第24話 現実的って言葉に惑わされちゃいけないね
連休だからってゆっくり横になってられないんだよね。なぜかっていうとさ、捨てない女だからさわたしは。
拾うモノを求めて街をさまよう。
「デモ、なんだね」
デパートに隣接した全天候型のイベントスペースは横からの暴風雨は入って来るけど、楽器メーカーというよりは今や楽曲アプリメーカーになった企業の新型モデルのデモンストレーションが敢行されてたんだよね。感染症の問題があるから客席のパイプ椅子はモザイク模様みたいに交互にスペースを確保して並べられてさ。
メインアクトとして出て来たのはやっぱり楽曲アプリとタブレットを使ってトラックを数十から数百重ねて曲を作り、アニメ作家とのコラボレーションで数億回の再生回数を実現するとても若い女の子と男の子だったよ。
男の子の方はいつも動画でやってるみたいにマニピュレートしてるPCの前で軽くダンスっぽい動きをして女の子の方はそのPAから出る音をバックにマイクで聞き取れないほどの深刻ぽい言葉を拾い集めた歌詞を歌う。
「スネアの音が生のドラムみたいだね」
とっさにわたしは思ったよ。
言語障碍者のドラマー、
その時、横からの光がわたしたちの背中をフラッシュしたよ。
「あれ?」
プログラミングによって自動演奏される曲をバックに歌っていた女の子がかわいらしく、あれ?、って言うとさ、音が消えるんじゃなくて、鮮やかによみがえった。
ドゴゴゴォォォーーンンン!
「雷だ」
雷で電子機器がダウンするなんて光景を随分と久しぶりに見たけど、女の子の歌もPCから流れてくる曲も聴こえなくなって、だから余計にこう感じたんだよねわたしは。
「雨音が綺麗」
それからこうも。
「雷鳴がバスドラみたい」
それでね。聴きに来てる子たちも若いにもほどがあるってほど若い子たちばかりなんだけど、全員スマホ見始めたんだよね。一番後ろで立ち見してたわたしの前に座ってる女子がこう言いながらスマホをタップしてる。
「つまんね・・・と。機転利かなくて草・・・と」
なんだこの子。
いやいや、凡庸なこの子たちならこんなもんなんだろう。待つ、ってことをせずに済んできたんだろうからね。だから動画と一緒に音楽やる子は自活するのを待つことなく自分の世界観を発信できるしね。
世界観を全世界に。
なんか詭弁みたいだな。
「じゃあ、行きます」
ステージからそう声がして出て来たのはスタッフジャンパーを着た40歳ぐらいかな、っていう見た目の男の人だったんだよね。そうしてね、キーボードの乗ったスタンドをガラガラ引いて来てさ、
「機材の不具合でご迷惑をおかけします。少し古いモデルになりますが当社の製品のデモ演奏をわたしの方でさせて頂きます。今しばらくご容赦ください」
彼がメインで弾くキーボードはそこまで古いものじゃなかったけど、それ以外に彼自らがセッティングした機材は古いなんてもんじゃなかったね。
わたしが過去世・・・っと、あぶないあぶない。忘れてね。
わたしが昔聴いたアーティストが使ってたシンセサイザーに小さなシーケンサーを乗っけてて、そうしてね、アナログなリズムボックスが・・・リズムボックスにアナログなんて言い方も変だけどさ、でも、ひとり短いリハをやる彼が出したそのバスドラとスネアの音は、明らかに生ドラムとは違う音なのに、ものすごいリアリティがあった。
だって、その一音で、会場の子たちがスマホから目を上げたもん。
「TOTOの『子供の
鼓動を打ち消す迫力を持つリズムボックスの音にシーケンサーで演奏されるシンセベースが重なって、ボン、と響き、そうして彼のリードシンセが彼の指の圧力で一瞬で脳の被膜に染み尽くす主旋律を奏でた。
彼はこのイベントに随行したメーカーのいち技術スタッフ。
なのに、この素晴らしい曲を、もっとも美しく弾く資格があるのは、まさしくこのひとだって思ったよ。
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