありがとうございます」

「5万部は売れるわ」


 わたしたちの書く日報を所長は『小説みたいだ』っていつも評してくれる。でもそれって源田さんもわたしも極めて冷静に客観的に事実に基づいてできる限り分かりやすい文体で書いてるだけなんだけど、やっぱりわたしはこう結論付けざるを得ない。


「生きてることがプロットですから」

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