in flower

春嵐

in flower

 なんとなく、人から、遠ざけられるような人間だった。どこが、というわけでもない。


「遠くから見たらイケメンなんだけどなあ」


 よく言われる。


「近付きたいとは思わねえんだよな。なんでだろ」


「仕事行くぞ」


「おう」


 フルフェイスヘルメットの同僚。正義の味方という仕事柄、組んで任務に赴くことも多い。正義の味方には、べつに遠ざけられているわけでもない。普通に近寄ってくるやつらもいる。


「最近、女の子とは、どうよ。仲良くやってんの?」


「わからん」


 実際、分からない。


「ふうん」


 初めて逢ったのは、河原の土手。

 彼女は、ひとりでしゃがんで、花を見ていた。

 近付くとこわがられるので、その姿をぼうっと眺めていたら。彼女のほうから近付いてきて。それからの仲。


「わたし、花なんです」


 それが彼女の口癖だった。花だから。

 ちまたによくいる、ゆるふわ系の何言ってるか分からない系なのかと、思った。

 違った。

 人を惹き付ける体質。老若男女問わず、誰かを寄せ付けてしまう。それが彼女だった。だから、花。花粉を運んでもらうために、甘い蜜で誘う。


「ひとりでいるのが好きです」


 彼女がそう言ったので、河原に行って彼女に会うのをやめた。

 そうしたら、こうなった。


「おっ。そっち行ったぞ?」


「おう」


 フルフェイスヘルメットの同僚。

 あの中身が、彼女。

 本人は完璧に素性を隠している気だろうが、普通に、ばればれだった。顔を隠しても体型が隠せていない。ボディラインが、そのまままるごと彼女だった。


「よっし。いいだろ、これで」


「へへ」


 まあ、彼女が楽しそうなので、自分も知らないふりをしている。


「その女の子さ。ひとりでいるのが好きって言ってんだろうけど、きっとさ、あなたの隣でひとりでいるのが好きとか、そんな感じなんじゃねえの?」


「よう分からんことを言うな。俺の隣にいたらひとりじゃなくてふたりだろうが」


「ああもう。そういう理屈はいいんだよ」


 彼女自身が言っている。それがおかしくて、ちょっと笑った。


「まあ、行ってみるよ。河原」


「そうか。そりゃあいい」


 明らかにうれしそうな素振りのフルフェイスヘルメット。彼女だった。

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in flower 春嵐 @aiot3110

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