第31話 朝と夜とどっちが辛い?
わたしは断然朝だね。朝が死ぬほど辛いっていうレベルを通り越して朝早くに目が覚めたら死にたくなる。
早朝覚醒、って病気用語では言うんだよね。覚醒なんて魔王にでもなったみたいな物言いだけどね。
あ、でも、いわゆる魔王が出てきたり異世界へ転生したりダンプに跳ねられたりっていう小説はこういう感覚が常に潮流として蠢いているのかもしれないね。通して最後まで読んだこと一度もないけど。
でもこのアパートに引っ越してきてからは勝手が違うんだよね。
「うあっ!」
ってわたしが204号室でそれこそ化学反応で覚醒でもしたみたいな声を明け方に上げるとさ、ヴッ、ってスマホが振動するんだよね。
『ゲンム:やかましい!
ってLINEで叱られる。
まあね、言語障碍ドラマーの
いや・・・・・健常者?
わたしが?
どこが?
一体なにが苦しくて悲しくて明け方に死にたい死にたい死にたいなんて万歳三唱みたいに三べん唱えるわたしのどこが健常者だっていうんだろう。
わたしだけじゃないよ。
いじめに遭ってる子って健常者?
いじめてる子も健常者?
オタクは健常者?
パワハラする奴健常者?
汚職する政治家って健常者?
年間所得が衣食住賄えない労働者は健常者?
健常って、なに?
健康な常識者ってこと?
常識者っていうならその反義語は障碍者じゃないよね、異常者だよね。
大体にしてわたしが住まうこのアパートの見猿言わ猿聞か猿の3人娘ちゃんたちはわたしなんかより遥かに常識人で強くて優しくておまけに綺麗でかわいいときたもんだ。
そう言われたら異世界って実は常識的なんじゃないの?
過酷過酷と言ったってとにかく物語は進むわけでしょ?
進まないもん、わたしの人生。
滞ってさ、晩には嫌だけどまだ死にたいほどまでじゃなくって一夜明けたらたとえば応募してた小説の受賞がサイトで発表されてるかもしれないとかいう、もうちょっともうちょっとみたいなのが永遠に続いて。
「シャムチャン」
あれ?
「
部屋の引き戸を開けて立っていたのは203号の聴覚障碍ギタリストのチョウノちゃんだった。
「シャムチャン、ダイジョウブ?」
彼女はわたしの唇の動きを読んでわたしの喋っている言葉を理解し、耳が聴こえないにもかかわらず小さな頃から死ぬほど訓練してきた発声術でわたしに話しかける。
「シャムチャン、ツラインダネ」
一瞬でわたしは泣いたよ。
号泣だよ。
『ゲンム:やかましい!さっさと安眠しやがれ!』
ゲンム。慰めてくれてんだよね。
201号、視覚障碍ピアニストの
わたしは唇を動かした。
「サティ」
そうしてそれを観たチョウノちゃんが、答えてくれた。
「ジムノペティ」
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