第5話 ぞんざいに扱われたらぜんざいでも食べなよ
時折り橋の上に佇みたくなることってあるよね。
たいていはめちゃくちゃにされた時とかね。
『・・・死にたい』
「顔に出てるよ」
「えっ」
「ふふん。カマかけ」
ほんとに顔に出てたけど分かってないフリしてあげたんだよね。
ほんとに死にたくならないようにね。
「橋の上、好き?」
「別に」
「小学生・・・中学生かな?」
「高校です」
「ごめん。女の子に失礼だったね」
「・・・・・あなたは?」
「捨てること無し、で
「
ちょうど夕焼けでさ。
風が冷たいけどこの子となら何時間でも眺めていたいかな。
「悩み聞くよ」
「え」
「っと、待って。『生きてることが悩み』ってのは無しだよ」
「ふ」
笑ってくれた。
なんだかな。このちっこい高校生の彼女が笑うと、わたしも嬉しくなったよ。
「先読みしすぎちゃうんです」
「ふうん。石橋叩いて、ってこと?」
「ううん。こんな風にしたらあの人困るんじゃないかとか」
「うん」
「わたしが言ったひとことであの人が死んじゃったらどうしようとか」
「そっか」
「あれ?」
「なに」
「シャムさん、否定しないんですね」
「なにを?」
「『そんなの考え過ぎだ』とか、『自意識過剰だ』とかって」
「わたしに言わせたらレンカ以外の子たちが鈍感すぎるんだよ。だってさ、もしぞんざいに対応した相手がもの凄くカラダもココロも疲れ切っててさ、今にも死にたいって思ってたらほんとに死んじゃうかもしれないもん」
そうなんだよ。
明け方に布団の隣で泣いてたそのひとが手を伸ばして来た時。
握ってあげなくて、死んじゃった。
「レンカ。夕陽は綺麗だけどもう沈んじゃうし寒いし、ココアでも飲まない?わたしお給料が入ったから」
「あ。シャムさんって働いてるんですね」
「墓掘りの仕事」
「!?」
じょうだんじょうだん
・・・・・・かな?
わたしたちは橋を渡り切った所にあるハンバーガー屋でほぼ誰も頼まないホットココアをふたりで飲んだ。珍しくわたしが他人にごちそうしてあげた。
レンカはいたく喜んでさ。
「また遭えますか?ケータイとか教えてもらっても?」
「持ってないんだ」
「わ」
「ダメかな?」
「ダメじゃないですけど、ちょっとびっくり」
「来週の今日が夕焼けだからさ。遭おうか。橋の上で」
「はい。くすくす」
「なに」
「雨かも」
来週の今日になって、互いの言うことがどっちとも当たった。
「綺麗ですね雨上がり」
「レンカ。虹だよ」
雨は川を濁流にする前に、さあっ、と上がって、明るすぎる日差しが実現されて、半月みたいに橋桁なく宙空に浮かんだような虹を作り。
それが消えたら輝く日差しのままオレンジ色に徐々に暮れゆく。
暮れゆく街並み。
「レンカ」
「はい」
「他の誰にも穢されちゃダメだよ」
「えっ」
「レンカをめちゃくちゃにするのは、わたしだから」
黙ること、数秒。
「あっはっはっは!」
レンカはケラケラと笑って、夕陽の色だか肌の色だか分かんないほど頬が真っ赤になってこう言ったよ。
「シャムの、えっち」
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